首位に11ゲーム差5位低迷→1軍配置転換以降は快進撃で3位へ浮上
DeNAは変わった。6月末の時点では勝率.391(27勝42敗2分)で、首位に11ゲーム差の5位と低迷していたが、7月以降は.655(19勝10敗1分)と急上昇。いまやクライマックスシリーズ(CS)出場圏内の3位につけている(成績は8月10日現在、以下同)。要因の1つと見られるのが、7月に2軍打撃育成コーチから1軍打撃戦術・育成コーチへ配置転換された鈴木尚典コーチの存在だ。本人に聞いた。
DeNAの快進撃は、鈴木コーチの1軍“昇格”とともに始まった。本人は「僕がたまたまそういう時期に(1軍に)来たというだけ。たまたまです」と謙遜する。
6月末までの低迷をうけ、球団フロントは7月に入ると同時に手を打った。1つは鈴木コーチの昇格。もう1つは、シーズン途中の6月に獲得し、2軍で調整させていたヘラル・エンカーナシオン外野手を満を持して1軍に上げたことだった。右打ちの大砲のエンカーナシオンはその後、28試合で打率.301、7本塁打29打点の猛打を振るい、出場2試合目から4番に定着し打線を牽引している。
鈴木コーチは「(チームが好調に転じた)一番の要因はやはり、エンカーナシオンが僕と同じタイミングで1軍に来て、彼が4番に入ったことによって、周りの選手にも相乗効果が生まれていることです。本来のウチらしい打線に戻ったと感じています」と指摘する。
エンカーナシオンの活躍で、ベテランの筒香嘉智内野手、宮崎敏郎内野手、佐野恵太外野手のうち1人を常時スタメンから外し休養を与える余裕も生まれた。「起用法は(相川亮二)監督がいろいろ考えてやっていますが、特に37歳の宮崎あたりがいつもベストに近い状態で試合に出られているのは、いいんじゃないかなと思います」とうなずく。
エンカーナシオンが2軍で調整していた頃から、この活躍ぶりは予想できたのだろうか。鈴木コーチは「いやいや、正直言って、ここまで打ってくれるとは思っていなかったです。大柄なバッター(193センチ、113キロ)ですから、低めの変化球とかを振らされちゃうかなというイメージで見ていました」と首を横に振った。
横浜高の後輩でもある主将の筒香から指名された役割
「彼には学習能力があります。初めて日本に来て、初見のピッチャーと対戦するのは大変なことですが、その中で対応力が素晴らしい」と称賛。「試合前のフリー打撃でも、気持ちよくレフトへ引っ張るのではなく、徹底的にセンターから右方向へ打つ練習をしています。“逆方向”への意識を持っているからこそ、あの打率も残せるのだと思います」と分析している。
一方、鈴木コーチ本人についても、チーム内で「鈴木さんの指導を受けると、うまく背中を押してもらえたり、あの穏やかな人柄でいい雰囲気が広がったりする」といった声が上がっている。
異例のことだが、鈴木コーチは1軍合流初日の7月2日、広島戦(横浜スタジアム)で、横浜高の後輩にもあたる主将の筒香から“声出し”役を頼まれた。
声出しとは、試合開始直前に円陣の真ん中に立ち、チームを鼓舞する言葉で雰囲気を盛り上げる役割。普段は若手選手が担うことが多く、コーチ陣が行うことはない。鈴木コーチは「やれと言われたからやりましたが、内容は公にはちょっと言えないことです」と苦笑。しかも声出しの役割は、試合に勝つとゲンを担いで次の試合も継続される。この日は3-3の引き分けに終わったものの、翌4日から5連勝。「結局1週間続けました」と満面の笑みを浮かべた。
こうして今季のDeNAでは、コーチも声出しのローテーションに組み込まれるようになった。8月7日の広島戦(横浜スタジアム)では鈴木コーチに2度目の指名がかかり、なんとチームはそこから3連勝。「なんか知らないけれど、チームが勝ってくれればいいというか……」と自分の強運に目を白黒させているところだ。
「僕はそういう存在でいいのかなと……。周りの人たちがどう見ているかはわからないですが、僕は自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃ“天然”ですし、気難しい人間ではない。選手、スタッフ、監督、コーチを含めて同じ空間で野球をやるわけだから、長いシーズンにはいろいろなことがあるけれど、まとまった空気でやれた方が勝つ確率も高くなると思うんです」と鈴木コーチ。現役時代に首位打者を2度獲得したレジェンドが、まさかの“いじられキャラ”でチームを和ませているようなのだ。
「相川監督との関係性という意味でもプラス」2022年に同時古巣復帰
また、鈴木コーチが1軍に配置転換された際は、木村洋太球団社長兼チーム統括本部長は「指導という意味でも、相川監督との関係性という意味でも、プラスだと思う」と語っていた。
54歳の鈴木コーチは、4歳下の相川監督とは現役時代にもベイスターズでチームメートとしてプレー。引退後、BCリーグ・神奈川の監督を3年間務めた鈴木コーチと、巨人のコーチを務めていた相川監督は、同じ2022年にコーチとして古巣へ復帰した。それから4年間は三浦大輔前監督を支えた。
「(相川監督とは)気心が知れているというか、僕も自分の視点で『こういう打順はどう?』とか、ざっくばらんに話をしています」と鈴木コーチ。頼れる4番が誕生し、チームのムードを和ませる“天然コーチ”が加わったDeNAの快進撃は、まだまだ続くのだろうか。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)