バブル崩壊→不況で悟った“たかが野球” 54年ぶり日本一…関大監督が辿り着いた指導理念「勝敗よりもっと大切なもの」

54年ぶりの日本一を決めて胴上げされる関大・小田洋一監督(中央)【写真:井上学】54年ぶりの日本一を決めて胴上げされる関大・小田洋一監督(中央)【写真:井上学】

関大・小田洋一監督が掲げる“人格形成“「勝敗よりももっと大切なものがある」

 神宮球場に響き渡る学歌、喜ぶOBたちの姿を目に焼き付けた。6月14日に行われた全日本大学野球選手権大会決勝。関大(関西学生野球連盟)は慶大(東京六大学野球連盟)を2-1で破り、1972年以来“54年ぶりの日本一”を掴み取った。

 2024年に母校の監督に就任した小田洋一監督は「これまで4季はリーグ戦でずっとBクラスだったんです。それでも関大の先輩方は弱いときでも本当に一生懸命応援してくださって。勝てなくても応援してくれる人たちに、良い結果で恩返しができました」。半世紀ぶりに掴んだ栄冠。その裏にあった独自の指導理念に迫る。

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 小田監督は関大一高から関大に進学し、野球部では内野手として活躍した。大学卒業後は1988年に大和銀行(現・りそな銀行)へ入行。3年間、選手としてプレーを続け、その後の8年間はコーチ兼マネジャーとしてチームを支えた。「半日は仕事をして、半日は野球の練習という勤務軽減をしていただいた勤務形態でした」。

 一番の人生経験になったのは、野球部を退いてから2年半経験した銀行業務だった。「ちょうど金融危機やバブル崩壊後の大変な時代で……。不況の中で担当していた会社が倒産していくのを見ていました」。

 1989年末のバブル経済崩壊に端を発し、株価や地価が暴落。深刻な不良債権問題で日本は不況に陥った。銀行員として過酷な現実を目の当たりにして気づいたことがある。

「今まで勝った、負けたで一喜一憂していた自分が、なんてちっぽけな存在だったんだろうと。世の中の人は明日食べるためにこれだけ一生懸命働いているのに、我々は勝った負けたで一喜一憂して、ある意味幸せな中での悔しさだったんだなと身に沁みました」

 いい意味で“たかが野球”と捉え、「勝敗よりももっと大切なものがある」と、“人格形成”に重きを置いた指導理念にたどり着いた。「野球を通じて、野球以外の生きていく上で大切なことを教えることを大事にしています。それが学生野球の本質だと思いますし、そこだけは見失わずにやっていきたいと思っています」。

部員にアルバイトを認める“理由”「学びの場はたくさんある」

インタビューに応じた関大・小田洋一監督【写真:神吉孝昌】インタビューに応じた関大・小田洋一監督【写真:神吉孝昌】

 不況の煽りを受け、大和銀行の野球部も廃部に。その後、2002年からは大産大付高のコーチ、2003年からは監督に就任。2005年選抜大会に創部初となる出場を果たしたが、苦い経験もした。「不祥事があって翌年の入部者がすごく少ない時期がありました。それでも、入部してくれる子は『その野球部に魅力を感じて門を叩いてきてくれている』わけですよね。まずはその気持ちに対して敬意を表したいと考えるようになりました」。

 その考えは関大の監督になってからも変わらない。新入部員を受け入れる中で重視していることは実績や技術ではなく、“関大愛”がある学生に入部してほしいと話す。

「卒業するときに『野球部に入ってよかったな』と思える指導をしたい。私自身も付属高から関大に進みましたが、先輩方の“関大野球部への愛”をすごく感じて育ちました。その伝統を下の世代へ引き継いでいかないといけないというのは現役時代から強く感じています」。笑顔で卒業してもらうことが一番だと話す小田監督の指導理念には、“選手ファースト”がある。

 部員にはアルバイトをすることを認めている。多くの強豪体育会ではアルバイトが禁止されがちだが、小田監督は「夜間など練習に差し支えない範囲」であればと認めている。

「野球は相手のデータを頭に入れ、どうコースを突くかというスポーツ。勝つためには『相手が何を考えているか』がすごく大事。アルバイトでお客さんの立場になり『今何が必要か』を考える経験は野球にも繋がる。野球以外でもその学びの場はたくさんあると思います」。アルバイトをマイナスと捉えるのではなく、“人格の向上”を目指す上で社会経験を積む良い機会と考えている。

躍進の陰に“伝説の剛腕”あり…山口高志氏は「関大野球部の象徴」

ガッツポーズを見せる関大・山口高志アドバイザリースタッフ(中央)【写真:井上学】ガッツポーズを見せる関大・山口高志アドバイザリースタッフ(中央)【写真:井上学】

 関大の躍進の裏で、山口高志氏の存在は忘れてはならない。1972年の大学選手権で関大を日本一に導き、MVPを受賞。阪急(現・オリックス)時代に“剛腕”と称され、指導者としても阪神の絶対的守護神・藤川球児氏(現・阪神監督)を覚醒させたことでも知られる。

 現在は同校野球部でアドバイザリースタッフを務め、76歳になった今でも毎日グラウンドに足を運び、投手陣を指導している。「本当に大先輩なんですが、気兼ねなく何でも相談できる存在です。プロで大活躍された方ですが偉ぶることも一切なく、アドバイスもポイント、ポイントで的確に、押しつけることなく示してくださいます」と、小田監督は感謝の言葉を重ねる。

 現役時代の圧倒的な実績はもちろん、コーチとしても多大な功績を残した山口氏から指導を受けられる環境は、関大野球部にとって大きな財産だ。「山口さんご自身が関大野球部の象徴的な方。本当に目標とする存在だと思っています」。

 OBの金丸夢斗投手(現・中日)や現エースの米沢友翔投手(4年)も山口氏の指導を受けて大きく成長を遂げた。技術面にとどまらず、“精神的な支え”としてもチームに不可欠な存在となっている。

 5日からは秋の関西学生リーグが開幕。再び神宮の舞台を目指す戦いが始まる。「秋のキーポイントは『感謝と挑戦』です。春はノーマークに近い状態で勝ち上がれましたが、秋は各大学もマークしてきますから簡単には勝てません。これまで支えてくださった方々への感謝を持ちつつ、もう一度挑戦者として挑んでいきます」。野球を通じて人間力を磨き、仲間やOBとともに歓喜を分かち合う。“関大愛”を胸に刻む指揮官とナインたちは、さらなる高みを目指して再び歩みを進める。

再び神宮の舞台で歓喜の瞬間を【写真:井上学】再び神宮の舞台で歓喜の瞬間を【写真:井上学】

(神吉孝昌 / Takamasa Kanki)

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