DeNAの“成瀬はショートを取りにいく” 106日間の試練経て参戦…ドラ5ルーキーが胸に刻む戸柱恭孝の金言

遊撃手争いに参戦したDeNA・成瀬脩人【写真:井上学】遊撃手争いに参戦したDeNA・成瀬脩人【写真:井上学】

GG賞3度の藤田コーチも絶賛する守備「一番うまいのは前」

 今季3位が確定し、“下剋上・日本一”を達成した2024年の再現を狙うDeNA。昨年のドラフト会議で指名した支配下新人5人全員が社会人か大学生だったこともあり、全員が1軍デビューを果たした。5位入団の成瀬脩人(しゅうと)内野手も、ここにきて激しい遊撃の定位置争いに加わり、存在感を増している。

「成瀬にしか、アウトにできない打球がある」。“ドラ5ルーキー”の守備をこう称賛するのは、二塁手としてゴールデン・グラブ賞に3度輝いた藤田一也内野守備走塁戦術・育成兼ベースコーチだ。

 右投げ右打ちでショートを“本職”とする成瀬の守備は、今春のオープン戦の段階から目を引き、SNSを通じてファンの間で話題になっていた。三遊間にも、二遊間にもダイビングキャッチを敢行し、持ち味の守備範囲の広さと強肩を披露。さらに藤田コーチに「一番うまいのは前」と言わしめるほど、ボテボテの打球を華麗なランニングスローでさばく技術も高い。

「8番・遊撃」でスタメン出場した9月22日の中日戦(横浜)では、成瀬のいいところが走攻守全てで発揮された。4回の先頭打者として、中日先発の左腕カイル・マラー投手のストレートを振り抜き、センターオーバーの二塁打で出塁。次打者の犠打で三塁に進むと、度会隆輝外野手の二ゴロで本塁へ突入。捕手のタッチをかいくぐるようなヘッドスライディングでホームを奪った。

 5回無死二塁の打席では、外角低めのスライダーに食らいつき、しぶとく進塁打となる二ゴロを転がした。7回2死走者なしで迎えた第4打席ではカウント1-2と追い込まれてから粘り、8球目に四球をもぎ取った。

「ヒットを打てない時も、進塁打で最低限の仕事ができるとか、結果が凡退でも内容がいいとか、そういうことが続いていくと、人の印象に残りやすく、レギュラーも近づいてくると思っています」。東京・東海大菅生高、東海大を経て社会人野球の強豪・NTT西日本に2年間在籍し、豊富なキャリアを引っ提げてプロ入りした男らしく、言葉にも深みがある。

NTT西日本の大先輩にあたる戸柱恭孝【写真:黒澤崇】NTT西日本の大先輩にあたる戸柱恭孝【写真:黒澤崇】

東海大菅生高→東海大→NTT西日本で培った豊富なキャリア

 そんな成瀬が初めて1軍昇格を果たしたのは、4月25日だった。以降36日間1軍に帯同するも、5月31日に2軍へ降格。そこからファーム生活は106日間に及んだ。

 当時2軍で何度も噛み締めたのは、11歳上の36歳のベテランで、NTT西日本の大先輩にあたる戸柱恭孝捕手の言葉だったという。

「最初1軍に上がった時、一番に声をかけてくださったのが戸柱さんで、『準備を大事にしろよ』と何度も言ってくださいました」と振り返る。

「ファームでは、後半戦にもう一回1軍に行くぞ、という強い気持ちで取り組んでいました。いつチャンスが来ても、しっかり準備ができた状態で迎えられるように、自分に何が足りないのかを考えながら日々を送ってきました」

 成瀬に“金言”を授けた戸柱自身、20代前半の松尾汐恩捕手、古市尊捕手と出場機会を分け合いながら、出番の際に常に落ち着いたリード、勝負強い打撃を披露できるのは、日々の努力(翌日の準備)を怠らないからだろう。マスクを被った試合も、ベンチから見守った試合も、必ず味方投手の全球を映像とデータで振り返ることを習慣にしているという。

 一方、成瀬がアマチュア時代にはシーズンオフに限定していたウエートトレーニングを、年間を通して行うようになったことも、1軍再昇格の“準備”の1つだった。

プロの世界に生き残るための厳しい戦いが続く【写真:井上学】プロの世界に生き残るための厳しい戦いが続く【写真:井上学】

同じルーキーの宮下や石上、林、京田らがひしめく遊撃手争い

 その効果で、アマチュア時代には75キロくらいで、夏場に3~4キロ減ってしまうことが多かった体重が今年は83キロに増え、しかも安定していた。打球速度も上がった。

 成瀬に1軍再昇格の朗報がもたらされたのは、9月15日のことだった。皮肉にも、同じルーキー(ドラフト3位)で長打力を売り物に、ショートのレギュラー獲りに近づいていたように見えた宮下朝陽内野手が、試合中に負傷。今季中の復帰が絶望的となったことを受けての入れ替えだった。

「本当に急すぎたので、びっくりしましたが、自分自身の状態がよかったので、やっと来たかという感じでした」と記憶をたどる。1軍再昇格後は、課題だったバッティングで打率.333(12打数4安打)をマークしており、進歩がうかがえる。

 ショートのポジションは現在、「開幕スタメン」の座を射止めながら、7月の試合中にフェンスに激突して戦列を離れた石上泰輝内野手、4年目の林琢真内野手、実績のある32歳・京田陽太内野手らが争う構図になっている。

 成瀬は「自分の強みを発揮していければ、戦える、争いには入れるのではないかと感じています」と言い切る。小説「成瀬は天下を取りにいく」が今年舞台化されるなど話題になっているが、DeNAの成瀬が取りにいっているのは、ショートの定位置である。

 名前の「脩人(しゅうと)」の由来を聞くと、「父がシュートボクシングのファンだったからだそうです」と笑った。愛知県あま市出身だが、高校は東京の東海大菅生高を選んだ。「両親が『寮に入った方がいいんじゃない?』と勧めてくれたので、愛知県の高校からもいくつか誘いがあった中で、東京へ行くことを決めました」と語る。

 両親の“慧眼”で高校から親元を離れた成瀬は、神奈川県平塚市に寮と練習施設を持つ東海大、大阪を本拠地とするNTT西日本を経て、“港町”横浜にたどり着いた。クライマックスシリーズでも、来季以降も、プロの世界に生き残るための厳しい戦いが続いていく。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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