今永昇太でも感じる危機感…「代わりがいる」“現実 唯一の正解は勝利のみ、メジャーで知った“無力さ”

カブス・今永昇太が語った危機感とは【写真:ロイター】カブス・今永昇太が語った危機感とは【写真:ロイター】

カブス移籍3年目、渡米して初めて分かった「自由」の本質

 メジャー移籍3年目を迎えるカブス今永昇太投手は、米国で研鑽を積む毎日について「楽しいですね」と声を弾ませる。だが同時に、メジャーで過ごす時間は「緊張感を持つべき」だとも言う。「野球」と「ベースボール」の違いを体感しながら、人生は「自分の思い通りにならないことの方が多い」と痛感する日々。おかげで「人間的な成長をすごく感じています」と明かす左腕は何を考え、何を感じ、メジャーでプレーするのか。

 百聞は一見に如かず、とよく言うが、2024年にカブスの一員になってから、今永は野球とベースボールの違いを自身の目で見て、肌で感じてきた。日本で抱いていた「米国・メジャー=自由」というイメージは、ある意味で正解だったが、実際にその状況に身を置いてみると、また別の側面が見えてきたという。

「確かにチームとして(全員が揃った)アップもないですし、集合時間も特に決まっていない。いつどこでお酒を飲もうが、球場に何時に来ようが、誰からも何も言われない。ですけど、そこには確実に責任が伴っている。誰も守ってはくれないので、結局は自己責任なんですよね。それはメジャーに来て痛感しました」

 良くも悪くも、メジャーは結果がすべて。結果を出すまでの過程はそれぞれの自由だが、結果が出せなかった時の反応はとてもシビアで、非情でもある。カブスの本拠地・リグレーフィールドのクラブハウスで、今永は自身のロッカーの隣にある空っぽになったロッカーを指差しながら言った。「ここ、開幕の時は選手がいましたけど、もういないですし」。

メジャーで持つべきと感じる「緊張感」

 

 日本球界と米球界では「仕組みがやっぱり違うんで」と言う。近年は日本でも3軍まで持つチームが増えてきたが、米球界では1つのメジャー球団に対して傘下マイナーが5チームある。言い換えれば、メジャー契約の40人枠に入ろうとチャンスを伺うマイナー選手が100人超も控えているのだ。それが30球団あるとなれば……。

「とにかく代わりがたくさんいるっていうのが、一番大きな日本との違い。メジャー契約をもらっても40人枠から外されることもありますし、マイナー拒否権があったとしても、あまり意味をなさないこともある。40人枠から外れれば、日本では“事実上の戦力外”とニュースになりますし。日本と違って、こちらではすごくこう、緊張感っていうのを持つべきなのかなと思いますね」

カブスを5年ぶりのプレーオフ進出に貢献した今永昇太【写真:ロイター】カブスを5年ぶりのプレーオフ進出に導いた今永昇太【写真:ロイター】

 結果が出なければ、自分の立場は他の誰かに取って代わられるだけ。それは他の誰でもない、自分の責任だ。だからこそ自分のやるべき仕事に集中し、結果を出そうと取り組むわけだが、野球の一丁目一番地はチームスポーツであるということ。「チームスポーツなんで自分さえ良ければいいと考え過ぎてもダメ。チームと個人とで上手く良いバランスを取りながらやる必要はありますよね」。まったく左腕の言う通りだ。

 そもそも、トレードやFAなどで選手の移籍が盛んなメジャーでは、大半の選手がデビューから引退まで1球団を貫く日本に比べ、チームに対する帰属意識は薄い。だからこそ、団結した1つのチームというよりも、優秀な個の集まりに見えることもある。だが、プレーオフ進出争いが激化する9月、そしてプレーオフの熱狂が全米を包む10月になると、面白いことに“個の集まり”はたちまち“団結したチーム”に姿を変える。

 カブスが5年ぶりにプレーオフ進出を果たした2025年、今永は当事者としてその変化を経験した。

「勝つことが、やはり全てを正解にする。勝つこと以外の過程はどうでもよくて、だから仲が良いとか悪いとか、そんなことはあまり関係ない。ただ勝つことが全てを正解にする。それは裏を返すと、結果を出さなければ何の意味もないというか、過程は評価されないので、シーズン中のクビもありますし。自分のやってきたことを正解とするためにも、みんなが先に進むことを望み、同じ方向に矢印が揃うのがプレーオフなんじゃないかと思いますね」

今永は「結果を出さなければ何の意味もない」と語った【写真:ロイター】今永は「結果を出さなければ何の意味もない」と語った【写真:ロイター】

思い通りにならない経験を重ね「人間的な成長に繋がる」

 球場では「野球」とはひと味違う「ベースボール」の価値観に触れ、球場を離れれば不都合も多い異国文化の中で経験値を高める。慣れ親しんだ日本にはない刺激の多い時間を過ごすことが「自分にとっては人間的な成長に繋がるなと思います」と笑顔を見せる。

「自分の知らないこと、思い通りにならないことの方がたくさんあるっていうのは楽しいですし、成長に繋がると思うんですよね。もし僕が日本にい続けていたら、もっと横柄な人間になっていたんじゃないかなって。日本にいれば、自分の言ったことに対して、何でもサポートしてくれようという人がたくさんいるし、僕も多分それに甘えて、どこかで『誰かがなんとかしてくれるでしょ』っていうマインドを持ち続けていたと思うんです。でも、アメリカでは基本はすべて自分。水を買うために遠征地でスーパーを探したり、日本食を食べたい時はアプリで注文したり、誰かを頼るのではなく自分でやっていかないといけないので」

 もちろん、投手としてレベルアップを図るためにメジャー移籍を決断したわけで、人間的な成長を得たことは副産物のようなものだ。だが、振り返ってみると、どちらの側面から見ても、最適なタイミングで渡米できたのかもしれない。

「来るべき時の最速のタイミングで来られたのかな、とは思いますね。肩の怪我もありましたし、正直、日本ではメジャーに来て名刺代わりになるような成績を残しているかって言ったらそうでもないと思うんで。自分が望んだ最速の道で来ることができた。そこには感謝です」

 一つ、また一つと新たな刺激を受けながら、今永は選手としての幅、人としての深みを増していく。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

RECOMMEND

CATEGORY