村上宗隆は「スピードボール苦手説」を払拭できたのか? “速球偏差値”が示した事実…復帰後に問われる真価

怪我からの復帰が待たれるホワイトソックス・村上宗隆【写真:ロイター】怪我からの復帰が待たれるホワイトソックス・村上宗隆【写真:ロイター】

速球に対して好成績を残している村上

 ホワイトソックスの村上宗隆内野手はここまで20本塁打、OPS.938と持ち味の打力を十分に発揮。現状は怪我からの復帰が待たれる状況ではあるが、渡米前から期待されていた長打力はMLBでも存在感を放っている。当初は「スピードボールへの対応」が懸念されていたが、怪我で離脱した5月末時点で、速球に対してMLBトップタイの13本の本塁打を放っているように、速球に対して好成績を残している。(データは5月末時点)

 村上はNPB時代からスピードボールを苦手にしており、NPBよりも平均球速が上がるMLBでは、それが致命傷になるのではという声も多かった。

 以下の図1は、村上の速球と変化球の対応についてメジャーでの偏差値をまとめたものだ。今回のテーマは打席単位ではなく投球単位での成績が論点となるので、ここではその1球がもたらした得点期待値の変動、すなわち得点価値を総合的な評価指標として扱う。

図1:速球はフォーシーム・シンカー・カットボール、変化球はそれ以外のボール速球はフォーシーム・シンカー・カットボール、変化球はそれ以外のボール

 どちらも傾向は似ているが、速球の方が変化球よりもBarrel率(高い得点価値が期待され、信頼度も高い打球速度・角度の打球の割合)の偏差値が際立っており、得点価値でも速球の方がむしろMLB内で抜きん出ている。

 一方、空振り率については速球の方が低い偏差値にとどまっており、渡米前の懸念もあながち外れてはいない。それでもここまでは、速球に対する空振り率のマイナス要素を、Barrel率に代表される打球価値や得点価値に含まれる選球のプラス要素が大きく上回っている状態だ。

 空振り率は、他指標と比較して観測値に対するノイズが小さく信頼できる指標。今回の村上のサンプルサイズに近い、投球数500球あたりの各指標にノイズが含まれる割合は空振り率が18%、Barrel率が40%、得点価値が74%ほど1。Barrel率も比較的信頼できるものの空振り率には劣る。

 その視点でみると、過去の事例が不安材料となる。過去5年の例を見ると、村上並みに空振りが多く、かつ村上並みに得点価値が高い打者は1人もいない。空振りの多さが村上に近い打者は存在するが、その大半は得点価値が平均前後かそれ以下で、両立できた例は見当たらない。

 最も近い打者が2025年のジャンカルロ・スタントン外野手で、それでも村上ほど極端ではない。このまま維持できれば特異的なシーズンとなるが、現実的には空振り率の改善は期待したいところだ。

フォーシームには優れた対応も…データが示した課題

 ここで扱う「速球」は、フォーシーム、シンカー(ツーシーム)、カットボールをまとめた大きな分類となる。以下の図2は村上の速球対応を、さらに細かい球種別に示したものである。

表1:村上の球種別偏差値。カットボールについてはサンプルサイズが小さい点に注意表1:村上の球種別偏差値。カットボールについてはサンプルサイズが小さい点に注意

 NPBでは速球と分類される球種の多くはフォーシームであり、渡米前の懸念もNPBでのフォーシームへの対応から推論しているものが多かった。しかし、ここまでの結果を見る限り、村上はフォーシームに対して、速球系の球種の中では優れた成績を残している。フォーシームに対する得点価値の偏差値は70に達しており、シンカーやカットボールを上回っているのだ。

 その一方、悪い意味で際立っているのはシンカーの空振り率だ。シンカーに対する空振り率の偏差値は8と大きく低く、速球対応の課題は、フォーシームよりも、むしろシンカーへの対応にあると言える。この差は球種への慣れという観点が影響しているかもしれない。MLBとNPBを比較すると、NPBの方がフォーシームの投球割合が高く、シンカーはMLBの方が高い。さらに、MLB球で投じられるシンカーは、NPB球と比較して沈みやすいとされる。

 MLBへの「慣れ」という観点では、フォーシームよりシンカーに注目するのが面白そうだ。

“優れた”フォーシームに対しての傑出度はやや控えめ

 では、フォーシームに対する懸念は解消されたと言えるだろうか。

 以下の表2は、フォーシームの価値において重要な変数である球速・縦変化量・投球コース(高さ)について、MLB全体の中央値で区分けした際の、村上の偏差値を示している。

