イチロー氏が女子野球に託す未来「これが大好き」 疲労困憊も…真剣勝負にしかない「敬意」

イチロー氏が固辞したパイプ椅子「それだと残念な感じになるから」
「SATO presents 高校野球女子選抜 vs イチロー選抜 KOBE CHIBEN」が13日、東京ドームで開催された。「1番・投手」でフル出場したイチロー氏(マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクター)は、選りすぐりの高校野球女子を相手に9回127球、5安打無失点で完封。打っては5打数2安打で、7-0で試合に勝利した。イチロー氏が毎年、女子高生に対し身を粉にして投げ続けるのはなぜか――。
「ちょっと座っていい? 本当に疲れちゃって。ごめんなさいね」
試合終了後、テレビのインタビューを終えたイチロー氏は、ペン記者による囲み取材の冒頭、こう断って会見室の床に座り込んだ。主催側が急きょ設けようとしたパイプ椅子を「それだと残念な感じになるから、こっちのほうがいい。見た目は大事だからね」と固辞したところに、イチロー氏らしいこだわりがうかがえた。
疲労困憊していたのも無理はない。10月22日の誕生日に53歳となるイチロー氏が、127球完封を成し遂げ、最速136キロを計測した。2021年から女子野球の振興を目的として毎年開催し、今年で6年目を迎えたこの試合を含め、イチロー氏は全て先発完投。そのうち4試合で完封しているのだ。
「僕が(投手として)全力でいくことはマストです。そうでないと、女子が上手くなってきているのかどうかなどを測れないから。手抜きをしたら台無しになってしまう」と強調する。
イチロー氏が厚い“壁”であり続けてきたなか、高校野球女子のレベルは着実に上がってきたようだ。この日、女子選抜の1番打者としてフル出場した福田稟内野手(神戸弘陵)は、“イチロー投手”に対し4打数3安打。安打をマークできなかった3打席目も、痛烈な当たりが敵失を誘い、4打席すべてで出塁した。イチロー氏に「全部やられたようなものです。今までの経験にはない。驚きました。ああいうレベルの選手が9人いたらと考えると、本当に恐ろしい」と言わしめた。

中1の頃から憧れてきた試合に出場した野球少女「感慨深い」
一方、イチロー氏は「体は若い時と変わっていないつもりなのに、球は遅いし、練習でもなかなかホームランを打てない」と嘆きつつ、「歳だから」というような漠然とした言い訳はしない。「体調はいいはずなので、不思議を感じています。(球速や飛距離が出ない)理由を解明したい」と首を捻る姿は、まさに求道者だ。
いまや、この試合に出場することを目標にしている野球女子も多い。この日出場した選抜チームのメンバーの多くは、6年目を迎えたこの試合に、中1の頃から憧れを抱いてきた。イチロー氏は「感慨深いですね。そういうのを目指してきましたから。永遠には続かないけれど、そういう年代と一緒にやれている。続けてこられたのはファンの皆さんのお陰ですが、時間がたたないと、その現象は起きませんから」とうなずいた。
さらに、「こんなに敬意があふれているゲームは他にない。いろいろなレベルで敬意が失われつつある中で、僕はこれが大好きです」と言葉を残した。
囲み取材の最後には「こんな会見、見たことがないでしょ。試合後の選手がこの状態。マジで疲れているということです。本当にぐったりしているもの、今」と苦笑いを浮かべたが、表情はこの上なく清々しく見えた。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)