野球教室で3度目の指導…普段とは違う質問に「いろいろ考えさせられる」
日米球界で活躍し、ロッテでは監督を務めた井口資仁氏が12日、東京都内で身体障害者野球の選手を対象に野球教室を行った。関東で活動する5チームから集まった38選手、一人ひとりに対して身ぶり手ぶりを交えながら、1時間半にわたりたっぷり指導。11月21、22日に福岡・北九州市で開催される「第4回 世界身体障害者野球日本大会」では大会アンバサダーを務めるが、井口氏はなぜこれほど熱心に身体障害者野球をサポートするのか。
シカゴで始球式に臨んだ3日後、井口氏の姿は神宮室内球技場にあった。渡航の疲れをまったく感じさせず、投球、守備、打撃を指導。打撃のデモンストレーションとして速く鋭い打球を連発すると、参加者は驚きの表情を隠せず。井口氏の発する一言一句を聞き逃さないように、熱心に耳を傾け、真剣な眼差しで見つめる参加者の姿が印象的だった。
参加者は年齢層の幅が広く、障害の種類や程度はそれぞれで、誰一人同じということはない。井口氏は腕を欠損している選手に対してはバットを片手で持ち、車いすを使う選手には膝立ちになって、できるかぎり近い体勢を作るように努力。その上で送るアドバイスは、参加者にとってより芯をついた言葉となって届いたようだ。
こうした“オーダーメード”の指導は、井口氏にとってもプラスとなっているようだ。この日は腕を欠損しているため、捕球後にボールを真上にトスし、その間にグラブを抜き取った手で宙に浮くボールを掴んで投げる選手から質問を受けた。「グラブを抜く選手に『どうやってリズムをとったら上手く抜けますかね?』と聞かれたけど、普段の野球教室ではまったく考えたことのないこと。自分もいろいろ考えさせられるし、次回の自分の課題になるのかな」と話す顔は、困っているというよりも、むしろ楽しそうであり、嬉しそうでもある。
この日で3回目を数える「MAXIV LIEN PROJECT」。視覚障害を持つ株式会社MAXIV代表取締役の槙島法幸氏の「挑戦する障害者を応援したい」という想いに井口氏が賛同し、2023年からスタートした。継続的に参加する選手も多く、井口氏は「本当に回を追う毎に上手くなっていると思います」と驚きを隠せない。
出会いは2022年…今年11月の世界大会ではアンバサダーを務める
井口氏が初めて身体障害者野球と関わるようになったのは、2022年のこと。名球会の活動の一環として、日本代表の福島合宿へ指導に訪れた。その時から井口氏が一目置くのが、選手たちから溢れる「情熱」、そして「野球が好きという純粋な気持ち」だ。
「いろいろな障害を持ちながら、上手くなりたいと(熱心に練習を重ねる)。それって本当に野球が好きだからこそ出てくるところだと思いますし、大半は諦めてしまうところを諦めずに続けている。特に年齢を重ねても続ける方がすごく多くて、年を取っても野球をやめられないっていう。だから、僕ら以上に(野球に対する)情熱があるな、と思います。ベテランの方からの質問も多いし、上手くなりたいという思いが強いですよね。現役のプロ選手にも一度見てほしいと思います」
心揺さぶられる出会いを経験して以来、継続的に身体障害者野球の活動をサポートしている。先日は恩師であり、昨年「球心会」を立ち上げたソフトバンクの王貞治会長にも伝える機会があった。「球心会は野球の底辺を広げていこうという活動。障害者野球の人口もかなりいるので『一緒にやっていきましょう』と。そうしたら会長も喜んで『世界大会に行こうかな』なんて仰ってくれました」
王氏の来場が叶うかは分からないが、世界大会の舞台となる北九州はダイエー(現ソフトバンク)時代を福岡で過ごした井口氏にとっては近しさを覚える街でもある。同期入団の盟友で北九州市出身の柴原洋氏も「開催地ナビゲーター」となり、一緒に大会を盛り上げていくことになった。
まだまだ足りないチーム数「地域に1つ、2つチームがあるような状況に」
世界大会の開幕直前には身体障害者野球を題材とした映画「4アウト −もう一度、プレイボール−」(原作・平山譲氏、相葉雅紀さん主演)も全国公開される。ここでも井口氏は監督役の相葉さんにノック指導を行うなどのサポートを買って出て、身体障害者野球の認知拡大に励んだ。
「多くの人の目が向いてくれると、やっている選手はもっと野球に対して前向きな気持ちになると思う。そういう意味では、ライトが当たるサポートをしたいと思っています。野球をやりたいと思っても、近くにチームがない人もいると聞きます(現在、全国で36チーム)。簡単にできるものではないですが、やっぱり地域に1つ、2つチームがあるような状況になるといいなと思います」
ライトが当たるべきは、情熱と好きという気持ちをもって野球に取り組む身体障害者野球の選手たち。井口氏は縁の下の力持ちとして、活動を支援し続ける。
(佐藤直子 / Naoko Sato)