プロ5年目の今季、キャリアハイの成績を残した渡部遼人
多くの課題も見つかったが、確かな手応えを掴んだシーズンだった。オリックスの渡部遼人外野手はプロ5年目の今季、97試合に出場して打率.226、3本塁打、13打点、チームトップの18盗塁をマーク。これまで代走や守備固めとしての起用が主だったが、安打、盗塁、本塁打、打点全てでキャリアハイの成績を残し、戦力として確かな足跡を刻んだ。
渡部は手応えを口にしつつ、シーズンをこう振り返る。
「3月、4月は自分の中ではいい形で入れたり、今まで経験しなかったぐらいの試合数、連続して試合に出たりっていうのがありました。経験としても良かったですし、その後、調子が下がったりしましたけど、そういうのも含めてまた経験だと思うので。いいシーズンだったなと思います」
慶大から2021年ドラフト4位で入団。俊足と好守には定評があったが、レギュラー奪取には打力向上が急務だった。今季は開幕直後からバットで猛アピール。4月8日のロッテ戦に「2番・中堅」で今季初先発し、同17日のソフトバンク戦ではプロ初本塁打。3、4月で18試合に出場し、打率.391、3本塁打7打点7盗塁、OPS1.121という驚異的な数字を叩き出し、故障者が続出するチームの“開幕ダッシュ”を牽引した。
飛躍の裏には、オフから取り組んできた打撃への意識改革があった。かつてはボールを見極め、ファウルで粘る打撃を身上としていた。だが、それだけではプロの厳しい競争を勝ち抜けない。“ちょこちょこ当てる”打撃から脱却し、バットを強く振るための試行錯誤を重ねてきた。
課題の打撃強化に直結…森友哉と太田椋からの“助言”
「長打を狙っているわけではなく、間を抜けるような強い打球が理想です。やっていたのは、トップの位置を変えることや、打球の強さを求めること。もともとボールを見極めたりファウルにするのは得意だったのですが、それだけになってしまっていた。試合で強い打球を打つために、練習で色々と取り組んできました」
転機となったのは、昨秋のキャンプでの出来事。球界を代表する強打の捕手・森友哉との食事の席でかけられた言葉が、燻っていた男の心に火をつけた。
「『お前は守備力もあるし、ミートするだけで試合に出られるんやから。守っているだけでチームとしてデカいし足も使える』という話をしてもらって。一流選手がそう思ってくれるだけで嬉しいですし、やる気につながりました。もっとバッティングの面を強化しようという一番のきっかけになりました」
森友からの助言を胸に居残りでバットを振り込み、自主トレを共にする太田椋内野手からは技術的なヒントをもらった。
「太田は言語化が上手なので。例えば2人で自主トレをしていて、順番に打つじゃないですか。で『今こうなってる』とか、そういう人のことも見られる。人がどうなってるかを見られるし、自分の分からないところをコメントしてくれる。全部が全部やってとかじゃないですけど、『あーこうなってるんだ、じゃあやってみようかな』で良くなったりもします。感覚も凄いんですけど、それを具体的に言葉で表現できるのが凄い」。同僚の助言や客観的な視点を貪欲に吸収し、打撃を進化させていった。
球界トップクラスの守備力…体現する“美学”
打撃の台頭が目を引く一方で、渡部の真骨頂はやはり守備にある。セイバーメトリクスの指標などを用いてプロ野球の分析を行う株式会社DELTA(https://1point02.jp/)によると、守備で平均的な選手と比べた時にどれだけ失点を増減させたかを示す指標「UZR」では、チームトップの7.4を記録。規定守備イニングには到達していない(今季は573イニング)が、1200イニングで換算するとトップクラスの15.5になり、どれだけ守備でチームを救っているかが分かる。
本人は「そこまで守備指数は気にしてやっていない」と口にするが、「もし、マイナスがあったら気にしますね。送球がちょっとマイナスらしくて」と守備へのこだわりを見せる。実際に肩の強さや送球による失点抑止力を評価する指標「ARM」では-1.6の数字が出ている。
他球団の名手とも肩を並べる守備力。そこには、グラウンドで体現し続ける“美学”が存在する。
「外野は、捕ればアウトですから。ポジショニングと1歩目、そしてライン取り。バッターの特徴や、うちのピッチャーの球筋、変化球などを考えれば、結果としていいスタートが切れると思っています。実際にそうだと思っているので、そこに関してはこだわりを持ってというか、相手のヒットを奪うことと、あとは余裕を持って捕るっていうのを意識してます」
単にアウトを奪えばいいわけではない。ファインプレーでスタンドを沸かせることよりも、涼しい顔で落下点に入ること。その真意は、投手への思いやりだった。
「余裕を持って捕った方が、うちのピッチャーが『あ、そんなにいい打球を打たれていないんだな』と思えるじゃないですか。ピッチャーがダメージを受けないように。相手バッターにも『余裕で捕られた』と思わせるだけでも少し違うと思うんです」
1年間出場する難しさを痛感「後半は普通に実力で出られなかった」
圧倒的な守備力と走塁技術を持ち、そこに打撃という最後のピースがはまりかけた5年目。しかし、シーズンを通した戦いの中で、超えなければならない新たな壁にも直面した。後半戦は怪我や疲労も重なり、失速。レギュラーの座を最後まで守り抜くことはできなかった。
「試合に出続けることは大変なことだと感じました。毎日、いろんなとこが痛くなったりもそうですし。でも後半は普通に実力で出られなかったので、そこはまたゼロからって感じですね」。
理想像は明確に見えている。ソフトバンクの周東佑京外野手や、阪神の近本光司外野手。確かな打撃技術を持ち、守備と走塁で相手にプレッシャーを与える存在だ。
「しっかり打つこともできて、相手にプレッシャーを与える守備や走塁ができる選手。そういう選手がいるチームは強いですから。そこが理想像ですね」
初めて経験した「レギュラー」としての喜びと、シーズンを完走できなかった力不足。両方を肌で感じた今季の経験は、間違いなく財産となっている。秋季練習、キャンプから再び、終わりのないアピールの日々が始まる。
「自分でも課題を見つけることができた、いいシーズンでした」。悔しさを飲み込み、静かに燃える男の視線は、すでに来季のグラウンドに向けられている。絶対的レギュラーの座を奪い取るため、渡部遼人は歩みを止めない。
(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)