横浜・織田翔希が全幅の信頼…キャッチボールパートナーの堀江修生
横浜高の優勝で幕を閉じた第108回全国高校野球選手権神奈川大会。甲子園では、最速157キロ右腕・織田翔希のピッチングに注目が集まるが、この1年間、キャッチボールパートナーとしてエースを支えてきたのが、同じ3年生の堀江修生(ほりえ・しゅうせい)だ。堀江にとっては“恩人”であり、織田の心意気によって救われた選手でもある。
「最終回の翔希のピッチングを見て、ブルペンでひとり涙が溢れてきました。足も痛かったと思うんですけど、エースとしてあれだけのピッチングを見せて、秋から本当に成長したなって。苦しんでいた姿も知っていたので、本当に嬉しかったです」
桐光学園との神奈川大会決勝。先発した織田は9回に明らかにギアを入れ直し、自己最速タイとなる157キロを記録するなど、優勝に向かって腕を振り続けていた。
その姿を横浜スタジアムのライト側ブルペンから見ていたのが、堀江だった。今夏は「ブルペンキャッチャー」としてチームに帯同。背番号は着けていないため、ベンチに入ることはできない。ブルペンにはグラウンドを見られる「小窓」があり、そこから“相棒”のピッチングを見守った。
「ブルペンで受けていても、春とは別人でした。ストレートの強さも変化球も、2倍にも3倍にも成長していて。関東大会の頃から、投げ方がバチッとはまるようになっていました。ストレートを捕るときは、手がめっちゃ痛い。翔希のストレートはピストルのようで、風を切っていく感じがあります」
一度は「野球部をやめます」…織田に作ってもらった「居場所」
中学時代、北九州市立足立中のエースとして全国中学校軟式野球大会に出場し、最速143キロのストレートを投げていた織田。堀江の実績も劣らず、横浜市立老松中3年時に横浜クラブ(市中体連選抜)に選ばれ、全日本少年軟式野球大会で日本一に輝いている。強肩が売りのキャッチャーだった。
高校入学後、1年春から公式戦に登板した織田とは対照的に、堀江はなかなかうまくいかなかった。1年生の秋にはメンタル面で落ち込み、4か月ほど練習を休んだ。村田浩明監督に「野球部をやめます」と相談したこともあった。
「復帰したのが1年生の1月頃。監督さんに『やめます』と言った時に、練習に参加しなくてもいいから、まずはグラウンドに来るところから始めればいいと言ってもらえました。みんなの前で『また戻ってきたんで、よろしくお願いします!』と伝えたら、『よし!』と受け入れてくれました」
とはいえ、心の中には一歩引いてしまう弱い自分もいて、120パーセントの精神状態では入れなかった。
「そのときに助けてくれたのが翔希。ぼくが、ベンチの裏にいるときとかに、『堀江!』と大きな声で呼んで、グラウンドに引っ張り出してくれて、チームの中で居場所を作ってくれました」
2年春、織田をはじめ同期の仲間が全国制覇を達成。堀江は、スタンドからその雄姿を見つめた。
2年夏、小野舜友(おの・しゅんすけ)がキャプテンに就き、新チームが始動。織田から村田監督にお願いしたことがあった。
「堀江をキャッチボールパートナーにしていいですか?」
この日から、2人のキャッチボールが始まった。ブルペンでも組むようになり、織田との相性とともに強肩が認められ、今春の選抜大会では公式戦で初めてベンチ入りを果たした。
準決勝の慶応戦前、織田に異変…ブルペンからベンチに入れた電話
織田から見た堀江はどんな存在か――。
照れながらも、相棒のことを評した。
「自分のすべてを受け止めてくれる選手で、自分がやりやすいようにできることを、一番に考えてくれています。堀江とキャッチボールをしているときが、一番調子がいい気がしていて、本当に感謝したいです」
キャッチボールパートナーに選んだのは、2つの理由があるという。
「堀江の居場所を作る」「堀江は肩が強い!」
織田の遠投は100メートルを超える。肩に自信がある堀江は、距離が遠くなっても、ノーバウンドで放ることができた。対等に投げ合えることが、織田にはありがたかった。
村田監督は、堀江の成長を嬉しそうに語る。
「1年のときに練習に来られなくなった時期があって、それを助けてあげたのが織田。堀江は感謝の気持ちをずっと持っていると思います」
この夏、堀江の言葉に救われたことがあったと明かす。
「準決勝の慶応戦の前に、ブルペンにいる堀江から電話がかかってきたんです。『織田が右足が攣りそうと言っているので、気をつけて使ってください』。実際に右足を攣って交代したんですけど、堀江の言葉があったので、こちらの準備もしやすかった。試合のあと、堀江に『ありがとうな。助かったよ』と伝えました」
堀江本人にこのときのやり取りを聞くと、織田の性格を知ったうえで行動を取っていた。
「翔希は頑固な性格なので、自分から絶対に言わない。弱みを見せることもない。それがわかっていたので、これはマズイなって。翔希に知られないように、あいつがブルペンを出たあとに、ベンチに電話を入れました」
一日でも長く織田とキャッチボールを…「最後はみんなと勝って泣きたい」
甲子園では神奈川大会同様にメンバーとともに行動し、練習にも帯同する。織田のキャッチボールパートナーは、最後まで続く。
「織田がいいコンディションで試合に入っていけるように、サポートをしたいです」
じつはクラスも一緒。多くの時間を過ごしているからこそわかる、織田のすごさはどこにあるのか。
「何だろうなぁ、いっぱいあるんですよね。やっぱり、メンタルですかね。弱音を吐くことは絶対にない。エースらしく、最後まで胸を張っている。朝も全体の起床の前に起きて朝練をしているんですけど、それを誰かに言うわけでもなくて、ひとりで黙ってやる。エースの責任というか、美学みたいのがあるんだと思います」
8月5日に開幕する夏の甲子園。優勝候補にも挙がる横浜は、「全戦全力」をテーマに全国制覇を狙う。
「きっと、翔希がその力を証明してくれると思います。日本一になることを心のそこから願っています。最後は、みんなと勝って泣きたいです」
決勝は8月22日。一日でも長く、織田とキャッチボールをするのが、堀江の願いでもある。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。