センザテーラは5年契約最終年、トレード期限前にロッキーズ愛を激白
ロッキーズのファンにとって、アントニオ・センザテーラという投手は特別な存在だ。目まぐるしく選手が入れ替わる現代のメジャーリーグにおいて、一貫して「ロッキーズの看板」を背負い続けてきた。トレードの噂が飛び交う過酷なビジネスの世界にあっても、ベネズエラ人右腕の口から飛び出すのは、驚くほど純粋で深い球団への愛だ。
「この球団が大好きです。私にとって、ここはメジャーリーグという世界で唯一無二の、たったひとつの組織ですからね」
インタビューの冒頭、球団への想いを問われたセンザテーラは、誇らしげにそう答えた。31歳のロッキーズでの歴史は、ただの「在籍年数」という言葉では片付けられない。それは彼の人生そのものだからだ。
「私は16歳の時にこの球団と契約しました。まだ何も知らない子どものような時期です。そこからマイナーリーグの過酷なキャリアをすべてここで過ごし、大人の男として、そしてメジャーリーガーとして育ててもらいました。ここの人々が大好きなんです。フロント、スタッフ、そしてチームメートたち。みんなが本当に団結してプレーしていて、ここには本物の『家族』のような温かい空気があります」
「だからこそ、(2021年オフに)5年の延長契約にサインした時も迷いはありませんでした。このチームの一員として、この『家族』と共にプレーオフに進出し、勝ち上がりたいという強い思いが常に私を突き動かしているのです」
“投手の墓場”クアーズ・フィールドは「自分を投手として成長させてくれる」
しかし、本拠地とするコロラドの「クアーズフィールド」は、野球界において「投手の墓場」と恐れられるスタジアムだ。標高1600メートルに位置するため、気圧が低く空気抵抗が少ない。そのため打球が驚くほどよく飛び、変化球のキレも鈍ると言われている。ピッチャーにとっては、マウンドに立つだけで圧倒的なハンデを背負うような場所だ。多くの投手がコロラドでの登板を嫌う中、センザテーラの見立ては全く異なる。
「人々がコロラドをピッチャーにとって最も過酷な場所の一つと言うのは、確かに事実です。でも、私はその環境をネガティブに捉えたことは一度もありません。むしろ、そこでいかに良いピッチングをするかという『挑戦(チャレンジ)』そのものが、私を突き動かす最大のモチベーションになっているのです」
「クアーズフィールドというタフなマウンドで、メジャーリーグの超強力な打線を相手に素晴らしいピッチングができれば、それは『自分は世界のどこへ行っても、どんな打者でも抑えられる』という強固な証明になります。この高い壁に挑み続けることが、私を投手として成長させてくれるのです。それに、私の家族もこのコロラドという美しい街を心から気に入っています。街の人々も温かく、私たちがここで暮らすこと自体が素晴らしい経験なのです」
2017年にデビューし、今年でメジャー10年目。5年契約の最終年だ。チームは地区最下位と苦戦を強いられる中、メディアやファンの間では米東部時間8月3日午後6時(日本時間4日午前7時)のトレード期限の話題が過熱する。
本格的に救援に転向した今季、27登板で8勝0敗、防御率2.93と好成績を残している。長年チームに尽くした功労者であっても、球団の再建戦略によって突然の移籍を余儀なくされるのがメジャーの日常である。
「私はただ、背中に自分の名前が入ったユニホームを着て、フィールドに立ち続けたいだけ」
「これからもロッキーズに残り続けたいですか?」
直球かつシビアな質問に対し、センザテーラはそれまでのセンチメンタルな語り口から一転、一歩引いた冷静なプロとしての本音を明かした。組織への愛着を大前提としつつも、彼は自身の去就にしがみつくようなことはしない。
「私はただ、背中に自分の名前が入ったユニホームを着て、フィールドに立ち続けたいだけです。それがどこのチームのユニホームになろうとも、メジャーリーグという最高の舞台に身を置き、長くプレーし続けられること。いま私がプロとして願っているのは、本当にそれだけなんです」
ここで彼が口にした「自分の名前が入ったユニホーム」という言葉は、特定の球団への執着ではなく、最高峰の舞台で戦う一人のメジャーリーガーとしての誇りそのものを指している。トレードというビジネスの現実を完全に受け入れ、どこに行こうともマウンドがある限り腕を振り続ける――。
コロラドへの深い感謝と愛を語る一方で、いつでも“戦地”に赴く覚悟を見せるその姿勢。16歳から過酷な競争社会で生き抜き、日本国内で狂気的な人気を誇るベネズエラ人右腕の、毅然としたプロ意識と強固なプライドが力強く浮かび上がっていた。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)