劇的逆転劇の裏で消えた大谷翔平 満身創痍の二刀流…32歳が抱える葛藤、現場に漂った“空気”

パドレス戦に登板したドジャース・大谷翔平【写真:荒川祐史】
パドレス戦に登板したドジャース・大谷翔平【写真:荒川祐史】

7回1点リードの接戦も…右上腕二頭筋の違和感で途中交代となった

【MLB】ドジャース 4ー3 パドレス(日本時間4日・ロサンゼルス)

 ドジャースタジアムの記者席に、いつになく不穏な空気が漂った。

 7回1死、7番・テオスカー・ヘルナンデスの逆転満塁弾が飛び出した直後、9番の代打・エドマンが打席に入った時だ。大谷翔平投手の姿が、あるべきはずのネクストバッターズサークルになかった。日本人記者がポツリとつぶやく。

「あれ、いない……。何か怪我があったのか。左膝の違和感が再発したのか」

 今季は打者として81試合に出場。6試合で途中交代しているが、いずれも3点以上リードした試合で、この日のような1点を争う緊迫した試合展開でベンチに退くのは異例だった。思えば、ヘルナンデスが歓喜の逆転弾を放ちベンチがお祭り騒ぎになる中でも、大谷の姿は確認できなかった。何らかの異変が生じてベンチ裏で治療を受けていることは明らかだった。米メディアも一斉に「大谷、途中交代」のニュースを速報した。

 劇的な逆転勝利を飾った後も、大谷の姿はハイタッチの列になかった。途中交代から37分後、報道陣の前に姿を現した大谷の周りには、二重三重の人垣ができた。取材の焦点は、その「異変」に集中した。

「バイセップス(上腕二頭筋)がちょっと気になるところがあったので。最後の打席の後ですね。大事をとって、という感じです」

 大谷はいつもの淡々とした口調で、途中交代の理由を明かした。違和感を覚えたのは「右上腕二頭筋」。異変は6回1死一塁で迎えた第3打席中に起きたという。

 記者から「スイングの時に感じたのか、それとも投げている時か」と問われると、「スイングですね」と回答。さらに、これが初めての症状ではないことも明かした。

「1か月、2か月前ぐらいの練習でちょっと(違和感が)なったんですけど、その時は比較的早く良くはなったので。今回もそうじゃないかなと」

囲み取材中も治療する右上腕二頭筋を揉み込む大谷翔平【写真:小谷真弥】
囲み取材中も治療する右上腕二頭筋を揉み込む大谷翔平【写真:小谷真弥】

囲み取材中は右腕を覆うようにアイシング治療、患部を何度も揉み込む場面も

 登板後の大谷はいつもアイシング治療を行っているが、この日は取材中、アイシングで冷やされた右腕を自ら何度も強く揉み込んでいた。何気なく感じるような仕草かもしれないが、ちょっとした異変に映った。

 今年7月5日で32歳を迎える。超人的なパフォーマンスを続けているとはいえ、決して若くはなく、野球選手としてはすでにベテランの域に入っている。投打にわたって限界まで体を酷使する「二刀流」の疲労や蓄積は、想像を絶するものがあるはずだ。

 現在、ドジャースは地区首位を独走。この日の逆転勝ちで、地区2位のパドレスとダイヤモンドバックスに今季最大14ゲーム差をつけた。ロバーツ監督は試合後の会見で4日の試合を欠場させることを明言したが、その後の試合出場もチームに余裕があるからこそ、首脳陣が無理をさせないという選択肢もある。

 大谷は今後のプランへの影響を覚悟するように言葉を紡いだ。

「常に万全というか、自分にできるベストの状況というのを、その時々で準備したい。『休め』と言われたら、それに従うのもまた一つかなと思っています」

 実は、大谷が抱えているのは右腕の違和感だけではない。6月以降は「左膝」の問題も抱えながら強行出場を続けている。記者から身体の状態について突っ込まれると、大谷は胸の内に秘めていたリアルな葛藤をポロリとこぼした。

「100%でできてない、モヤモヤ感というか。そういうのももちろんありますけど。それでも継続して試合に出れてるっていうところに満足もしてますし。全体的に、100%で走り抜けてるっていう感覚ではないな、というシーズンではありますけど、前半戦としてはそこそこの出来なのかなと思ってます」

 万全からは程遠い満身創痍の状態で、チームのためにバットを振り、マウンドに立ち続ける。今後の試合出場は「監督の判断」としたが、「常に『出たい』という気持ちはもちろんあります」と前を向いた。前半戦の戦いも残り8試合。ユニコーンの闘志だけは衰えていなかった。

(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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