選手集めに苦闘、40点差大敗も消えぬ闘志 4月に創部…部員10人の通信制高校「わせがく夢育」の挑戦

夏の大会に向けて練習に励むわせがく夢育ナイン【写真:河野正】夏の大会に向けて練習に励むわせがく夢育ナイン【写真:河野正】

今年4月に野球部結成…部員10人で埼玉大会に臨む「わせがく夢育」

 第108回全国高校野球選手権埼玉大会は8日、昨年と同数の139チーム(150校・連合3チーム)が参加して開幕する。今夏は埼玉県の長い歴史の中で、通信制高校が初めて参陣する新時代を迎える。2022年に開校した「わせがく夢育(ゆめいく)」で、今年4月に野球部を結成したばかりだが、10人の部員で3連勝して4回戦進出という目標に挑戦する。

 大学受験の老舗である早稲田予備校を運営する早稲田学園が2022年4月、埼玉県飯能市にわせがく夢育高校飯能本校を創立。野球部を立ち上げることが2024年に決まると、前年度から生徒募集を始め、昨年12月と今年2月に野球部個別相談会を開催した。

 この4月、創部に尽力した土士田涼生(どしだ・りょうき)監督が所沢キャンパスから飯能本校に異動。野球部発足に伴い、埼玉県高野連に加盟して本格的な活動をスタートさせた。

 現在部員10人のうち1年生が9人を占める。創立から間もない高校だけに、野球部一期生の選手集めにもさぞかし腐心したことだろう。土士田監督はこう回想する。

「埼玉県の通信制で野球部のある高校はありませんから、保護者と生徒になかなか理解してもらえませんでした。野球に取り込む時間がたっぷりあり、たくさんのことを学べる魅力的な高校なのですが、そこが伝わらずに苦労しました」

 学校は主に全日制、通学型、自学型があり、野球部の生徒は週に2日学習する通学型のマイスタイルコースを選択。火・金曜は午前に練習して午後から座学を受け、月・水・木曜は授業がなく1時間の休憩を挟み、午前9時半から午後4時まで6時間半にわたる練習をこなす。

 メニューは3台あるマシンを使っての打撃練習が中心で、全員がひとり500球以上を打ち込む。耐久性に優れ、折れにくいとされるコンポジットバットが1か月で破損したという。これに内外野ノックで攻と守を鍛えるほか、メディシンボール投げやハードル走、ダッシュ系などで打撃と投球のパワーアップを図る。各選手がこのプログラムをローテーションで実践。投手は週に2回、約80球を投げ込む。

選手にノックを打つわせがく夢育・土士田涼生監督【写真:河野正】選手にノックを打つわせがく夢育・土士田涼生監督【写真:河野正】

初参戦の春季大会は代表決定戦で0-40大敗も…「くじけず夏を目指して猛練習」

 土士田監督は「間違いなく練習量は日本有数だと自負しています。設備も整っている上、少人数制なので一人ひとりに指導の目が行き渡る利点があります」と胸を張る。

 大学まで野球に打ち込み指導者を夢見た土士田監督だが、指揮官になったのはこれが初めて。指導のイロハをどうやって学んだのか?

「小さい頃から教える側に立ちたかったので、選手目線で勉強していたのかもしれませんね。所属していた八王子シニアの監督やコーチ、母校・都立日野高校の嶋田雅之監督らは尊敬できる方々です」

 2013年、高校1年の夏に日野は夏の選手権西東京大会で準優勝。チームを率いたのが嶋田監督だった。

 練習や野球に関する最新の情報をX(旧ツイッター)で収集しているのは興味深かった。「あそこはネタの宝庫ですよ。これはどうかなって思ったら、自分で試して採用することもあります」と笑う。

 チームは今年3月25日から練習を開始。4月10日には公式戦の初陣となる春季西部地区予選1回戦に9人で臨み、春夏2度の甲子園に出場した秀明を17-7の6回コールドで破る殊勲の白星を挙げた。続く代表決定戦では、昨秋の県大会16強の坂戸に0-40で完敗したが、土士田監督は勝敗など意に介さない。

「目標を達成する力は野球に限らず、人生のすべてにおいて共通するもの。大好きな野球を通じて困難に立ち向かう力を養ってほしいんです。ショックだったでしょうが、彼らは0-40で負けてもくじけず夏を目指して猛練習しています。悔しい思いがあるからこそ、人は成長できるものだと思うんですね」

わせがく夢育のユニホームを身にまとうナイン【写真:河野正】わせがく夢育のユニホームを身にまとうナイン【写真:河野正】

勉強、学校行事、私生活でも「模範となるように指導」

 寮はなく、全員が県西部地区と青梅市、昭島市など東京の多摩地区から通学している。“地域、在校生、卒業生から愛される野球部”が部のモットーでもある。

 土士田監督は飯能本校のセンター長と生徒指導主任も担当する。「うちは進路指導にも力を入れ、母体が早稲田学園なので保護者さんも安心して預けられるんだと思います」と述べ、「勉強、学校行事、私生活でも模範となるよう常に指導しています」と言葉をつなぎ、野球に特化した高校でも部でもないことを強調する。

 部では監督、コーチ、部長、引率責任者のすべてを兼務。加えて学校業務も多忙だ。野球が好きでなければできないのは当たり前として、いったい何がこの人の背中を押しているのか。

「在校生や卒業生が、うちの学校を誇りに思ってくれるにはどうしたらいいのかを考えた時、やっぱり野球部の頑張りや活躍する姿を見てもらうことが、ひとつの手段だと考えました。さらに地域の人々に応援していただくことも、大切な要素だと思ったんです。これこそ私を突き動かす最大の原動力です」

 29歳になったばかりの若き指揮官は、張りのある声で学校と野球部に滅私奉公することのやりがいをうれしそうに話した。

(河野正 / Tadashi Kawano)

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