ナ・リーグ優勝決定シリーズという緊張感が漂った10日(日本時間11日)の前日会見。アメリカンファミリーフィールドの会見場で、大物監督の発言が日本の野球ファンの間で大きな反響を呼んだ。
レポーターが「まずまずでしょうか……」と濁した答えを返すと、「(成績が)良くなかったんだな」と察して会場の爆笑を誘った。さらに間髪入れず、「あそこで監督できるよう仕事を紹介してくれないかな? 是非やりたいんだ。頼むよ!」と笑顔で語りかけた。
MLB公式サイトのアダム・マッカルビー番記者も自身のX(旧ツイッター)に「パット・マーフィーより日本のメディアが好きな人はいない」と投稿するほど、67歳の日本メディアに対するフランクな姿勢は有名だ。
しかし、なぜ年俸450万ドル(約7億4200万円)規模を誇り、2年連続でリーグ最高勝率を叩き出して最優秀監督賞にも選ばれたMLBトップクラスの名将が、遠く離れた日本の「東北楽天ゴールデンイーグルス」にこれほど強い親しみを持っているのだろうか?
パット・マーフィーとは、どのような人物なのか。
選手としてはマイナー止まりだったが、指導者としての才能は早くから開花した。1987年からノートルダム大やアリゾナ州立大の監督を歴任。2009年12月まで数多くのメジャーリーガーを育成した。
2010年からパドレスの育成部門やマイナー監督を経て、2015年にパドレス監督代行としてメジャーで初めて指揮を執る。2016年からはブルワーズのベンチコーチを8年間務め、2024年から監督に昇格した。
就任1年目の2024年に地区優勝を果たして最優秀監督に選出されると、翌2025年にもチームをリーグ最高勝率へ導き、2年連続で最優秀監督に輝く快挙を達成。本塁打に頼らず、走塁や出塁率、守備力を生かした「隙のないスモールベースボール」と、高いコミュニケーション能力で若手を伸ばす手腕は極めて高く評価されている。
楽天ファンになったきっかけは「球団幹部との出会い」
そんなマーフィー監督は「なぜ楽天が好きなのか?」というストレートな問いかけに、その原点を明かしてくれた。
楽天を気にかけるようになったのは、楽天の球団幹部と直接対話する機会があったからだという。
「一度話す機会があったんだが、とても感銘を受けたんだ。名前は出てこないんだが、彼は自らの手で事業を成し遂げた叩き上げの人物で、何より野球を心から愛している。私に強い印象を残してくれたんだ」
下積みから這い上がってきた指導者だからこそ、その球団幹部の生き様に共鳴したのだろう。
さらに、イチロー氏や王貞治氏へのリスペクトを口にし、自身がオランダ代表監督を務めた2000年シドニー五輪で、日本代表と予選リーグで戦った思い出を今でも懐かしそうに振り返る。
「日本の選手たちが野球に取り組む姿勢や情熱を深く尊敬している。若い頃には『You Gotta Have Wa(和をもって日本となす)』という本も読んだよ。彼らの職業倫理とプレーのスタイルには本当に感服させられる」
日本の野球文化にも興味津々のようだ。
現在、マーフィー監督はブルワーズと2027年からの2年総額895万ドル(約14億7600万円)プラス球団オプションという大型契約を結んでいる。現実的に考えると、NPBで指揮を執るハードルが高いことは間違いない。
それでも、「NPBで監督をしてみたいか」という問いに対し、熱っぽくこう答えた。
「成功できるかは分からないが、いつか挑戦してみたい。人生において大切なのはお金だけじゃない。異文化の環境に飛び込み、一人の人間として成長すること、そして異なる文化や考え方を持つ人々にインパクトを与えることだ。私にとってそれは素晴らしい挑戦になる」
日本の技術の高さについても「彼らは技術面において世界一だ。誰よりも野球を深く理解している」と絶賛する。記者会見で「仕事を紹介してくれ」とジョークを飛ばした背景には、日本野球への敬意と「異文化へ挑戦したい」という純粋な情熱が隠されていた。
と、ここまでの話を聞けば誰もが「熱血漢で最高の名将」という完璧な姿を思い描くだろう。しかし、ここからがパット・マーフィーという男の「本当の魅力」なのだ。
名将が見せるユーモアとお茶目さ
重厚な野球観を語る一方で、取材後半は思わずクスッと笑ってしまうような場面が満載だった。
会見で「オレの楽天」とまで言い切ったマーフィー監督だったが、「実際のところ、楽天について何を知っているのか?」と突っ込まれると、即答でこう返した。
「正直? 何も知らない(笑)」
具体的な知識は「ほぼゼロ」であることを悪びれもせず白状したのだ。
「ヤンキースにいた田中将大を覚えていますか? 彼も楽天でプレーしていたんですよ」と助け船を出すと、「えっ、彼も楽天で!?」と驚く始末。かつて楽天のスター選手だった田中将大の在籍すら知らなかったというオチで、記者を笑顔に変えた。
「MLB監督の契約がまだ残っていますよね?」と確認されると、適当さを見せる。
「自分の契約? 正直覚えてない(笑)。お役御免になった時に球団が教えてくれるだろうから問題ないよ」
数億円が動く契約期間すら「覚えていない」と言い切る豪快さは67歳の真骨頂だ。
取材の最後、「日本食はお好きですか? 一番好きなものは?」と聞かれたマーフィー監督の回答が記者の爆笑を生んだ。
「『P.F.Chang’s』でしょっちゅう食べているよ!」
P.F.Chang’s(P.F.チャングス)とは、アリゾナ州フェニックスに本拠を置く中華料理専門のレストランチェーン。堂々と「アメリカの中華チェーン」の名前を挙げ、「それ中華料理じゃないですか!」とツッコミが入る中、マーフィー監督は満面の笑顔で「サンキュー! アリガトウ!」と言い残しベンチ裏へ消えていった。
「楽天が好きだ」という発言の裏には、日本野球に対する純粋な尊敬と熱意が存在している。しかし同時に、知識がないことをあっけらかんと認め、中華チェーンを日本食と言い切ってしまう飾らないお茶目さこそがマーフィー監督の魅力なのだろう。
一流の称号を持ちながら、気取りや威厳を振りかざすことなくフランクに笑い合える名将。もし将来、本当にNPBのグラウンドに立つ日が来たら――。日本のプロ野球界は、今までにない笑いと情熱に包まれることになるかもしれない。