スクーバルは3回まで6K1安打無失点も…5回5安打2失点で降板
ドジャースのタリク・スクーバル投手は11日(日本時間12日)、ブルワーズとのリーグ優勝決定シリーズ(NLCS)第1戦で先頭を切ってマウンドへ上がった。しかし、5回5安打2失点で降板し、大事な初戦で敗戦投手となった。
序盤のスクーバルは、まさに手が出ない「無双」の投球を見せていた。3回まで許した安打はわずか1本で、6三振を奪う圧巻の立ち上がり。右打者の内角へ次々と突き刺さる力強いストレートを軸に、ブルワーズ打線を完璧に封じ込めていた。2年連続サイ・ヤング賞に輝いた左腕が、このまま完封ペースで押し切るのではと感じたほどだ。
だが、完全にゲームを支配していたはずの怪物左腕の歯車が、4回に突如として狂い始める。
4回先頭、左打席に入ったブライス・トゥラングが捉えたのは、スクーバルが内角ぎりぎりに投げ込んだ96マイル(約154.5キロ)のシンカーだった。強烈な打球はそのまま左中間へと吸い込まれる同点ソロ。左対左の厳しい内角球を、あろうことか逆方向へと弾き返す驚愕の一打に、それまで静まり返っていた場内はどよめいた。
屈指の難球を、なぜトゥラングはスタンドまで運ぶことができたのか。そして、続く5回に訪れた一瞬の隙を、ブルワーズの若手打線はどうやって見逃さずに突いたのか。試合後、選手と監督の口から明かされたのは、泥臭い努力とチームの姿勢だった。
深夜まで及んだ打撃練習「自打球をもう膝に当てたくなかった」
「自打球をもう膝に当てたくなかったので『インサイドに残して振ろう』と考えていました。欲張らずに、ただセンターへ打ち返す意識でインサイドを叩こうと」
試合後、トゥラングはそう振り返った。一見すると偶発的なスイングにも見えた一打だが、ブルワーズのパット・マーフィー監督は、裏で重ねていた準備の成果だと明かす。
「手が下がって遠回りするのではなく、ボールに対して直線的にバットを出す練習をしていました。ここ2日間、トゥラングが打撃ケージでどれほど長い時間打ち込んでいたか知っていれば納得がいくはずです。純粋に努力の賜物です。昨日の深夜遅くまでケージに残っていました」
トゥラング自身も「何年間かは全くやらない年もありますが、居残って打撃ケージに入り、会話を交わしながら打ち込んでいました。遅くまで打っていた子どもの頃を思い出して、初心に帰って楽しむことができました」と語る。スクーバルの激しい球に対峙するからこそ、余計な力を抜いてバットを直線的に出す練習が結実したのだった。
生まれた「隙」を逃さなかったブルワーズ打線
続く5回、スクーバルの投球にわずかなブレが生じる。先頭のギャレット・ミッチェルに四球を与えたことで、それまでの圧倒的なリズムが崩れた。マーフィー監督は「フォアボールなどで先頭打者が出塁すると、盗塁の脅威があるため投手の投球アプローチが変わることがある」。ブルワーズは今季リーグ4位の162盗塁を記録。67歳の知将が指摘した通り、スクーバルは走者を警戒せざるを得なくなった。
クーパー・プラットが犠打を決めて1死二塁と状況が動くと、打席には21歳のルイス・ララ。スクーバルが決めにいった初球のチェンジアップが、わずかに高めに浮いた。ララのバットが素早く一閃し、打球は中前へ抜ける勝ち越しのタイムリーヒット。これが決定打となり、スクーバルは5回でマウンドを降りることとなった。
「本当に『ランナーをホームにかえす』ということだけを考えていました。それだけが頭にあって、なんとかミートしてボールをインフィールドに転がし、点が入る方法を見つけることに集中していました」
勝ち越し打を放ったララは語る。ベネズエラ出身の21歳は「子どもの頃は野球というゲーム自体があまり好きではなかったのですが、当時ヒューストンがよくプレーオフに進出していて、ホセ・アルトゥーベのプレーを見ていました。今、自分自身がこの舞台を経験できているなんて信じられない気分です」と明かしつつも、スクーバルがあらわにした一瞬の隙を見逃さなかった。
スクーバルという球界最高峰の投手を攻略できた背景には、ブルワーズがチーム全体で共有する姿勢がある。
マーフィー監督は「ララもプラットも、シーズン開幕時には大リーグの舞台にいるとは思っていなかった若手です。しかしチームメートを失望させたくないという強い思いを持ってプレーしています。その姿勢こそが特別な選手にしている理由です」と称賛する。
先発のジェイコブ・ミジオロウスキーが粘りの投球を見せ、アブナー・ウリベ、アーロン・アシュビー、守護神トレバー・メギルらブルペン陣が完璧な継投でリードを守り切る。トゥラングも「全員がチームの目指すスタイルにコミットしています。ビハインドになっても『自分たちは巻き返せる』と知っていることが大きいです」と強調した。
3回まで無双投球を続けていたスクーバルを崩したのは、泥臭い努力とチームのために徹する意識。短期決戦における勝負の恐ろしさを象徴する一戦となった。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)