4年目のドラフト1位…初のAクラス争いを展開する9月
プロ4年目で未体験ゾーンを味わっている。西武の蛭間拓哉外野手はキャリアで2番目に少ない出場試合数に甘んじているが、9月9日の2度目の1軍昇格以降、緊迫の順位争いの中に身を投じ、比類なき充実感を得ている。
「Aクラスというのは自分にとって初めてですし、なかなか味わうことのなかった緊張感というのはあると思います」
今季は開幕1軍を逃し初昇格は7月3日。7月は月間打率.306も、8月は同.226とふるわず2軍へ。それでも9月9日に再び1軍から声がかかった。チームはリーグ制覇を果たしたソフトバンクにゲーム差を離されていたが、3位の日本ハムと激しい上位争いを展開している真っ最中だった。
「すごくありがたい経験をさせていただいているなって感じます。自分自身、シーズン終盤の9月に1軍にいるということが、あまりなかったので」
蛭間が入団してからのチーム成績は5位、6位、5位。夏場には終戦を迎えてしまうような厳しい3年間だった。初めて経験するAクラスを争うシーズン終盤。ミーティングやベンチでの、同僚の一つ一つの言動に“ヒリヒリ”するような感覚に浸ることができている。26歳の若獅子は“違い”を証言する。
「チーム全員で戦っているなっていうのはすごく感じています。個人個人が自分の役割に徹しているというか、試合に出る人がグラウンドで結果を出すのはそうですが、出ていない人もみんな声を出しています。途中から出る人は、言われて動くんじゃなくて、今は自分たちでこの場面ありそうだなと感じたら、すぐに打つ準備を始めています」
過去のシーズンも、チーム内にそういった動きがなかったというわけではない。ただ、今季は「強くなったとすごく感じます。今までとはちょっと違うな、と」。蛭間の今季出場は34試合で、昨季の12試合に次ぐ少なさではあるが、同僚が作り出す空気に触れることで成長を実感している。
叩き込まれた“小宮山イズム”…早大は「他の大学とは違う」
決して納得できる成績を残しているわけではないが、恩師の“目”は常に感じ、背筋を伸ばしてユニホームに袖を通している。現在、開幕している東京六大学野球秋季リーグを最後に、8年間にわたる指揮に終止符を打つ早大・小宮山悟監督の存在だ。
蛭間は小宮山監督の指導のもと、ドラフト1位で指名される選手へと成長した。小宮山監督は退任会見で「笑って楽しく野球をしたいなら、ここを去れ」「神宮の舞台に立ち、早稲田のために頑張るという思いのあるやつが歯を食いしばって頑張れば、野球の神様がそれなりのことをしてくれるはずだ」などと選手に伝えていたことを明かし、野球にストイックな姿勢を求めた。
「厳しかったですけど、言っていることはもう、本当に当たり前のことでした。例えば靴をしっかり並べろとか、身だしなみをしっかりしろとか。簡単なことなんですけど、人として当たり前のことを当たり前にできるようになれ、ということをずっと言われていました」
蛭間が振り返る。叱られたことは何度もあったという。「早稲田の野球部には“他人迷惑無用”って言葉があるんですけど、人に迷惑をかけるような行動をするな、とかチームスポーツの中で自分勝手な行動をするなと。早稲田大学野球部は他の大学とは違うっていうのは、はい、すごく言われました」。今でも恩師の教えは浸透している。
プロは「洗濯とか全部やってもらうのが当たり前」の世界ではあるが、感謝の気持ちを持ち続け、自分でできる部分は自力でやっている。「靴を並べるとか、ほんと、ちっちゃいことかもしれませんけど、そういうのはすごく意識して今でもやっています」と明かす。
記者は思わず「ちなみに今、ロッカールームでも蛭間選手のシューズは綺麗に並んでいるんですか?」とベンチの“向こう側”を指さして聞いてみた。「はい、並んでいますよ! 見ていただければわかるんですけどね」と嬉しそうに返ってきた。
「8個くらいバババババ…って」
小宮山監督とは現在も連絡を取りあっているという。9月8日、蛭間の誕生日にはお祝いのラインが届いた。同日はまだ2軍にいたが「野球の神様が見ているから、一緒に頑張れ」とメッセージが添えてあったという。
翌9日に1軍昇格を果たし、代打で即安打を放つと再び連絡が。「よくやった、みたいなスタンプが来ました」。どんな絵柄を使用しているのか、気になってさらに聞いた。「初めてみたヤツですね。(親指を立てた)グッドマークが8個くらいバババババ……って並んでいました」と教えてくれた。
「野球を離れて話すと、ボケたりとか、そういう一面もありますね」と“素顔”を明かした。「嬉しいですね。気にかけていただいているので」。かつての指揮官との繋がりに感謝する。
2026年シーズンの残り試合はわずかだが、プレーオフへと戦いは続く。どんな状況でも自らの役割を果たすだけだ。一生懸命チームへ尽くすことが、小宮山監督への恩返しとなる。
(湯浅大 / Dai Yuasa)