井口ジャパンの命運握る「3枠」…越えるべき“ハードル” 指揮官が明かす覚悟、ロッテ時代との決定的な違い

侍ジャパン新監督に就任し、会見で意気込みを語った井口資仁氏【写真:荒川祐史】侍ジャパン新監督に就任し、会見で意気込みを語った井口資仁氏【写真:荒川祐史】

急転直下の人事…テレビ出演の合間を縫って行われた就任会見

 野球日本代表「侍ジャパン」トップチームの新たな指揮官に、日米球界で活躍した井口資仁氏が就任した。25日に行われた記者会見で明確に掲げられた使命は「2028年ロサンゼルス五輪での金メダル獲得」。やや緊張した面持ちで「(就任は)大変光栄に思うと同時に、その責任の重さを感じています」と語った井口監督に寄せられる期待の大きさと、越えるべきハードルについて考えてみたい。

 急転直下の人事だった。関係者によれば、監督就任の話が具体化したのは、ここ1週間ほどのこと。井口監督が以前から代表監督に興味を示していたこともあり、快諾という流れになったようだ。だが、当面のスケジュールはすでに埋まっており、井口監督は会見前日に帰京。25日は早朝にメジャー中継の解説、夜は生放送番組に出演予定だったため、記者会見はその合間を縫って行われた。この井口監督の動きからも、就任要請から会見までがわずかな時間であったことがうかがえる。

 会見に同席した日本野球機構の榊原定征コミッショナー、全日本野球協会の山中正竹会長、日本野球機構の中村勝彦事務局長が口々に評した通り、井口監督の実績は申し分ない。國學院久我山高では甲子園に出場。青山学院大では全日本大学野球選手権を制し、東都大学リーグ史上2人目の3冠王にも輝いた。在学中の1996年にアトランタ五輪に出場し、銀メダルを手にすると、ドラフト1位で入団したダイエー(現ソフトバンク)では2度の日本一を経験した。

 2005年に加入したホワイトソックスでは移籍1年目にワールドシリーズ制覇の原動力となり、フィリーズでも世界一に貢献。2009年にロッテで日本球界復帰を果たすと、翌年日本一に輝いた。高校時代に甲子園優勝は果たせなかったが、大学以降はそれぞれのステージで頂点を極めている。

 引退した翌年の2018年にロッテ監督に就任。リーグ最下位だったチームを“勝つ集団”へと変えていった。2025年の日本一を目標に掲げ、若手の育成にも尽力。2020年から2年連続でリーグ2位となるも、2022年に同5位と落ち込んだ責任をとり、志半ばにして退任した。その後は豊富な経験と深い洞察力に基づく解説で定評を得ているほか、日本各地での野球教室で子どもたちとふれあい、身体障害者野球の活動にも携わって広く野球文化の発展に努めてきた。

代表監督の資質に合致…特筆すべき「周りを巻き込む力」

 侍ジャパン強化委員会委員長でもある中村事務局長が「日本代表監督に求められる資質」として掲げた「国際大会や海外での豊富な経験、チームを一つにまとめあげる強いリーダーシップと求心力、国内外における高い信頼と知名度、ファン・メディアに対する発信力、そしてアマチュア野球を含めた日本野球界への深い理解と敬意」の全てに合致する存在だ。だが、広く球界を見渡せば、ほかにも同様の資質を持つ人材はいるだろう。なぜ井口氏が監督に選ばれたのかを考えた時、目標達成に向けた「周りを巻き込む力」に、期待が寄せられているのではないかと思う。

 井口監督は、良い意味で「組織に対して物言う監督」だ。ロッテを率いた時には、それまで財布の紐が堅かった球団に対し、投資の必要性を直訴。練習環境はもちろん、選手の生活環境の改善も訴え、室内練習場にクーラーを導入したり、選手寮で提供される食事の内容も見直した。また、他球団に比べて遅れていたデータ活用にも積極的に取り組んだ。

 今回の会見で、榊原コミッショナーは「NPBならびにNPBエンタープライズは全力で井口新監督をサポートさせていただく」と明言。山中会長も「プロ・アマ問わず日本野球界全体を牽引していく存在になること」を強く希望した。井口氏が監督就任を受諾した段階で、自由度高く挑戦できる環境を整えているはずだ。

25日、都内で開かれた侍ジャパン監督就任会見【写真:荒川祐史】25日、都内で開かれた侍ジャパン監督就任会見【写真:荒川祐史】

 また、井口監督は日米球界のトレンドにも敏感で、その幅広い興味と好奇心は、他国の傾向や対策を考えるうえでプラスに作用するはずだ。それに加え、日本のプロアマ球界はもちろん、メジャー球団の監督やGM、首脳陣ら要職に就く人材と同世代。なんらかのコネクションを持っている点も、ロサンゼルス五輪に向けて最強チームを編成する際、大きなアドバンテージとなるだろう。

一筋縄ではいかないロス五輪金メダル獲得への道

 期待が高まる一方、越えるべきハードルは数多い。

 まず1つ目のハードルは、ロサンゼルス五輪の出場枠が「6」しかなく、すでに開催国の米国、第6回WBC優勝のベネズエラ、同3位のドミニカ共和国が3枠を占めている。日本が出場権を得るためには、2027年の第4回WBSCプレミア12でアジア最上位となるか、世界最終予選で勝ち抜くか、いずれかの条件をクリアしなければならない。

 仮にプレミア12で出場権を得られなかった場合、状況は複雑さを増す。世界最終予選に出場できるのは、2027年に開催されるアジア野球選手権大会の上位2チームだが、これまで、侍ジャパンでは社会人代表が出場する大会として位置づけられてきた。開催時期も基本的には9月で、プロ野球はシーズン最終盤の重要な局面を迎えている。

 2027年のアジア野球選手権大会に、慣例どおり社会人代表が出場するのか、それとも五輪最終予選を見越してトップチームで臨むのか。そしてトップチームが出場する場合、各球団から選手派遣の了解を得ることができるのか。

 井口監督は「厳しい道のりというのは覚悟のうえ」と語り、高いハードルに挑む姿勢を見せているが、日本球界全体としての判断も含め、なかなか難しい課題となりそうだ。

 もう1つのハードルは、チームの編成と結束の高め方だろう。ロッテを率いた時は、決められたメンバーのなかで、若手の育成やチーム力の向上に取り組むことができた。だが、侍ジャパンのトップチームとなれば話は別だ。チームとして活動できるのは毎年春と秋の2回だけ。毎回同じメンバーが集まるわけではないため、ベテランから若手まで幅広い人材を起用しながら、最強チームを編成するための最適解を見つける作業が続く。限られた活動期間で最大限の結果を出す取り組みは、井口監督にとって新たな挑戦となる。

 結束力の高め方について質問された井口監督は「やりながらチームを1つにまとめていくのが私の仕事ですし、選手たちの個の力を最大限引き出すというのも(監督の)力ですから、チームの中でそれ(結束力)は、私が作っていくことだと思っています」と答えた。実際にどのような方法でチームづくりに取り組むのか。井口監督“らしさ”が見えるポイントになりそうだ。

メジャー経験者で初の代表監督となった井口氏【写真:荒川祐史】メジャー経験者で初の代表監督となった井口氏【写真:荒川祐史】

 初陣は、11月12日から東京ドームで行われる「ラグザス アジアプロ野球チャンピオンシップ2026」。まずは、この大会に向けて、コーチ陣の人選や国内外の視察など、準備を重ねていく。ロサンゼルス五輪での金メダル獲得に向けてスタートを切った井口ジャパンの航海を、しっかりと見届けたい。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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