7月5日プロ初勝利、記念球は「吉見(祐治)担当スカウトに渡したい」と宣言
DeNAの深沢鳳介投手が2日、東京ドームで行われた巨人戦で6回途中1失点で今季3勝目を挙げた。「ピンチをたくさんつくってしまったんですけど、(松尾)汐恩がよくリードしてくれて抑えることができました」と安堵。プロ5年目の今季1軍デビューを果たし、7月5日には待望のプロ初勝利を挙げた“新星”は「すぐしたいです」と話していたほど、この3勝目には深い思い入れがあった。
あのヒーローインタビューを覚えているファンは多いだろう。自身4登板目にして、5回2安打無失点でようやく初白星を手にしたヤクルト戦(神宮)。ウイニングボールを渡す相手を聞かれた深沢は言った。
「自分をプロの世界に導いてくださった吉見担当スカウトに渡したいなと思います」
初勝利や初本塁打の記念球は、両親など家族に贈る選手が多い。しかし深沢が口にしたのは、吉見祐治氏の名前だった。2000年ドラフト2位で横浜(現DeNA)に入団。ロッテ、阪神でもプレーして通算44勝を挙げ、現役引退後はDeNAの打撃投手を経て2020年からスカウトに転身、現在はプロスカウトを務めている。
受け取りを“固辞”していた吉見氏「めちゃくちゃうれしかった。でもね…」
初勝利の瞬間を神宮で見守っていた吉見氏は「めちゃくちゃうれしかった。勝ったこともだし、そんなことまで言ってくれて本当にありがたかったし。でもね、それは……」。実は記念球の受け取りを“固辞”していたのだ。そこには深い愛情を持つからこその理由があった。
「そうやって名前を挙げてくれたことはうれしいけど、『1勝目はお前を生んで育ててくれた両親に渡しなさい』と言いました。それで『俺には3勝目をくれ』って。2勝目はすぐすぎるだろうから、今年3勝、4勝、もっともっと積み重ねてほしい中で、3勝目と言いました」
吉見氏の“見立て”通り、2勝目はすぐにやってきた。プロ初勝利の次の登板となった18日ヤクルト戦(横浜)。9回を103球で投げきり、4安打に封じてプロ初完封を飾った。「家でiPadで見ながらあんなに声を出したのは初めてだよ」と話す吉見氏の表情は、喜びに満ち溢れていた。
「息子みたいな感じだわ」と目尻を下げる関係性。吉見氏は深沢のプロ初勝利直後、専大松戸の持丸修一監督に連絡したそうで「『記念球を吉見さんにって言えるなんて、あいつ成長したな』とおっしゃっていて、『そんなことも言えるようになったんですね』って」と喜びを分かち合ったという。野球面だけではない、人間的な成長も見守っている。
深沢は専大松戸高から2021年ドラフト5位で入団した。当時スカウト2年目だった吉見氏にとって、担当選手がプロ入りするのは同年が初めて(担当は2選手)だった。思い入れが強いのは当然のこと。高2の秋に初めて見たときから「俺が惚れた選手。ホンマにこの選手がほしいって心から思えた」と熱く追いかけた。
「即戦力ではなかったので、そうやって追いかけていただいたのはうれしい」
3年時には春夏連続で甲子園に出場し、調査書は11球団から届いていた右腕だが“超高校級”だったわけではない。深沢は「吉見さんには何回も何回も見に来ていただいていました。僕は大卒とか即戦力ではなかったので、そうやって追いかけていただいたのはやっぱりうれしいですね」と改めて感謝する。
プロ3年目の2024年には右肘のトミー・ジョン手術を受け、長く険しいリハビリの日々もあった。同年オフに育成契約となり3桁番号も背負った。吉見氏からはLINEなどで励ましを受け、毎年オフには食事に出掛けた。「本当にいろいろな声を掛けてくださって支えてくださって、ありがたかったです」と言葉に力を込めた。
活躍することは、担当スカウトへの“恩返し”でもある。深沢は最後に、いたずらっぽく笑った。
「泣いてくれてはいないみたいなので、泣かせるくらいの活躍を頑張ります」
プロ初勝利から破竹の自身3連勝。東京ドームから帰路につく深沢は「ボールもらいました。渡します」とニッコリ笑った。吉見氏のもとに、ついにウイニングボールが届く。
(町田利衣 / Rie Machida)