折れたバットが頭部直撃…救急車で搬送「動くな」 飛び散った血「切れたところを縫って」

日本ハムでコーチを務めた八木裕氏【写真:山口真司】
日本ハムでコーチを務めた八木裕氏【写真:山口真司】

八木裕氏は日本ハムのコーチ時代にキャンプで選手に“標語”を授けた

 現役時代に阪神でレギュラーとしても、代打としても実績を残した八木裕氏は2023年シーズンから3年間にわたって日本ハム1軍打撃コーチとして尽力した。阪神時代の後輩である新庄剛志監督をバックアップするべく、野球人生で得た技術と知識をファイターズナインに惜しむことなく注いだ。日本ハムラストイヤーとなった2025年の9月には打者の折れたバットが頭部に直撃するアクシデントに見舞われ、心配されたが、現在は野球評論家などで元気に活動中。さらなる野球界への恩返しに燃えている。

 日本ハムコーチとしての1年目(2023年)の沖縄・名護キャンプで八木氏は毎日“標語”を掲げた。「ボールカウントによってバッティングは変化しなければならない。投手、打者の対戦はボールカウントによって支配されている」「後ろの足は軸足ではなく、ねばる足、パワーを伝える足である、バッティングにおける軸は無数に存在する」「考え方の前に感じ方を高めること、感じて、考えて、実行する」など……。これは当時、話題にもなった。

「1年目だけですけどね。あれには(元阪神監督の)野村(克也)さんの“考え”も半分くらいは入っています。自分の考えだけじゃなくて、野球界の偉大な人が考えられたことを伝える義務が我々にはあると思う。だから選手にも『野村さんが考えたものもあるよ』とあらかじめ言っていました。書いてあれば、頭にも入りやすいと思ったし……。人に見せて、みんなが納得できるものじゃないといけないから(発表する前に)ボツになったのもたくさんありましたけどね(笑)」

 絶対に覚えなければいけないというものではなく、少しでも選手の手助けになればとの思いで始めたものでもあった。そんな形で日本ハムコーチ生活はスタートを切り、選手をサポートすることだけを考えて2025年まで3シーズンを駆け抜けた。その間のチーム成績は、2023年こそ最下位に終わったが、2024年、2025年は2位。「3年目(2025年)の2位は優勝できるチャンスがあったのでもったいなかったですね。まぁ、心残りはそこですかね」と話した。

8日間の入院「1週間は点滴を付けっぱなし」

 その3年目にはアクシデントにも見舞われた。9月9日のソフトバンク戦(エスコンフィールド)、7-3の8回にソフトバンク・近藤健介外野手の折れたバットが一塁側ベンチにいた八木氏の左側頭部に直撃した。「普段、守っている時はベンチ裏でデータとか処理をしているんですが、あの時は勝っていて8回だったんで余裕こいてベンチにいた。いつも座っていないところに座ったんです、あのイニングだけ。バチが当たりました」と淡々と話したが、危険なシーンだった。

「バットが折れたのがわからなかった。普通に打ったと思った。だから(バットは)すぐには折れてなかったんですよ。普通、折れたらだいたい前にフェアゾーンとかに飛ぶんですけど、一塁側に来たのは途中まで(折れずに)ついていたんですよ。それで僕は打球の方を見ちゃったんです。ああ、センター前に落ちるかなって思ったところで“ゴン!”って来たから全く見えていなかったんです。意識はしっかりしていたんですけど『動くな』って言われて救急車で病院に運ばれて8日間入院しました」

 診断の結果は「脳内出血と挫傷でした」と言う。「切れたところを縫って、1週間は点滴を付けっぱなし。それで血を散らしていくという……。で、リハビリ。脳なのでいろんな問題を解いたりしました。割り算とかね。筆算でのやり方を一瞬”どうやったっけな”ってなったけど、まぁ一応大丈夫でしたよ。今、現在、後遺症もありません」と笑みも浮かべながら話した。

 3年で日本ハムコーチを退任したことについては「まぁ、それ(怪我)も含めてですけど、シーズン途中から今年で終わりかなとは思っていました」と語り「清宮(幸太郎内野手)、万波(中正外野手)、野村(佑希内野手)の3人はもうワンランク、ツーランク上げたいなと思っていた。もっと伸びてほしかった。清宮と万波は30発打てるはずだし、野村は20発でいいけど、打率をもっと上げないといけない。まぁ、それも心残りではありますね」と付け加えた。

「ちゃんと野球を伝えていくことを恩返しで」

 さらには「実は僕が日本ハムで一番勉強させてもらいました。すごい財産になりました」とも口にした。「結局、レギュラーでやる選手は土台なんですよ。この体の作り方が一番大事なんですが、どうしても練習してうまくなって強くなってっていう方向にしちゃうんです。じゃないんですよ。トレーニングの方が重要なんです、特にファームの選手は。そういうことが日本ハムに行ってよくわかりました」。

 2026年からは野球評論家として再スタートを切った八木氏だが、その傍らで社会人野球・アスミビルダーズ(兵庫)の打撃コーチにも就任するなど、元気に活動中だ。「幼稚園児でも小学生でも中学生でも高校生でも、大学生でも社会人でも、どのレベルに対しても何か携わることがあったら、そこでちゃんと野球を伝えていくことを恩返しでやらなければいけない。放送などでも野球界のためになることなら、どんどん発信していこうと思っています」。

 古巣の阪神はもちろん、日本ハムのことも気になっているし「僕が携わった選手、みんながよくなってくれればうれしいですね」。かつて代打の神様と呼ばれた八木氏はまだ61歳。「今は投げるメカニック、打つメカニックばかりがクローズアップされて心のこととか、頭のこととかがあまり言われない。小学校からプロ野球まで、どのレベルもそっちばかりにシフトしているので、ちょっと違うかなと。野球本来の面白さが損なわれているんではないかと思います」。まだまだ気合も十分だ。

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