「毎年ビクビク」も3球団で12年 引退決断のオリ香月一也が得た“財産”「本当に楽しかった」

12年間のプロ野球生活に幕を下ろす香月一也【写真:加治屋友輝】12年間のプロ野球生活に幕を下ろす香月一也【写真:加治屋友輝】

香月一也は育成選手としてオリックスに3年間在籍「やり切りました」

 厳しいプロ野球の世界では、必ず“終わり”が訪れる。3球団を渡り歩いた男が、静かにバットを置く決意を固めた。2024年に育成契約でオリックスに加入し、3年間プレーした香月一也内野手。5日に大阪市内の球団施設で、来季の契約を結ばない旨を伝えられた30歳は、清々しい表情で12年間のプロ野球生活に幕を下ろすことを明かした。

「自分の中でもう踏ん切りがつきました。ここまでやらせてもらったので。現役は正直、もうやり切りましたね」

 大阪桐蔭高から2014年ドラフト5位でロッテに入団。強打の左打者として期待され、2020年シーズン途中に澤村拓一とのトレードで巨人へ移籍した。重圧のかかる新天地でも持ち前のスイングを貫き、2021年にはキャリアハイとなる39試合に出場し、3本塁打6打点をマーク。生き残りをかけて捕手にも挑戦するなど、ユーティリティプレーヤーとしてアピールを続けた。

 2023年オフに戦力外通告を受け、オリックスへ育成選手として加入。背番号「126」を背負い、支配下復帰を目指してバットを振り続けてきた。今季、2軍では41試合に出場し、打率.301、4打点。だが、若手主体のチーム事情もあり、継続して試合に出場することは難しかった。

 限られた打席の中でモチベーションを保ち、結果を出し続けることは、並大抵の精神力ではできない。それでも、心は決して折れることはなかった。

2024年に育成契約でオリックスに加入し、支配下復帰を目指してきた【写真:加治屋友輝】2024年に育成契約でオリックスに加入し、支配下復帰を目指してきた【写真:加治屋友輝】

大阪桐蔭の先輩・森と過ごした日々「すごく良い時間でした」

「モチベーションはずっと変わらず高く、自分の中ではしっかりやってきました。結果が求められる中で、いい結果を出せましたし。試合数が少ないのは自分でも分かっていたことなので、そこに対する悔いはないです。やり切ったな、という思いがあります」

 過酷な生存競争が繰り広げられるファームのグラウンド。そこには、己と向き合うだけでなく、ひと回り以上年の離れた若手たちに寄り添う姿があった。3球団を渡り歩き、酸いも甘いも知るベテランの視線は、いつしかチーム全体へと広がっていた。

「自分にも立場はありましたし、支配下を目指して頑張っている中でした。でも、若い子がのびのびと野球をやっているのを見て、話を聞いたり、自分が伝えられることを喋ったりして。楽しく、落ち込まないように。そこを頑張ってほしかったんで」

 オリックスでの3年間には、プロ野球人生においてかけがえのない喜びもあった。大阪桐蔭高時代の1学年先輩で、球界を代表する捕手の森友哉と同じユニホームを着たことだ。自主トレを共にし、春季キャンプでは直接打撃の教えを請うなど、憧れの先輩の背中を間近で追い続けた。

「本当にそこは、自分の中でも大きかったという気持ちがあります。同じユニホームを着て、練習やキャンプで一緒にバッティングができて、すごく良い時間でした。1軍で一緒にプレーしたかったですけど、そこはできなかったので。でも、感謝の気持ちしかないです」

ロッテ、巨人、オリックスと渡り歩いてきた【写真:荒川祐史】ロッテ、巨人、オリックスと渡り歩いてきた【写真:荒川祐史】

3球団渡り歩き「本当に自分の中の財産でしかないです」

 ロッテ、巨人、オリックス。3球団を渡り歩き、それぞれの場所で必死に食らいついてきた。満員の東京ドームで放った本塁打の熱狂も、真夏のファームのグラウンドで流した汗も、すべてが財産だ。決して平坦な道のりではなかったが、プロの世界の厳しさを分かっているからこそ、思い残すことはなかった。

「ロッテに入団して、若いうちに礼儀や野球のことをしっかり教わり、ジャイアンツに行って、オリックスに来て。もう、本当に3球団すべてが楽しかったし、いい経験をさせてもらいました。本当に自分の中の財産でしかないです」

 少し懐かしむような表情を浮かべ、香月は言葉を繋いだ。

「今振り返れば、毎年必死でした。いいシーズンなんて一回もなかったですから。毎年毎年、ビクビクしながらこの時期を過ごして…。でも、本当に楽しかったです」

 多くの選手が戦力外を通告される秋。常に背水の陣で戦い続けた男にとって、気が気でない季節だったに違いない。それでも、全てをひっくるめて「楽しかった」と、明るく話せる強さこそが、香月という選手なのかもしれない。

 現役は引退するが、今後も野球には携わるつもりだ。

「自分自身、野球でこうしていい経験をさせてもらったので、それを今後に繋げていきたいなという思いはあります。今は何も考えられていないので、どうなるかは分からないですけど」

 12年間、泥臭く、ひたむきに白球を追い続けた。スポットライトの真ん中に立つ機会は少なかったかもしれない。だが、誰よりもチームを愛し、後輩たちに寄り添い、どんな境遇でも腐ることなく前を向き続けたその姿は、いつまでもファンの記憶に残るはずだ。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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