日本Sの“天国と地獄”「あれはエラー」 第7戦までもつれた展開…勝敗分けた「油断」

ベンチでコーチ達と話すヤクルト・野村克也元監督ら【写真提供:産経新聞社】
ベンチでコーチ達と話すヤクルト・野村克也元監督ら【写真提供:産経新聞社】

ヤクルトOBの飯田哲也氏が振り返る1992年西武との日本シリーズ

 プロ野球はクライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズと短期決戦に入っていく。盗塁王を獲得するなど、ヤクルトで走攻守3拍子揃った外野手として活躍した野球評論家の飯田哲也氏は、プロ6年目の1992年に初めて日本シリーズに出場。「好走塁」の天国と「落球」の地獄を見たシリーズを振り返ってもらった。

 1992年10月10日、ヤクルトは阪神を下し、リーグ優勝を果たした。「僕個人の中ではリーグ優勝でOKでした。初めてですからね。もう大喜び、大感激。日本シリーズは“お祭り”、“おまけ”みたいなイメージで、ノープレッシャー。他のみんなも同じだったんじゃないかなぁ」。ヤクルトにとって、実に14年ぶりの優勝だった。

 パ・リーグの覇者は西武。森祇晶監督は就任以降、前年の1991年まで、6シーズンで5度もチームを日本一に導いていた。シリーズ開幕は10月17日。「ホテルに泊まって研究しました。でも投打に凄い役者ばかり。“打倒西武”って雰囲気はなく、4連敗だけはしないように。野村(克也)監督でさえ恥ずかしい戦いにならないように。そんな感じ。相手捕手の伊東(勤)さんのリードを『困ったら無難に来る』と仰ってましたが、まあ考えてみれば西武は投手のレベルが違うので、裏を欠く、冒険する必要がありませんからね」。

 第1戦は本拠地・神宮球場で行われた。飯田氏は初回の守備も、その裏、トップバッターで迎えた打席も緊張の欠片もなかったようだ。「面白かったなぁ。『いやー俺、日本シリーズに出ちゃってるよ』なんて思っていましたよ」。ファン、報道陣の熱視線が、これ以上ない程に注がれる最高峰の舞台に酔いしれていた。

 飯田氏は3回に光った。1死後に渡辺久信投手から同点となる左中間へのエンタイトル二塁打。続く荒井幸雄外野手がゴロで一、二塁間を破ると、水谷新太郎三塁コーチのストップの指示もお構いなしに本塁へと向かった。強肩の右翼・平野謙外野手がワンバウンドでバックホームも、飯田氏は捕手・伊東のタッチをかいくぐり、右手の指先でベースをタッチ。驚異的な身体能力を生かした走塁で逆転した。

「三塁は止まれなかったんです。で、行っちゃった。だからセーフになんなきゃ、と必死でね。咄嗟の動きでした。でも僕の中では『やってやった』じゃなくて“普通”。あの名手・平野さんの完璧な返球でもセーフになった。リードオフもばっちりだった証でしょ。当たり前の事を当たり前にできただけ。凄いかどうかは見ていた人が決める事です」

第7戦の守備に悔い「100回やって100回捕れる」

 初戦は延長12回、ヤクルトが杉浦享外野手の代打満塁サヨナラ本塁打で制した。しかし、以降は西武に3連敗で崖っぷち。ナインのムードは「やっぱり西武は強いなぁ。初戦を取っといて、1つ勝っててよかったなぁ」といった様子。その後2連勝で逆王手をかけても「もう十分」の声が飛び交った。

 10月26日、神宮球場で迎えた第7戦。公式記録は安打も、飯田氏が「否、あんなのエラーです」とぶ然とするプレーが起きる。ヤクルトが1-0とリードして迎えた7回、西武は2死一、二塁と攻め立てた。ここで打順は先発投手の石井丈裕投手に回った。だが、石井はそのまま打席に入った。

「終盤でピッチャー。ましてやパ・リーグは通常のシーズン中はDHがあるので、打席はほぼ経験しない。森さんは何で代打を出さないのかな、とは思いましたよ。だけど動揺は全くなかった」。風は打者にとっては逆風、そして左から右へ吹いていた。中堅手の飯田氏は前進して守った。

 石井がカーブに食らい付いてバットに当てると、打球は右中間のやや後方へと舞い上がった。逆を突かれた。それでも俊敏な飯田氏だからこそギリギリ間に合い、左腕を伸ばしてグラブに収まった……はずが、ボールは地面に落ち、同点に追い付かれた。

「今でも何で捕れなかったんだろうって思いますよ。僕だったら100回やって100回捕れる。触ってるからね。最悪って感じ。まあ油断なんでしょうね……。公式記録員にHのランプを点けられたこと自体が悔しい。あれはエラー。他の選手にとっては難しい打球でも、誰からも『飯田なら捕って“普通”でしょ』と思われたいですよね」

 延長10回の末、ヤクルトは1-2で西武に屈した。とはいえ4連敗を覚悟したチームが、王者を苦した。「周囲の方々からは、お褒めの言葉ばっかりでしたよ。『あの西武を相手によくやったね』と。正直、落胆なんて全然なし。いやー、楽しかったなぁ」。飯田氏は当時24歳の自分に戻り、懐かしむのだった。

(西村大輔 / Taisuke Nishimura)

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