ベンチ指示を無視「今じゃあり得ない」 名手が信じた「根拠」…直後に生まれた“伝説の返球”

西武との日本シリーズで好返球を見せた飯田哲也氏(右)【写真提供:産経新聞社】
西武との日本シリーズで好返球を見せた飯田哲也氏(右)【写真提供:産経新聞社】

1993年日本シリーズ第4戦の好返球、飯田哲也氏が明かした裏側

 ヤクルトでゴールデン・グラブ賞を7度受賞するなど、外野の名手として活躍した野球評論家の飯田哲也氏。1993年の日本シリーズでは“スーパーバックホーム”を披露した。そのプレーについて、飯田氏は「あのプレーですか。あれでも完璧ではないんですよ。だけど、もし完璧だったなら、あの場面は起きてなかったんじゃないかなぁ……」と謎めいた表現で回顧。一体どういうことなのか……。

 この年の日本シリーズは、2年連続でヤクルト対西武の顔合わせとなった。10月23日に西武の本拠地で開幕。前年のヤクルトは3勝4敗で一歩及ばなかったが、飯田氏は7試合全てに「1番・中堅」でフル出場し、優秀選手賞に選ばれた。だが、雪辱を期す1993年の日本シリーズは、第1戦、第2戦は「9番」で試合に臨んだ。

 原因は1年前の日本シリーズ後にあった。11月の日米野球で本塁に突入した際、右肩を大怪我。関節を脱臼したうえに、靭帯も負傷し手術を受けた。驚異的な回復力で翌1993年シーズンに間に合わせたものの、本来の姿とはかけ離れていた。「守備と走塁は問題なかったけれど、打撃がね……。腕が思ったように動いてくれない。駄目でした」。ペナントレースでは規定打席に到達できず、打率.217と不振に喘いだ。

 しかし、日本一を決める大舞台では変身した。最初の2試合は5打数3安打2四死球の活躍を見せると、第3戦以降は“定位置”のトップバッターに復帰。そしてチームが2勝1敗と勝ち越して迎えた第4戦(神宮)で、“スーパーバックホーム”を見せつけた。

 1-0の8回、先発の川崎憲次郎が2死一、二塁のピンチを招いた。二塁には代走で起用された笘篠誠治。打席に3番の鈴木健を迎え、ヤクルトベンチ前では渡辺進コーチが外野陣に指示を出した。「それは『後ろへ下がれ』でした。ですが、僕は無視した。ここは勝負でしょ、と勝手に考えたんです。川崎があれだけ頑張っていて、1点もやりたくはなかった。いわば、コーチ批判みたいなものですよね。今じゃあり得ない。僕はあの時、25歳か。若かったなぁ」。飯田氏は浅めに守備位置をとった。

「でも根拠があったからこそ前に出たんですよ。風です。打者には強い逆風。簡単には後ろは抜かれないし、送球は追い風になる。野村(克也)監督は、事あるごとに『根拠は何だ』と選手に問い掛けていた。この場面で、僕はその根拠を言い切れるだけの自信がありました。首脳陣も指示と異なる僕の位置に気付いていたでしょう。本当に下がって欲しければ、もっと『ちゃんと下がれ』と強く言うはず。けれど何も無かったですから」

「完全な形だったなら、笘篠さんを三塁で止めていたと思います」

 初球を叩いた鈴木健の打球は、「俺のところに来い」と念じていた飯田氏のもとに飛んでいった。強烈な当たりをワンバウンドで捕球すると、捕手の古田敦也へダイレクトで返球。本塁はクロスプレーになったが判定はアウト。このプレーが効いてヤクルトは逃げ切り、日本一に王手を懸けた。西武も第5戦、第6戦を連勝してタイに戻したが、最終第7戦を制した燕軍団が日本一に輝いた。

 飯田氏が謎めいた表現した理由は、西武の伊原春樹三塁コーチにある。的確な状況判断で有名なコーチだ。

「ボールを捕った時、僕は若干受け身なんですよ。投げるのに勢いがつく形じゃなくて。ハーフバウンドで掴んでしまったから。完璧じゃないんです。僕のちょい受け身の僅かな隙を見て、伊原さんは手を回したんだと思う。あれが完璧、完全な形だったなら、笘篠さんを三塁で止めていたと思います。走塁技術の高い笘篠さんだから、何とかしてくれるというのもあったでしょうけど。お互い勝負ですからね」

 返球も理想通りとはいかなかった。「バックホームも中途半端。僕はノーバウンドで投げたつもりだけど、ワンバウンドすれすれ。ギリギリでダイレクトでした。だから古田さんが、よくカバーしてくれました。流石は古田さん。感謝しています」。

 飯田氏は、このシリーズ打率.400で再び優秀選手賞を獲得。また、驚くべきことに、日本シリーズ終了から5日後の11月6日には、宮崎市で開催されたセ・リーグオールスター「東西対抗」に出場し、5打数4安打4打点でMVPに輝き、賞金100万円を手にした。

「そういえば、よく打って何か頂戴した記憶がありますね。そうそう確か、日本シリーズの印象が良かったのか、契約更改も年俸がダウンしなくて済んだんですよ」。1992年と1993年の日本シリーズ後の“違い”を思い出し、笑うのだった。

(西村大輔 / Taisuke Nishimura)

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