横浜が秋季神奈川大会3回戦から登場…横浜栄に7回コールド勝ち
9月5日に開幕した秋季高校野球神奈川県大会はベスト32が出揃い、19日に4回戦が行われる。県内公式戦39連勝、4季連続甲子園出場中の横浜は15日に初戦となる3回戦を迎え、U-18日本代表の川上慧、小林鉄三郎がベンチで見守る中、18-4の7回コールドで横浜栄を下した。
3回まで横浜栄の技巧派左腕・後岡潤の緩急に対応できずにノーヒットに抑えられたが、4回から打線が爆発し、20安打18得点。2番に入った宮越祐太が本塁打を含む3安打、1年生の3番・舩山大翔も3安打を放つなど、新戦力の活躍が目立った。投手陣は、夏を経験した中嶋海人が5回途中1失点と好投を見せた。
村田浩明監督は、冷静に試合を振り返った。
「不安の多い中だったので、うまくいくことは絶対にないと思っていたんですけど、大味な試合となって、ただこればかりは致し方ないかなと。この試合を通して、選手たちが『このままだとマズイ』ということに気付いてほしいと思います」
結果的にはコールド勝ちだったが、打線は3回まで無安打。120キロ台のストレートに差し込まれ、ヒット性の当たりもゼロ。投手陣は2番手の中村蒼一郎、4番手の二村虎次郎がそれぞれ失点し、バタつく場面もあった。
指揮官が「致し方ない」と表現するのは理由がある。夏の甲子園後、8月27日から31日まで北海道紋別市で例年通り合宿を組み、試合も行ったが、新主将に就いた川上とエースの小林はU-18日本代表に選ばれたため不在。内野手の田島陽翔ら、甲子園に出場した選手もコンディションを考慮して試合に出ていなかった。
合宿後、練習試合は複数組まれていたが、雨による中止も多く、村田監督が采配をふるい、甲子園組も出場したのは13日の1試合のみ。手応えは何もない状態で臨んだ、県大会初戦だった。
3回戦スタートになった背景…神奈川高野連が定めた独自の決まり
村田監督は3回戦からの出場に関して、「ありがたかった」と素直な気持ちを口にした。
例年であれば、夏の甲子園出場校は秋の地区予選は免除で、県大会2回戦から登場する。川上と小林がU-18アジア選手権に出場するため、「大会序盤は主将とエース不在で戦うことになるのでは?」と心配されていたが、神奈川高野連の“配慮”で3回戦スタートになった。しかも、ほかの3回戦は12日に終わっていたが、U-18の帰国を待って、15日の火曜日に組まれた。
じつは、こうした“配慮”は今回急に決まったことではなく、数年前から県内の加盟校に通知されていることだった。県高野連の榊原秀樹専務理事が、その背景を明かす。
「2年生がU-18に選ばれたり、自チームの監督が代表のスタッフに選出された場合は、秋季大会に支障が出ないような日程を組む。2~3年前に、県高野連としての規定を作りました」
他県では、監督がU-18に同行している間に、秋季大会で負けた学校もある。他県の事例も目にしながら、神奈川独自の決まりを定めたという。
なお、今回の秋季大会はかなりの変則日程となっている。年間計画では10月3日が準決勝、4日が決勝の予定だったが、横浜が10月3日開幕の国民スポーツ大会に出場するために日程を調整。9月19日に4回戦が行われたあと、24日に準々決勝、27日に準決勝、30日に決勝と、平日を2度使い、日程を進めていく。
榊原専務理事によれば、国民スポーツ大会に加えて、秋季関東大会(10月17日から群馬県)との絡みもあるという。
「10月8日に抽選会があるので、そこまでに代表校を決定しなければいけない事情があります。そう考えたときに、決勝は9月30日となりました」
今後の雨次第では、過密日程になることも考えられ、投手層が厚いチームが有利になる可能性もありそうだ。
新主将・川上慧が前任の小野舜友から得た学び
毎年、チームの中心にいるのがキャプテンであり、2025年は阿部葉太(早大)、2026年は小野舜友が務め、U-18でもそれぞれキャプテンを任されたリーダーシップを持っていた。今年、偉大な先輩のあとを継ぐのが川上だ。村田監督に「川上評」を聞くと、開口一番「いいと思います」と声が弾んだ。
「川上は頭がいいので、阿部、小野のいいところを見てきています。視野が広くて、監督の様子もちょっと伺いながらできる。同級生にもはっきりとモノを言えて、伝えられる。正直、昨年は阿部のあとにやる小野はかわいそうだなと思ったんですけど、今年はそうは思わない。川上なら『できるだろうな』という感覚がすごくあります」
川上自身もキャプテンへの想いは強い。
「もう、自分しかいないと思っていました。1年生の頃から試合に出させていただいて、いろいろな経験を積ませてもらっていたので。任せてもらったからには、全力でチームを引っ張っていきたい。自分らしくやって、阿部さん、小野さんを超えられるような存在になりたいです」
「自分らしく」とは――?
「熱くなるというか、カッとなって言い過ぎてしまうのが、いいところでも悪いところでもあるんですけど、厳しく言えるところが自分自身の強みかなと思っています」
ただし、厳しさだけでは、周りがついてこないことはわかっている。ともに戦ってきた小野先輩からの学びでもある。
「小野さんは、後輩への接し方が本当に素晴らしくて、尊敬しています。自分たちがエラーしても、『お前のせいじゃないよ』と声をかけてくれて、後輩を責めるようなことは一度もありませんでした。本当にのびのびやらせてもらったので、自分も小野さんのやり方を真似するだけでなく、どんどん成長していきたいと思っています」
3回戦はコンディションを考慮してベンチスタートになったが、シートノックではショートの二枚目に入り、これまで守っていたサードからのコンバートも選択肢のひとつに挙がっている。昨秋、池田聖摩が腰痛で離脱していたときにはショートを任され、チーム内から高い評価を得ていた。
新チームのスローガンは『On Fire』
じつは、川上が新チームのシートノックに入ったのは、この日が初めて。夏の甲子園後、U-18に合流するまでの数日間、練習に出ていたが、シートノックからは外れていた。およそ3週間ぶりに見たチームの成長はどう感じたか。
「U-18に行く前の練習では、ボール回しもまともにできない状況だったんですけど、今はボール回しの精度や声かけの意識が上がっていて、マウンドに集まるパワーが大きくなっている。技術面でもひとりひとりが成長しているように感じました」
もちろん、現時点では課題の方が多い。見方を変えれば、そのすべてが伸び代と言える。
横浜栄戦で印象に残ったのは、走塁に対する意識の高さだ。6回の攻撃で、無死から代打の鴇田航望が失策で出塁すると、9番・窪倉司竜のライト前ヒットで、一、二塁とチャンスを広げた。
ここで、二塁で止まった鴇田に対して、ベンチにいた川上が「(三塁を)狙えるだろ!」と激しい声で指摘。この直後、二塁に代走・田中歩希が送られた。
「走塁面でまだまだのところが見えたので、自分としてはもっとできるかなと思います」
ランナーもコーチャーも、ボールの行方を指差し確認することが徹底されていて、何を大事にしているのかが伝わってきた。
新チームのスローガンは、『On Fire』(オンファイア)。燃えて、燃えて、熱く戦う。
「どれだけ熱く戦えるか。全員が泥臭くやって、夏の全国制覇を成し遂げられるチームを作っていきたいです」
10か月後の夏、どんなチームに成長しているか。川上世代の戦いが始まった。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。