レギュラーシーズン最終戦で志願した“声出し”
ベルーナドームで行われている「2026 パーソル クライマックスシリーズ(CS)パ」ファーストステージは、レギュラーシーズン2位の西武と同3位の日本ハムが1勝1敗のタイで、12日に“最終決戦”の第3戦を迎える。西武の4番を務め、来日2年目にしてムードメーカーとしても存在感を増しているのが、タイラー・ネビン内野手である。
かつてオリオールズ、タイガース、アスレチックスでプレーし、メジャー通算192試合出場、12本塁打の実績を残しているネビンにとっても、初体験の日本のCSは格別だ。「マイナーリーグ時代にも、プレーオフに出たことはあったけれど、駆け出しの1Aの頃だったから、1軍のCSとは全然雰囲気が違う。緊張はしていないけれど、ずっと楽しみにしていたし、こういう舞台に立てて本当に光栄だよ」と目を細める。
CS開幕直前の10月6日。ZOZOマリンスタジアムで行われたロッテとのレギュラーシーズン最終戦の開始直前、ネビンは自ら“声出し”役を買って出て、チームメートを驚かせた。“声出し”とは、選ばれた選手が円陣の真ん中で短いスピーチを行い、最後に掛け声を発してチームに気合を入れる、日本野球独特のパフォーマンスだ。
しかも冒頭、「あの……今日はネビンさんが、ボイスコーチです」と日本語で話し始めたのだ。その後「日本語が……話しません。ユートさん、お願いします」とすぐに浅田悠斗通訳を呼び寄せ、少々周囲をずっこけさせたが、通訳を介して語る言葉は熱を帯びていった。
「なんとか2位をキープして、シーズン最終戦を迎えることができました。みんな本当にいい仕事をしたと思います」とチームメートを称えた上で、「今日は、小さい子どもたちがたくさん観に来て来てくれている気がします。もしかしたら、彼らにとって初めて見る野球の試合かもしれない。自分たちのためにも、ファンの皆さんのためにも、一生懸命プレーしてください」と力を込め、最後に再び日本語で「さあ、行こう!」と声を張り上げたのだった。
来日1年目のカナリオも感謝「私のメンターです」
そんなネビンを、ベテランの外崎修汰内野手がこう評する。
「チームにすごくなじんでいるし、なじんでくれようとしていることがみんなに伝わるから、助っ人外国人というより、本当のチームメートという感じですよ。日本語がめちゃくちゃうまくなっていたり、そういうところじゃないですかね……」
ネビンは来日1年目の昨季、チーム最多の119試合で4番を任され、打率.277、21本塁打、63打点の安定した成績を残した。球団もシーズン前半の6月に、2027年までの契約延長をオファーして報いた。
今季は2月の春季キャンプ中に背中、オープン戦期間中に左脇腹を痛めて出遅れたが、それでも5月1日に1軍昇格を果たすと、いきなり月間打率.341、9本塁打、19打点の猛打を振るい、同月のパ・リーグ月間MVPに輝く活躍でチームを上昇気流に乗せた。今季もチーム最多の85試合で4番。昨季まで3年連続で5位以下だった西武がCS進出を果たせたのも、ネビンが打線の主軸として機能していたからだろう。
来日1年目のアレクサンダー・カナリオ外野手との間で、ジャンプしながらお互いの右肘をぶつけ合う歓喜のパフォーマンスも定番となっている。今季チーム最多の54打点をマークしたカナリオにとっても、3歳上でチームの先輩であるネビンは頼もしい存在だ。「他球団の投手のことなど、いろいろ教えてもらっています。私のメンターです」と感謝している。ちなみに、カナリオはネビンを日本語風に「ネビンさん」、ネビンはカナリオを「カニー」と呼んでいるという。
上達する日本語…「日本人選手が話すことを理解したい」
試合開始前の“声出し”役は、勝てば次の試合でも継続される。西武はレギュラーシーズン最終戦のロッテ戦に勝利したことから、10日のCSファーストステージ第1戦の“声出し”もネビン。さらに第1戦に3-2で競り勝ったため、第2戦もネビンが務めることになった。チームメートにこう語りかけた。
「みんな、昨日(第1戦)は1人1人がいい仕事をした。(西川)愛也(外野手)は同点タイムリーを打った。その中でも、僕が個人的に一番気に入ったのは、長谷川(信哉外野手)の(1点を追う5回先頭での)バント安打だ。あの僅差の場面で、ホームランを狙うこともできるけれど、ああやって小技を絡めながら、なんとしても出塁する気持ちを示すことは大事だと思う」
第1戦でお立ち台に上がったのは、延長10回にサヨナラ本塁打を放ったカナリオとCS初登板で白星を挙げた豆田泰志投手だったが、それ以外の“陰のヒーロー”に光を当てたところに、ネビンの細やかな心遣いが感じられる。
取材をしていても、ネビンの日本語の上達ぶりを実感する。日本語で「少し、よくなった。まだまだです」と謙遜しつつ、スマートフォンの学習アプリを利用して日本語の勉強をしていることを明かす。
記者が個人的にDuolingo(デュオリンゴ)という英語学習アプリで、ささやかながら勉強していることを伝えると、ネビンは自身のスマホを開き、「デュオリンゴ(の日本語学習アプリ)は、僕と妻も使っていたけれど、ちょっとゲーム的な要素が強いかなと感じた。今は、Pimsleur(ピンズラー)という別のアプリを使っているよ」と教えてくれた。
「チームの日本人選手が話すことを、単語を拾いながらでも理解したいし、できる限り受け答えをしたいんだ」と思いを明かすネビン。人としてチームに溶け込もうとする姿勢が、結果的に自身の存在感を高め、雰囲気を盛り上げることにつながっている。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)