表2:MLB全体としては、各項目で上の区分の方が空振り率は高く得点価値は低い表2:MLB全体としては、各項目で上の区分の方が空振り率は高く得点価値は低い

 渡米前の懸念事項の筆頭は、高速度帯のフォーシームへの対応。MLBでは、近年フォーシームの投球コースは高めが多くなっており、高めへの対応も懸念事項の一つであった。縦変化量については、MLB球よりNPB球の方が縦変化量が出やすいこともあり、相対的に苦手にならない可能性も考えられる。

 数値を確認すると、球速別では、152.2キロ以上のフォーシームに対する得点価値の偏差値は62で、152.2キロ未満の69を下回っている。また、投球コースでは高めの偏差値は57であり、低めコースの72を大きく下回っている。得点価値で見ると、懸念されていた傾向が、若干ではあるが確認できる。ただ先述したように得点価値は指標としてノイズが大きく、この値も幅をもって見る必要がある。その前提だと、苦手というほどの脆弱性は見えてこない。

 縦変化量は、40.8センチ以上のフォーシームに対する得点価値の偏差値は60であり、40.8センチ未満の70を下回っている。NPB球で観測される大きな縦変化を比較的得意にしているとは言えない。

 いずれにしても得点価値としては質の高い、優れたフォーシームへの対応が比較的傑出していないことが確認できる。ただし、空振り率の偏差値はどの区分においてもあまり差がなく、優れたフォーシームに対して、他の打者と比較しても目立った空振り率上昇があるわけではない。空振り率のノイズの小ささからも村上が質の高いフォーシームに脆弱性があるとは現時点では言えないだろう。

 ただ一方で、打球価値で他の打者に差をつける村上のような打者ほど打球イベントを失う影響が大きく、空振りを取られやすい質の高いフォーシームでは、同じ空振り率の偏差値であっても総合的な得点価値の傑出度が抑えられると考えられる。本人としては脆弱性があるとは言えなくても、その構造上、得点価値としては傑出度が下がってしまうという点はあるだろう。

警戒してくる投手を相手に数値を維持できるか

 前掲の表2では、球速や縦変化量が中央値より下に位置するフォーシームが多かった。今後、村上が対面するフォーシームの球速や変化量は、ここから上昇していくだろうか。

 球速は、その日の投手の調子や天候などの環境で変わり、対戦打者や対戦チームによっても変動する。これは投手がその打者への警戒度によって、いわゆる「ギア」を上げていることに起因するだろう。

 以下の表3は、対戦時に投手の球速上昇幅が大きい上位10人の打者と、村上を紹介したものである。

表3:対象となる速球はフォーシーム、シンカー、カットボール表3:対象となる速球はフォーシーム、シンカー、カットボール

 大谷翔平投手(ドジャース)が3位になっているように、錚々たる強打者が上位に君臨しており、投手の警戒度を示す指標となることが分かる。村上も試合内比較ではルーキーながら上位17位に位置しており、警戒の高さがうかがえる。

 ただ、試合内比較、つまりチーム内での警戒度は高いが、その投手のシーズン平均とは同じ水準だった(シーズン比+0.08)。シカゴの天候や、シーズン序盤にチームが低調だったことが作用したのかもしれない。これは表2で中央値より上の球速が少なかったことにもつながっていそうだ。

 しかし、これらの環境は、今後変わる可能性が考えられる。シーズン中盤に入り、ホワイトソックス打線はリーグ上位の打力を発揮。村上が復帰すると、打線の主軸を担う可能性が高いだけに、投手も警戒を強めてくるだろう。また、ポストシーズンに進むと投手の質や季節による環境要因からフォーシームの球速は速くなり縦変化量も大きくなる。いずれにせよ、質の高い速球に対応できるかは、引き続き注目点となる。

 ここまで見てきたように、村上は、当初懸念されたMLBの速球に十分すぎるほどの対応を見せている。ただ空振り率の高さから、その水準を維持できるか不安視する声もある。速球系の中でも、まだ慣れていないであろうMLBのシンカーに適応できるか。復帰後は、村上への警戒がこれまで以上に高まる可能性があるだけに真価が問われそうだ。

■参考
Baseball Savant(最終閲覧:2026年6月29日)
・佐藤文彦(2026)「村上宗隆のスピードボールへの対応力を多角的に考える」
1.02 Essence of Baseball(最終閲覧:2026年6月29日)

⚪DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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