エイジェックではシートノックのノッカー役「上げたかったんですけど」
試合終了時刻は午後10時57分。死闘を制したエイジェックの山足達也コーチは「疲れました」とつぶやいた。しかし、その表情は満開の笑顔だ。8月31日、社会人野球の頂点を決める「第97回都市対抗野球大会」の初戦(東京ドーム)で、沖縄電力を延長10回の戦いの末に8-6で破った。
プロ入り前の2016、2017年にHonda鈴鹿の一員として出場していた都市対抗だが、コーチとして立つのは初めて。「選手が頑張ったのを見て鳥肌が立ったりしますね。その過程をずっと見ているので、それこそ僕が口うるさくずっと言い続けてきたことを頑張ろうとする、試合の中で成長しようという姿を見ているとね」。今年から歩み出した指導者人生は、新たな喜びを実感する日々だ。
試合開始30分前に行われたシートノックではノッカーを務めたが、最後の“見せ場”であるキャッチャーフライは失敗に終わった。「上げたかったんですけどね。でももう一回やり返すチャンスをくれたんで」。優しい眼差しを選手たちに向け、山足コーチも次戦を見据えた。
2017年ドラ8から8年間のプロ生活「これ以上自分には伸びしろがないな」
2017年ドラフト8位でオリックスに入団。2021年には53試合で打率.273をマークして25年ぶりのリーグ優勝に貢献した。「時代は山足」のフレーズが度々トレンド入りするなどファンにも愛された。
2024年オフの現役ドラフトで広島に移籍したが、新天地ではわずか11試合の出場に終わり、2025年限りで戦力外通告を受けた。トライアウトを受けるも、同日に現役引退を表明。通算294試合で打率.192、4本塁打、24打点、10盗塁だった8年間のプロ生活を、清々しい表情で回顧する。
「ホンマに、へばりついた8年間。なんとか自分の居場所を、どうしたら自分が必要とされるかなっていうのを考え続けた8年間っていう感じですね。数字的に残したかったなっていう後悔はありますけど、取り組んできた姿勢はとことんやったなって自分でも言い切れます。もうこれ以上自分には伸びしろがないなっていう、これだけやって無理なら仕方ないなって思えるくらいできたかな」
移籍先の広島ではわずか1年で戦力外となった。5月以降は1軍出場なし。それでも腐らずに汗を流し、2軍で出場を続けた。「自分のやるべきことを淡々とやって、準備をして、いざ呼ばれた時に後悔だけはしないようにっていう思いでした。もし『山足1軍行ってくれ』となったときに『もっと練習しておけばよかったな』とか『準備しておけばよかったな』っていうことがないように。ずっと1軍の選手でもないですし、そこだけは常々、だから弱い部分だけは見せないようにっていう思いでやっていました」とうなずいた。
だからこそ、戦力外を告げられたときには「スッキリした。これ以上やってもっていう気持ちと、ホンマにやり切った気持ちが一番強かったので。シーズン中に家族にも、言われたら辞めようと思っていると言っていました。僕はレギュラーでもなかったですし、いつ言われてもいいようにとことんやっていたので」と受け止めた。
そのうえで、「家族で決めてほしいと。出てほしいなら出るし、最後は家族のために」とマツダスタジアムで行われたトライアウトで“最後の勇姿”を見せ、未練なくユニホームを脱いだ。
「ただいるだけじゃなくて人間的に成長できる日々にしたいですね」
ドラフト下位から、自分の生きる道を探し続けた。コーチとしては「まだまだ勉強」と話すが、山足コーチだからこそ、選手たちに伝えたいことがある。
「本当にうまくいっている選手は何も言わなくても多分うまいこといくんです。じゃなくて、ちょっとくすぶっているとか、気持ち的にしんどい思いをしている選手のキッカケになりたいとか、それこそめちゃくちゃ頑張っているのに結果が出ていない選手にヒントをあげられる人材になりたいなっていうのはずっとあって。めちゃくちゃいい選手を育てられるかと言われるとちょっと分からないですけど、僕がこう思えたように、その選手も終わった時に後悔がない野球人生を送ってほしいなと。そういうモチベーションのひとつになってあげたいなっていうのは常々思ってますね」
家族を関西に残し、2年連続の“単身赴任”で新たな道を歩んでいる。実は現役引退後、古巣オリックスからも話があったそうだが、栃木県小山市での挑戦を決めた。「大阪でのお話も、それこそオリックスとかのお話もいただいた中でこっちを選んだので、ただいるだけじゃなくて人間的に成長できる日々にしたいですね。そのときそのときを全力で。僕のわがままを理解してくれている家族もいるので、成長した姿で家族のもとに帰りたいなっていうのはあります」と言葉に力を込めた。
ちなみに都市対抗の大会公式ガイドブックには「コーチ兼内野手」と記されている。「いや、これ書いてあるだけなんです。めっちゃ連絡来ます」と苦笑いしつつ、「入ったときに体も元気だったので監督から『どうしても』とお願いされていて、登録間際に『気持ちがあったときのために選手兼任にしておく』って話で。もう僕は100%(コーチ)で、兼任ではないです」と説明した。
現役への思いはない。背番号「99」の山足コーチは選手に寄り添い、手を差し伸べていく。
(町田利衣 / Rie Machida)