横浜・村田浩明監督も脱帽した分析力 強豪大学で多くのプロ輩出…武相・豊田圭史監督の“勝算”「次やりますよ」

激戦区・神奈川で秋4強に入った武相ナイン【写真:大利実】激戦区・神奈川で秋4強に入った武相ナイン【写真:大利実】

準々決勝で平塚学園に7回コールド勝ち…武相が秋季大会で15年ぶり4強進出

 秋季高校野球神奈川県大会は9月24日に準々決勝が行われ、横浜、武相、慶応、東海大相模がベスト4に勝ち進んだ。秋の大会では15年ぶりに4強に名乗りを挙げたのが、武相である。難敵の平塚学園に対して、序盤から足を絡めて積極的に攻め続け、投げてはエース左腕・坂本真晟(しんせい)が相手打線を2安打に封じ込め、7-0の7回コールドで快勝した。

 試合後の挨拶を終えたあと、武相の選手たちは優勝したかのような喜びようで、一塁側の応援席に向かった。応援に来ていた3年生に何度もガッツポーズを繰り返し、スタンドのフェンスに近付きそうになったところで、豊田圭史監督が止めに入った。

「次もあるからあまり喜び過ぎるなよ」

 と言ったのだろうと見ていたら、監督自身が応援席に両手でガッツポーズ。会心の勝利だったことが伝わってきた。

 一塁側ベンチに戻ると、「集合!」の声がかかった。

「言った通りだろう。本当によくやった。次は横浜。絶対にやってやるぞ! ナイスゲーム!」

 雄叫びを挙げる選手たちの喜びは、ベンチ裏に下がっても続いていた。

 なぜ、ここまで喜んでいたのか。試合後の豊田監督の言葉にその理由が詰まっていた。

「(4回戦から)中4日の間に平塚学園さんのビデオを見て、データを取って、自分の目を信じて、選手に戦い方を伝えていました。それを選手が信じてくれて、対策通りにやれたことが、いい結果につながったと思います」

 平塚学園のエースは、140キロ前後のストレートとスライダーを武器にするサイドハンド・二村晴天(せいま)。豊田監督の見立ては、「好きなように投げさせたら打てない」だった。

 初回の攻撃に、武相の狙いが詰まっていた。先頭の藤山颯己が初球にセーフティバントを決めると、渡邉翔塁(かける)が犠打で送り、一死二塁から三盗を仕掛けた。ギリギリのタイミングでアウトになったが、「こうなったらこうすると決めていた」と指揮官は明かす。
 
 さらに2回には二死からエラーで出塁した富田龍成が二盗に成功。セットポジションの間にスタートを切る「フライングスタート」で、完全にモーションを盗んでいた。これを起点にして、立花虎之介、須藤慎之助の連打で2点を先制した。

 以降もバントを巧みに絡めながら、着実に加点し、7回には無死満塁から8番の須藤がこの日4本目のヒットを放ち、コールド勝ちを決めた。

平塚学園戦で4安打を放った武相・須藤慎之助【写真:大利実】平塚学園戦で4安打を放った武相・須藤慎之助【写真:大利実】

準々決勝で4安打の須藤は「外崎に似たタイプ」

 豊田監督は、北東北大学野球リーグの強豪・富士大を率いて8度の全国大会出場経験を持つ。教え子には山川穂高(ソフトバンク)、外崎修汰(西武)、鈴木翔天(楽天)らがいる。

 2020年8月から、母校でもある武相の監督に就任すると、「あきらめない」「全員で粘り強く戦う」という野球の原点を徹底的に教え込み、2024年春に42年ぶりに県大会を制し、夏はベスト4、秋はベスト8に勝ち進んだ。

 激戦区・神奈川を勝つことの難しさとともに、やりがいを感じ、「さらに上へ」と意気込んだが、ここからベスト8入りを逃す結果が続いた。今年は、春夏ともに3回戦で県立の川和に惜敗した。

「ベスト4は2年ぶり。2年……、長かったですね。今年は春も夏も川和さんに負けて、自分の中ではだいぶ苦しかったんですけど、あきらめないで、コーチと選手と一緒にチームを作ってきました」

 夏は下級生主体のチームで、6人の2年生がスタメンで出場していた。負けた悔しさを忘れずに、夏休みは野球に明け暮れ、一体感を高めてきた。

「正直、夏は下級生中心だったので、チームを作り上げるには時間がなかなか足りず、自分自身も苦しさがありました。でもやり続けることで、必ずチャンスは出てくる。自分としては、『コーチと選手と協力してチームを作る』をもう一度大事にしました。コーチとは、練習メニューや選手起用を相談する。選手は夏に苦しんだ選手が多かったんですけど、本当によく頑張ってくれています」

 平塚学園戦で4安打を放った須藤は、入学時から「高いポテンシャルを持った内野手が入ってきますよ」と指揮官が楽しみにしていた選手だ。青森山田シニア出身で、縁があって武相に入学した。ただ、そのポテンシャルをなかなか発揮できず、今夏の大会前には右手首にデッドボールを受けて骨折していた。

「人間的にも素晴らしい選手で、言うことがないような人間性を持っています。彼も苦しんでいたと思うんですけど、この秋は慎之助と勝負をかける。今日は4打数4安打。たいしたものです」

 少々差し込まれても、外野の奥まで飛ばせる体幹の強さがあり、「外崎に似たタイプ」と高い評価を送る。

準決勝は強豪・横浜に挑む【写真:大利実】準決勝は強豪・横浜に挑む【写真:大利実】

横浜・村田監督が脱帽した2年前の対戦「丸裸にされていました」

 準決勝の相手は、県内42連勝中の横浜。2024年は夏の準決勝で1-2のサヨナラ負け、秋に再び準決勝で当たり1-6で力負けを喫した。それ以来の対決となる。

「横浜さんの試合はまだ一度ももちゃんと見ていないので、今日の夜からしっかりとビデオを見て、自分の中でどうやって戦っていくかイメージを作って、明日からの練習に向かいたいです」

 分析には自信を持つ。2024年夏の激闘のあと、横浜・村田浩明監督が「豊田監督に丸裸にされていました」と脱帽したこともあった。

 平塚学園戦で好投した左腕の坂本は、右打者の外に落ちるチェンジアップでタイミングをずらした。平塚学園は右打者が8人並んでいたが、横浜は準々決勝のスタメンを見ると左打者が7人。左対左でインコースをいかに使えるかがポイントになりそうだ。もちろん、坂本以外のピッチャーの起用も考えられる。

 横浜戦の対策はこれからになるが、気持ちのうえでは戦う準備はできている。

 試合後に口にした「やってやるぞ!」の真意を聞くと、豊田監督は声のトーンを上げながら答えた。

「いや、もう42連勝ですか。負けていないチームですから。村田監督が作っているチームで、隙がなくいいチームですけど、ぼくとしては自分の力試しというか、選手に力試しをさせてあげて、何とか1点でもリードしてやってやりたいなという思いはあります」

 取材の終わり際には、さらに声を張って、横浜に向けての決意を続けた。

「次やりますよ。頑張ります。やりますよ。絶対やります!」

 準決勝は26日。チーム力と分析力で、王者・横浜に挑む。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

@mino8989

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