西武・高松渡が壊したタブレット “足のスペシャリスト”の矜持「自分しかいない」…高校時代に残した伝説

代走のスペシャリスト、西武・高松渡【写真:小林靖】代走のスペシャリスト、西武・高松渡【写真:小林靖】

「高松で勝負してアウトならしょうがない」

 脚光を浴びることは少ないが、西武に“代走のスペシャリスト”がいる。27歳の高松渡(わたる)内野手。今季1軍出場は12試合で2打数無安打だったが、11度代走で起用されて6度二盗を試み、5度成功させた(成功率83.3%)。2023年シーズン途中に中日から移籍し、2024年から代走中心の起用で3年連続盗塁成功率80%以上を誇り、首脳陣が寄せる信頼も絶大だ。

 熊代聖人外野守備走塁コーチは「高松を代走で起用する時には、試合の展開に関係なく『任せるからね』と判断を委ねていますし、チーム自体が『高松で勝負してアウトになったらしょうがない』と信頼を寄せています。それくらい準備をしてくれて、スタートを切るタイミングをつかんでくれています」と語る。

 プロのレベルでは、単に足が速ければ盗塁ができるというものではない。絶好のタイミングでスタートを切る技術が成否を分ける。事前に相手投手を研究し、牽制球の前に行う予備動作(クセ)や、「〇球以上は牽制しない」といった傾向を探ることが必須になる。

 高松は「相手の先発投手の映像は当日の試合前に必ず見ますし、登録されているリリーフ投手の映像も全部、前日までに見てクセを調べています」と明かす。研究に時間をかけた結果、ハプニングが起きたこともあったという。熊代コーチが証言する。

「高松は本当に凄い。僕も走塁コーチとして相手投手の映像を見て研究しますが、高松はたぶん倍くらいの時間を費やしています。何しろ、相手投手の映像を見過ぎてタブレットが壊れたくらいですから」

 西武では全選手にタブレットを配布し、球団が収集した相手投手の映像などを各自見られるようにしている。高松は「去年のシーズン中、見過ぎてタブレットが全然動かなくなり、替えてもらいました」と笑う。

ベルーナドームで秋季練習に励んでいる【写真:宮脇広久】ベルーナドームで秋季練習に励んでいる【写真:宮脇広久】

「代走で盗塁できるのは自分しかいない」

 2023年7月に川越誠司外野手との交換トレードで中日から移籍した。主に代走で翌2024年は8盗塁・2盗塁死(成功率80%)。昨季は7盗塁・1盗塁死(成功率87.5%)だった。

 今季は7月23日に1軍初昇格を果たし、以降は2軍へ戻されることはなかった。今季のチーム盗塁数がリーグ4位の56で、走れる選手が少ない西武にあって高松の走力は貴重だった。本人も「現状では、代走で盗塁できるのは自分しかいないと思っていて、『自分に任せてくれ』という気持ちでやっています」と言い切る。

 しかし、10月11日の日本ハムとのCSファーストステージ第2戦では、高松に「盗塁死」が記録されるシーンがあった。

 0-1で迎えた7回、先頭で中前打を放った外崎修汰内野手の代走として登場した高松は1死後、滝澤夏央内野手への初球の前にスタートを切ったが、早過ぎた。相手の福島蓮投手が気付き、振り向いて二塁へ送球したが水野達稀内野手が弾いてセーフ。この後、水野がボールを持たないまま降ろしたグラブが高松の顎付近に衝突し、グラウンド上に倒れ込むハプニングもあった。結果的に高松に盗塁死、水野にエラーが記録された。

 熊代コーチは「実はあの直前、高松は抜群のスタートを切っていたのですが、(渡部)聖弥(外野手)が打ってファウルフライでアウトになってしまった。それで相手バッテリーに警戒され、福島投手はあの時のセットポジションで、データにはなかったくらい長くボールを持っていて、スタートが早くなってしまった」と解説。「しかし、短期決戦でギャンブル的な勝負が必要な場面でしたし、めちゃくちゃ準備をしてくれている高松だから、あれでいいと僕は思います。結果的にセーフになりましたしね……」と語る。

代走のスペシャリストとしてプライドをのぞかせた【写真:宮脇広久】代走のスペシャリストとしてプライドをのぞかせた【写真:宮脇広久】

高校通算11本塁打中、9本がランニングホームラン

 高松は兵庫県出身で、子どもの頃に憧れた選手は巨人の藤村大介氏(現スコアラー)。2011年に盗塁王のタイトルを獲得した韋駄天で、「足が速いところがかっこよかった」と振り返る。滝川第二高時代には50メートル走5秒8の快足を誇り、通算11本塁打中、9本がランニングホームランだった。「打球が右中間や左中間を抜けた瞬間、走りながら『これはホームランにできる』と確信できることがありました」とうなずく。

 そんな高松に今後の目標を聞くと、「今までは、スタメンで試合に出て30盗塁とか40盗塁とかを掲げてきて、それを諦めたわけではないのですが……」と前置きし、広島の辰見鴻之介内野手が今季更新したシーズン代走盗塁数のNPB記録に照準を合わせた。

 辰見は今季71試合に出場し、代走だけで27盗塁(通算28盗塁)を決めて記録を塗り替えた。侍ジャパンに選出され、11月の「ラグザス アジアプロ野球チャンピオンシップ2026」に出場する。高松は「辰見選手は71試合で28盗塁、自分は12試合で5盗塁。1年間必要とされて試合に出ればイケると、自分では思っています」と計算している。

「まずは自己最多の15盗塁(中日時代の2021年)を超えて、20盗塁。そこからさらに積み上げていきたいです」と着実にステップを踏んでいく考えだ。代走のスペシャリストとしての自信、プライド、将来像が伝わってきた。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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