異国で痛感した現実「野球から離れてしまう」 大切にした“5000人”…29歳コーチが頼った日本流

ボールを寄贈するU-18日本代表・岡田龍生監督(左)とスリランカ代表の古谷拓斗コーチ【写真提供:NPBエンタープライズ】
ボールを寄贈するU-18日本代表・岡田龍生監督(左)とスリランカ代表の古谷拓斗コーチ【写真提供:NPBエンタープライズ】

U-18スリランカ代表でコーチとして奮闘した古谷拓斗さん

「第14回 BFA U18アジア野球選手権」に出場した侍ジャパンU-18日本代表は大会終了後、野球普及活動の一環として、1次リーグで対戦したスリランカ代表へ練習で使用した硬式球150個を寄贈した。そのボールを受け取ったのは、今大会にコーチとして帯同した1人の日本人だった。

 秋田県出身の古谷拓斗(ふるや・ひろと)さん、29歳。高校、大学は投手として野球を続け、卒業後は岩手県のNPO法人で教育事業に携わってきた。そして今年5月、念願かなってJICA(国際協力機構)の海外協力隊の隊員としてスリランカに赴任。学校で野球の普及活動や指導をすることになったが、待ち受けていたのは過酷な現実だった。

 国民的スポーツであるクリケットが圧倒的な人気を誇るスリランカの野球人口は5000人程度。何より深刻なのが極端な「道具不足」だ。国内に野球用の用具店などは存在せず、日本などからの寄付に頼っているのが現状だ。

「正直、どこから手をつければいいのか分からない」と、日本の常識が一切通じない環境に、思わず本音も漏れる。元投手でありながら、現地の指導者が足りないため全ポジションの指導を1人でこなす日々をおくる。

 それでも、言葉も通じない中で、自身を全力で受け入れてくれる子どもたちの笑顔と、人懐っこい現地の人々の温かさが29歳の背中を押し続けている。「すぐ関係性を築くことができました。本当に彼らのことが好きなんです」と、笑みもこぼれる。

U18 アジア選手権で奮闘したスリランカ代表【写真:神吉孝昌】
U18 アジア選手権で奮闘したスリランカ代表【写真:神吉孝昌】

「難しく教えると離れる」スリランカで辿り着いた指導論

 ルールも教わっていない子どもたちを前に、古谷さんが行き着いたのは“ハードルを極限まで下げる”指導論だった。「難しく教えすぎると、逆に野球から離れてしまう。まずは『楽しい』『自分もできそう』と思ってもらうことが第一歩」。技術の注入よりも前に、全力疾走やマナー、スピーディーな攻守交代といった「野球に対する姿勢」を丁寧に伝えている。

 そんな時に日本チームから届いた150個のボール。スリランカ野球連盟のスジーワ・ウィジャヤナーヤカ副会長も「野球道具がなくて、活動が広められないところもあるため、ボールをいただけるのはありがたいことです。スリランカの高校野球チームに渡したり、公式大会でも日本の高校野球のボールを使っていきたい」と、深い感謝を口にした。

 専門用具店がなく、バット1本すら貴重な現場。道具不足に悩み続けていた古谷さんにとっても、今回の支援はこれ以上ない励みとなった。

「彼らは本当にいい子たちばかり。日本人指導者として、ちゃんと向き合っていきたい」。U-18日本代表から送られた白球を手に、スリランカの子どもたちとグラウンドへ向かう。

(神吉孝昌 / Takamasa Kanki)

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