部員10人の通信制「わせがく夢育」が描く“2年後に甲子園” 試合よりも…成長促す“ぶっつけ本番”

わせがく夢育選手による熱のこもった打撃練習の様子【写真:河野正】わせがく夢育選手による熱のこもった打撃練習の様子【写真:河野正】

夏の埼玉大会に初出場する通信制高校の「わせがく夢育」

 今春、埼玉県高野連に加盟した「わせがく夢育(ゆめいく)」は県内初の通信制高校として春の西部地区予選に臨み、1回戦を突破して耳目を集めた。野球部の仕事をひとりで切り盛りする土士田涼生(どしだ・りょうき)監督は、指導歴1年目ながら独自の練習方法を展開する29歳。8日に開幕する「第108回全国高校野球選手権埼玉大会」では、部員10人での4回戦進出に挑む。

 2019年3月、飯能市立東吾野小学校が134年の歴史に幕を閉じた。市では閉校による利活用として、早稲田学園から申請のあった地域と連携した通信制高校を創設することで合意。2022年4月、わせがく夢育高校飯能本校が開校した。

 かつて林業で繁栄した地区だけに、学校は山や清流など豊かな自然に囲まれた環境にある。グラウンドの奥には樹木が密集。のどかな田園風の山あいに、はつらつとしたナインの声とピッチングマシンの球を打ち返す打球音が響き渡る。

 チームは今年3月25日に練習を始め、オープン戦を1度も行わずに4月10日の公式戦を迎えた。ルーティンである学校での練習を消化しただけで、実戦形成で試合勘を養うことなく初戦に臨んだ。そして秀明との春季西部地区予選1回戦で、17-7の6回コールド勝ちを収めてしまう。

 練習試合を行わず、ぶっつけ本番というのは極めて珍しいケースと思われるが、理由は何か? 土士田監督が胸を張って即答する。

「うちにはたっぷり練習できる環境が整っています。練習試合の空き時間が長いことを考えると、例えばライブBP(実戦形式の打撃練習)に2時間費やせば、ひとり当たり10打席はいけます。2時間あればノックでひとり何球受けられますか? 練習試合は楽しいでしょうが、うちは練習に対する全選手のモチベーションが高いので、中身の濃いメニューをたくさんこなすほうが成長につながると考えています」

選手たちへ指導を行うわせがく夢育・土士田涼生監督【写真:河野正】選手たちへ指導を行うわせがく夢育・土士田涼生監督【写真:河野正】

土士田涼生監督が志向する“個の能力”アップ「個人の技能がすべて」

 野球部に所属する生徒は、週に2日授業を受けるマイスタイルコースを選択。残り3日は午前9時半から午後4時までグラウンドに立ち、座学の日も午前中は練習に汗を流す生活サイクルを送る。

 しかし不安はないのか。「私はありません。試合でのバント処理については、練習で100回やれば実戦でも問題ない。ここでトライしながら習得すれば、練習試合と何ら変わりません。練習試合で得られる経験値と学校で100回積み重ねる経験値、どちらが効果的かと言えば絶対に後者だと思います」

 ただ、これからは少しずつオープン戦を行うという。ただし一般的なチームのように、休日を利用して2~3試合組む形式ではない。平日に学校で練習し、放課後に近隣チームとのマッチメークを計画しているのだ。

 主将で捕手の飯田治希(1年)は、進学理由について「自分たちの力で甲子園への道を切り開こう、という監督さんの言葉に魅力を感じたからです」と説明し、「全員がその思いを共有するのがうちの強み。練習量が多いので伸びしろもあります」と笑顔で答えた。

 春の地区予選1回戦は快勝したが、県大会出場を懸けた代表決定戦では、坂戸に0-40の5回コールド負け。エースの瀧澤大眞(1年)は「通用するボールがあった半面、たくさんの課題も見つかった。強豪を抑えるにはどのくらいの球速と制球力、球種が必要なのか。これを把握できたのが大きな収穫です」と主戦投手らしい言葉を放つ。

 土士田監督の指導のベースにあるのが、個の能力を上げることだ。剛速球を遠くに飛ばす力、三振を取れるボールを投げ込む力を身に付けることを主眼とする。「もちろんサインプレーなど細かなことは大切ですが、それ以上に個人の技能がすべて。選手も観戦する側も、そのほうが楽しいですよ」と持論を述べる。

ハードルを使った独特な練習【写真:河野正】ハードルを使った独特な練習【写真:河野正】

目標は4回戦進出…見据える2年後の甲子園出場

 全国の通信制高校を見ると、4校が甲子園を経験している。地球環境(長野)が2012年の選抜大会に出場し、クラーク記念国際(北海道)は春夏通算4度の甲子園。昨年はエナジックスポーツ(沖縄)が春、未来富山(富山)が夏に甲子園の土を踏んだ。

 通信制高校の躍進は、進路を考える際の中学生の選択肢が増えるため、わせがく夢育にとっても刺激になり、追い風になるという。

 指導者としての喜びをどんな時に感じるのか。「えっ、そんなプレーができるようになったんだ、って想定以上のものを見せてくれた時はすごくうれしいですね。高校生の成長は早いもの、日々着実に伸びています」と言って満面に笑みを浮かべた。

 その代表格のひとりが遊撃手の喜多快和(1年)だ。春の4番から夏は1番に変わるが、それは最高の打者を1番に据えるという指揮官の考えからだ。「しっかり練習に取り組めているので、レベルが上がっているのを感じます。自慢の長打力でチームの勝利に貢献したい」と大きな体から優しい笑みがこぼれた。

 夏の目標は3回戦突破だ。土士田監督は「ベスト16を懸けた4回戦でどこまでやれるか試したい。2年後に甲子園に行くためにも、4回戦までは進みたい」と力こぶを入れる。国際学院と対戦する9日の1回戦で、成長した姿を披露できるか。

(河野正 / Tadashi Kawano)

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