ロッテ・唐川侑己が1年目で「ドカベン」に登場した背景 「先発させますよ」…“巨匠”の構想変えた1本の電話

初登板でプロ初勝利を挙げたロッテ・唐川侑己【写真提供:産経新聞社】初登板でプロ初勝利を挙げたロッテ・唐川侑己【写真提供:産経新聞社】

通算82勝…19歳の唐川侑己に見たプロ意識の高さ

 若い時から高かったプロフェッショナルな思考は、プロ19年目の今も全く変わっていなかった。それが長く現役を続けられた一因なのだろう。ロッテの唐川侑己投手が8日、ZOZOマリンスタジアムで引退会見を行った。プロ野球生活を「全然活躍はできなかった」と振り返った通算82勝右腕。その後に続けた言葉が、実に唐川らしかった。

「その中で自分なりに試行錯誤して、自問自答を繰り返して、時にはいろんな変化を自分の中で受け入れながら、やれることをやっていくしかない。その積み重ねの日々だったかなと思います。やっている以上は、自分の技を磨く。レベルアップするのは使命だと思っています。最後まで変わらず試行錯誤をしようと思いました」

 記者は、唐川が選抜大会に出場した成田高2年時から取材。ロッテ入団時に球団担当記者だったこともあり、目が離せない選手の一人だった。あれは確か2年目の春季キャンプ。1年目に1軍で結果を残し、プロでも順調に成長しているように見えた中で、投球フォームに違和感を覚えた。

 体の使い方の、ほんの少しの変化だったと思う。意図を確認しようとすると「よく見てますね。僕も一応、プロですから、いろいろ考えながらやっています」との回答。詳細は明かしてくれなかったが、当時19歳だった右腕の意識の高さを感じさせられた。

 150キロを超えるような直球はない。三振を量産できる変化球があるわけでもない。そんな中で常に向上心を忘れず、研究と調整を重ねる。直球主体では苦しくなり、投球スタイルの変更を余儀なくされても、必死に対応する。若い時も、ベテランとなっても、その姿勢は一貫していたのだ。

本拠地でプロ2勝目を挙げたロッテ・唐川侑己【写真提供:産経新聞社】本拠地でプロ2勝目を挙げたロッテ・唐川侑己【写真提供:産経新聞社】

 ルーキー時代は勢いがあった。2008年4月26日のソフトバンク戦(福岡ドーム)に、先発でプロ初登板。7回無失点の快投で白星デビューを飾ると、あれよあれよと3連勝して、ちょっとしたフィーバーとなった。登板のたびに長い原稿を求められるため、ネタを仕込んだ日々が懐かしい。

 ZOZOマリンスタジアム(当時は千葉マリンスタジアム)での練習中に雑談していた時のこと。記者の“バイブル”でもある水島新司氏の人気野球漫画「ドカベン」の質問をしてみた。

「読んだことある? 今はプロ野球バージョンをやっているけど……」。記者より一回り以上年下の唐川は“ドカベン世代”ではないと思っていたが、「読んでますよ」との返答に少し驚いた記憶がある。

電話に出た水島新司氏「唐川投手を先発させますよ」

 続けて「出てみたいと思わない?」と聞くと、「そりゃ出たいですよ」と即答。「ドカベン」は当時、週刊少年チャンピオン(秋田書店)で高校からプロ野球に進んだ主人公・山田太郎らの活躍を描く「スーパースターズ編」が連載されており、実在するプロ野球選手も登場していた。

 その多くは各球団の主力選手。ブレーク中とはいえ新人投手が登場するのは厳しいと思いつつ、秋田書店に探りの電話を入れた。最初は担当者と話していたが、何と「先生と代わりますね」と水島氏が電話口に。思い切って唐川にドカベンへの“出場願望”があることを伝え、今後登場する可能性があるかを質問した。

「そうですか。唐川投手、素晴らしいピッチングをしていますよね。それじゃあ、次の山田太郎との試合に投げさせます。中西球道を先発させるつもりでしたけど、唐川投手を先発させますよ」

 巨匠の作品構想を変更させたのは申し訳ない思いだったが、唐川の活躍ぶりを認識しており、担当記者として感じていた唐川の野球に取り組む真摯な姿勢などを伝えて、電話を切った。水島氏は約束通り、唐川を先発で起用。唐川が「マジっすか? うれしいですね」と驚きながらも笑みを広げた表情は今もよく覚えている。

19年の現役生活に終止符を打つロッテ・唐川侑己【写真:黒澤崇】19年の現役生活に終止符を打つロッテ・唐川侑己【写真:黒澤崇】

 漫画のように華々しい活躍が長く続いたわけではない。怪我での離脱も多く、中継ぎも経験。衝撃的なデビューを考えると、もっと多く勝っていても不思議ではない思いが残る。それでもプロフェッショナルな気持ちで取り組み続け、マイナーチェンジを繰り返しながら19年間走り続けてきた。

 多くのファンに愛された地元出身の背番号19。残した記録よりも、強く記憶に残る投手だった。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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