5年目で迎えた充実の日々「すごい毎日が濃いなと思います」
巨人の5年目、代木(しろき)大和投手が充実の2026年シーズンを過ごしている。屈辱も味わった23歳が、全ての経験を糧にシーズン終盤の大事な時期に這い上がってきた。
「いやー、もう、今はなんかすごい毎日が濃いなと思います」
“下積み”は長かった。2021年ドラフト6位で明徳義塾高から入団。2024年4月に左肘のトミー・ジョン(TJ)手術を受け、リハビリを経て育成選手となっていた2025年6月に実戦復帰を果たした。
同年オフにはアデレード・ジャイアンツの一員として豪州ウインター・リーグに参加。帰国後の今季3月31日から6月25日まではファーム・リーグ中地区のハヤテに派遣されてプレーした。巨人に戻ると7月20日に支配下へ復帰し、8月22日の広島戦で涙のプロ初勝利。その後2軍調整の期間はあったものの、9月5日に1軍復帰後はブルペンで躍動した。激動の日々を過ごしてきただけに「毎日が濃い」のも納得がいく。
代木のハイライトを挙げるとすれば10月1日の阪神戦(甲子園)だろう。阪神の優勝マジック「3」で迎えたペナントレース最後の直接対決。巨人は1点リードで9回を迎えたが、守護神のライデル・マルティネス投手が同点とされて延長戦に突入した。10回途中から登板した代木はピンチを凌ぐと、11、12回をいずれも3者凡退で切り抜けた。
「あの試合が多分、今後のプロ野球人生においてターニングポイントになるんじゃないかなっていう風にも感じています」
試合から数日経っても、その言葉には熱が帯びていた。甲子園でのマウンドには代木の特別な思いが込められていたのだ。
「佐藤さんにえげつないのを打たれていたので」
「負けられない試合でしたし、負けだけは許されない場面でしたので、もう本当に腕がちぎれてもいいくらい腕を振りました。負けなければいい。それだけを思って全力で投げました」
試合は2-2のドローで決着。結果として阪神のマジックは1つ減り、その2日後にはリーグ連覇が決まることとなったが、圧倒的なアウェーの中、押せ押せムードの阪神を、経験の浅い23歳が“足踏み”させたことに大きな意味があった。
「(アウェーの空気も)逆に力に変えてやろうと思って。すごいアドレナリンが出ていたんですけど、ものすごく冷静に考えていられたなと。後から思うと、すごくいい状態でマウンドに上がれたと思いました。抑えることができたのでよかったです」
延長10回2死二塁からマウンドにあがり敬遠と死球で満塁としたが、代打の伏見寅威捕手を152キロ直球で空振り三振に仕留めると雄叫びをあげた。そしてイニング跨ぎとなった11回の先頭打者に、リーグ3冠の佐藤輝明内野手を迎えた。
「この前、東京ドームで佐藤さんに1本えげつないのを打たれていたので、なんとかやり返したいっていう気持ちは持っていました」
8月11日の阪神戦で、東京ドームの右中間スタンド上部看板に直撃する特大24号を浴びた。NPB公認プロ野球速報アプリ「NPB+」によると、打球速度180キロ、飛距離146メートルの衝撃弾だった。
この時以来の阪神戦登板。代木は燃えていた。「自分の今持っている球を信じるしかなかったので、その中で全力で腕を振って投げれば絶対に抑えられるっていう自信はありました」。カウント2-2から151キロの直球で、佐藤のバットをへし折って投直に抑えた。自分に向かってくるライナーも「全然、見えていましたね、はい」と胸を張った。
みなぎる自信「経験が間違いなく生きている」
11、12回と“完全投球”を披露。「試合中も先に投げたピッチャー陣や野手の方から『気持ち切らすなよ』と声をかけていただいた。首脳陣の方からも『よく最後まで投げ切ってくれた』と言ってもらえたので、本当にすごく嬉しい言葉でした」。
1軍での登板は入団2年目の2023年にも13試合を経験しているが、「右も左もわからない状態で、自分のことで精いっぱいだった」と振り返る。その後、TJ手術や豪州武者修行、ハヤテへの派遣を経験し、ひと回りもふた回りも逞しくなった。
豪州では「技術やメンタル面、野球人として成長させてもらった」。ハヤテでは12試合に先発(6勝4敗、防御率3.42)した。「ジャイアンツがいいとか、悪いとかではなく、その時の自分は立場的にも育成で、(巨人だったら)チャンスも少ない。リハビリ途中というのもありましたので。その中でハヤテに行かせてもらって、中6日で100球以上というのをノルマに投げさせてもらえた。掴んだものが多かったです」。ハヤテに行ったからこそ、登板機会を得ることができた。
「こうやって1軍に上がらせていただいて、その経験が間違いなく生きているので、全ての方に感謝の気持ちを持ってマウンドに上がっています。いただいた恩を、マウンドで抑えるという結果でしっかり返せたらな、と思っています」
これから自身にとって“未体験ゾーン”となるポストシーズンが待っている。
「今に関してはもう、マウンドに上がったら全く何一つ不安はないですし、逆にね、本当に勝つためにやってやるぞっていう気持ちが強いので、もう楽しみしかないですね、やっぱり」
痺れるような大一番のマウンドで、代木は更に大きくなる。
(湯浅大 / Dai Yuasa)