慶応の二刀流・湯本琢心、織田翔希との対戦は「財産」 崩す“横浜一強”の構図…森林監督「勝って優勝」

慶応の湯本琢心は打線の中心として打倒・横浜を誓う【写真:大利実】慶応の湯本琢心は打線の中心として打倒・横浜を誓う【写真:大利実】

秋季神奈川大会で8強進出の慶応…ベスト4だった今夏の主力が複数残る

 9月5日に開幕した秋季高校野球神奈川県大会は、24日に準々決勝4試合が行われる。5季連続甲子園を狙う横浜、巻き返しを期す東海大相模などとともに、ベスト8に名乗りを挙げたのが慶応だ。4回戦では、10-0の6回コールドで綾瀬西を下した。今夏ベスト4を経験した主力が複数残り、ここまでは盤石の戦いを見せている。

 準々決勝の相手は鎌倉学園。ここから難敵が続くが、勝ち上がるためのカギは何か。

「相手に、“何でもあり”という印象をいかに与えられるかだと思います」

 森林貴彦監督の言葉である。

「打つことに関しては、湯本(琢心=たくみ)を中心にある程度の力はありますけど、それだけではなく、セーフティバントや小技を絡めて、どれだけ相手が嫌がることができるか。矢口(翔大)、西川(翔真)、渡辺(英亜=えあ)、湯本、檀上(直太郎)ら、足を使える選手が結構多いので、攻撃の幅を増やしていきたいですね」

 綾瀬西戦では、初回に先頭の渡辺が二塁打で出塁すると、すぐさま矢口がセーフティバントを決めて、チャンスを拡大。2回には無死から矢口が出塁し、続く西川の初球にバスターエンドランを敢行した。相手との力関係もあるが、積極的に動く。

 キャプテンに就任したのは、サードを守る橋本周磨。例年、慶応はキャプテンの色がチームの色になりやすい。

「橋本は根が明るくて、リーダーシップがあって、言葉に力があって、目にも力がある。大村(昊澄、慶大)に近いタイプだと思います」

 森林監督は、2023年夏に日本一を遂げたときのキャプテン・大村の名を挙げて、新主将の魅力を教えてくれた。

OBの鷹・正木智也同様にバッティングを追求する湯本琢心

 9月17日、OBの正木智也、柳町達、廣瀬隆太が在籍するソフトバンクがリーグ優勝を遂げた。今シーズン大ブレークを果たしたのが正木で、1番打者として27本塁打、打率.283の数字を残している。

OBのソフトバンク・正木智也は在学中、いつまでもバットを振っていたという【写真:栗木一考】OBのソフトバンク・正木智也は在学中、いつまでもバットを振っていたという【写真:栗木一考】

高校時代の取り組みを振り返ったときに、今の高校生が学べるのはどんなことか。

「バッティングを追求する姿勢は素晴らしいものがありました。いつも遅くまで残って、学生コーチと練習をしていたのが正木。下校時間があるので、『何時までやりました』とは公には言いにくいですけど、ずっと練習していましたね。今年の活躍を見ていると、1番打者として積極的にバットを振っているのがいいですよね。今日、うちも渡辺英亜を1番に置いたのは、正木のイメージもありました」

 渡辺は183センチ、85キロの右の大砲で、体つきを見れば、クリーンアップタイプだが、相手への威圧感も考えて1番打者に入れた。そこから、矢口、西川とミート力と足を持つ左打者がつなぎ、4番には二刀流として高いポテンシャルを持つ湯本が座る。

「湯本も、正木と同じようにバッティングを追求するタイプ。それに、野球が大好き。ちょっと悩みがちなところがありますけど、何も考えないよりはずっといいと思います。今のうちにたくさん悩んで、悩んで、試行錯誤してくれればいいですね」

 湯本は秋の地区予選から県大会3回戦まで、4試合連続ホームランを記録。ピッチャーとしての能力にも優れ、今夏の横浜スタジアムで最速148キロをマークしている。湯本が投打で活躍できれば、おのずと甲子園が近付いてくるはずだ。

横浜の織田との対戦は大きな刺激となった【写真:加治屋友輝】横浜の織田との対戦は大きな刺激となった【写真:加治屋友輝】

二刀流で注目集める湯本の現在地「どっちもやりたい」

 4試合連続ホームランを放ったが、自身のバッティングには納得がいっていない。

「地区予選のホームランは日吉台(自校グラウンド)の狭いところだったので、球場の広さだと入っていなかったと思います。ホームランが出ているんですけど、自分としては三振が増えていて、打率が低い。打球の角度をもう少し下げて、打率を残していきたいです」

 二刀流で注目を集めているが、今の意識は「1対1」。「得意なのはバッティングですけど、どっちもやりたい」とのこと。打つことも投げることも、夏の準決勝で対戦した横浜・織田翔希から大きな刺激を受けたと明かす。

「織田投手と対戦したことは、本当にいい経験になり、財産になっています。真っすぐがくるとわかっていても、前に飛ばせませんでした。ああいう投手を打たないと甲子園で勝って日本一になることはできない。速い真っすぐに振り負けないことを、より意識しています」

 織田には、投ゴロ、三塁ファウルフライ、見逃し三振と、完ぺきに抑え込まれた。

 投手・湯本として目指すのは、「勝たせるピッチャー」。織田がよく口にしていた言葉でもある。

「もう本当に、織田投手を見ていてそう思いました。夏の甲子園の日南学園戦で、ノーアウト満塁から全球真っすぐで抑えて、あれで完全に流れがきた。メンタルも強くて、エースってああいうことだなと感じました」

 夏を戦ったことで、フィジカル面での課題も感じたという。現在179センチ、84キロ。夏と秋で体重はほぼ変わっていないが、「夏の大会中はウエートトレーニングがほとんどできずに、筋肉量が落ちてしまっていた」と反省する。新チームからまた本格的にウエートに励み、筋肉量を戻したうえで、秋の大会に臨んでいる。

湯本は投打二刀流としても注目される【写真提供:産経新聞社】湯本は投打二刀流としても注目される【写真提供:産経新聞社】

『横浜一強』を止め、目指す4年ぶり選抜出場「倒すことは、絶対条件」

 毎年新チーム結成時に、スローガンを掲げる。近年は少し捻りを加えた四字熟語が続き、昨年は『最幸喜恩』(さいこうきおん)だったが、今年は――。

『刻志無双』(こくしむそう)。

 湯本がその意味を教えてくれた。

「志を高く持って、時代を作り、無双する」
 無双には、「並ぶものがないほど優れていること」という意味がある。

 ここ2年半、神奈川県で勝ち続けているのが横浜だ。県内41連勝中で、4季連続甲子園に出場。王者・横浜を倒さなければ、甲子園は見えてこない。文字通り「横浜一強」が続いているが、森林監督は現状をどう捉えているか。

「ここのところ、ずっと横浜が勝っていますからね。そろそろ、止められるように。横浜に勝って優勝する。選手たちも口に出していることです」

 湯本の決意は--。

「もう負けてられないので。チームの目標は関東制覇。そのためにも横浜を倒すことは、絶対条件です」

 ひとつずつ勝利を積み重ねた先に、4年ぶりの選抜が見えてくる。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

@mino8989

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