梅野隆太郎はプロ13年目で初の開幕2軍…出場数は自己最少の27試合
クライマックスシリーズも、日本シリーズも残っている。それでも、このタイミングだからこそ聞いておきたかった。10月8日のヤクルト戦で、阪神のレギュラーシーズンが終了。心は次の戦いへ向かうところだが……。143試合を戦い終えた区切りで、梅野隆太郎捕手にあえて聞いた。2026年のレギュラーシーズンをどう受け止めているのか――。そう問いかけると、35歳のベテランは言葉を選びつつ静かに話し始めた。
今季でプロ13年目。ゴールデン・グラブ賞に3度輝くなど、長く阪神の正捕手を務めてきた男が今季、初めて開幕2軍を経験した。4月15日に1軍昇格したが、6月10日に登録抹消。同23日に1軍に復帰しても出場機会に恵まれず、8月14日の広島戦を最後に梅野の名は1軍の出場記録から再び消えた。
同15日に抹消され、同26日に再昇格も、そこから41日間も出番がなかった。出場記録としては同14日の広島戦から10月6日の同戦まで、52日間に及ぶ“空白”があった。
「正直、いろいろな感情はありました。人間ですからね」
しかし、梅野は苦境を誰か、何かの責任にしようとはしなかった。
「1か月半も出られないということは、もっともっと自分に足りないものがあると考えるしかない。自分としては『何が足りないんだ』と日々考えて行動していました」
出場機会を決めるのは自分ではない。だが、それが準備を怠る理由にはならない。変わらぬ準備を重ね、リーグ連覇を目指す一員として自らを奮い立たせた。
「少ない機会で結果を残すことがどれだけ大変で難しいことか」
開幕当初、2軍で過ごした時間も思いがけない“財産”を残した。
「ファームの若い選手たちは、1軍に上がるために必死にやっている。見えないところでどれだけ頑張っているのか。それを目の当たりにできたことが大きかった」と話す。
若手選手は泥だらけになって練習し、確実ではない未来に懸けている。その姿が実績を積み重ねたベテランを初心へと引き戻した。梅野自身も早朝から体を動かした。眠そうな顔でグラウンドに現れた若手が、朝から全開で汗を流す先輩から何かを感じてくれればいい。そんな思いもあった。若手に教えることも、教わったこともあったことが事実だ。
レギュラーと控えの間に横たわる、想像以上に大きな隔たりも再認識した。「レギュラーにしか分からないしんどさも、もちろん知っています。でも、たまにしか出場機会がない選手にとって、少ない機会で結果を残すことがどれだけ大変で難しいことか」と思い返した。
長い空白を経て突然マスクをかぶれば、ベテランでも目も体も感覚が狂う。実戦に慣れないまま当然、結果も求められる。いくら過去の経験があっても、そういった難しさは変わらない。
8日のヤクルト戦は5回に先発イーストン・ルーカス投手の代打で出場し、中前打。二盗も決め「スキがあったらいつでも狙ってます」と、2019年に14盗塁を記録した“特技”も披露した。次の守備からはマスクも被った。こういう出場パターンは極めてレアケースには映ったが、梅野が慌てることはなかった。
「行けと言われたら行く世界ですし、言われなければ行けない世界でもある。だからこそ、準備力を大事にしています」
西勇輝の引退試合でスタメンマスクを被り、初のサヨナラ打
長年の実績も、過去の栄光も、目の前の一球を保証してはくれない。今季の試合出場数「27」はプロ入り最少だが、梅野は今季を不遇の一年として片づけることはなかった。最も伝えたかったのは、この一言だったように思う。
「耐えれば耐えるほど、喜びを感じられた1年だった」
苦しい時間があったからこそ、1本の安打が持つ意味も変わった。試合に出る喜び、結果を残す難しさ、ファンの前で思いを伝えられるありがたさ。それらを改めて知った。出場した直近3試合で7打数4安打。優勝決定後の試合だとしても大きな意味が込められていた。
その象徴は10月7日、兄貴分・西勇輝投手の引退試合だった。スタメンマスクで、現役最後のマウンドに立った右腕をリード。NPB歴代単独2位となる307試合連続先発で、1回1/3を3奪三振無失点の投球を支えた。同点で迎えた延長11回には、激闘に終止符を打つ初のサヨナラ打。お立ち台では虎党に思いを届けた。
「全て報われる瞬間が訪れた」
梅野の言葉は一打の歓喜だけを指したものではなかったはずだ。
「もっとやってやるぞという気持ち」
ここから先への思いを尋ねると、梅野の目に静かな闘志が宿った。
「『まだまだやるぞ』と。もっとやってやるぞという気持ち。自分で自分を鼓舞する感じですね」
143試合のシーズンでグラウンドに立った時間は限られていた。だが、出場しなかった時間までを含め、梅野は新たな経験を積んだ。つまり、失ったものばかりではない。正捕手として見ていた景色、控えとして見た景色は違う。が、試合に出られなかった日々は決して空白ではなかった。
来季は36歳のシーズンを迎える。再び正捕手の座を奪い返せるかどうかは誰にも分からない。30代半ばを迎えるプロ野球選手に安寧の時などない。歓喜も悲哀も受け入れた男の器は、間違いなくひと回り大きくなった。
ただ、それで満足するような男でもない。13年目にして初めて知った景色がある。だからこそ、まだ見たい景色もある。梅野隆太郎の野球人生は、まだ道半ばだ。
(楊枝秀基 / HideKi Youji)