秋季キャンプで三塁の守備にも就く太田椋、スローイングの改善など守備の基礎を磨く
プライドと覚悟を持ち、実りの秋にする。11月1日から始まった高知・秋季キャンプに参加しているオリックスの太田椋内野手。若手主体のメンバー構成のなかで、今季125試合に出場しキャリアハイの成績を残した背番号「1」が、黙々とバットを振り、“名手”の元で徹底した守備練習を行っている。
キャンプ初日。午前中の筋力トレーニングを終えると、太田は若手メンバーから離れ、紅林弘太郎内野手と共に“別メニュー”をスタートさせた。メーン球場のランチ特打で快音を響かせると、その後は安達了一内野守備・走塁コーチがノッカーを務める特守へ向かった。スローイングと捕球の基礎動作を、何度も体に染み込ませていった。
見慣れた二塁の定位置ではない。太田が就いたポジションは三塁だった。三塁線への打球を処理し、遠く離れた一塁ベースへ向かって力強いボールを投げ込む。今シーズンは二塁、一塁を守っていたが、なぜこの時期に三塁の特訓を行っているのか。そこには安達コーチの明確な意図があった。
「三塁も、今後チーム事情でどうなるか分からないじゃないですか。それに、椋(太田)は少し横から投げる癖があるので、縦に送球する、腕を縦に使うということを意識させています。本当はもっとピボットスローとかもやりたかったんですけど、時間がなかったので」
正三塁手の宗はFA権取得で去就が不透明
オリックスの三塁といえば、2021年から3年連続でゴールデン・グラブ賞に輝いた不動のレギュラー・宗佑磨内野手が君臨している。しかし今年、その宗が国内FA権を取得したため、去就は不透明な部分もある。チームとして不測の事態に備え、あらゆるオプションを用意しておくのは当然のリスク管理だ。
だが、安達コーチの目にはそれ以上のものが映っていた。二塁手は併殺プレーの際など、どうしてもスナップを効かせた横からのスローイングが多くなってしまう。「まだ若いですし、今のうちにしっかりとしたスローイングを身につけてほしい。それは三塁でも二塁でも同じです」。長年、オリックスの絶対的な正遊撃手として鉄壁の守備を誇ってきた名手だからこそ見抜ける課題を、この秋の間に徹底的に修正する。
当の太田は、額の汗を拭いながら三塁守備を涼しい顔で振り返る。
「送球を意識した感じです。シーズン中でもちょくちょくサードやショートで受けてはいたので、そこまで大きな違和感はないですね。いつものルーティンというか、しっかり指の掛かりや、球の回転を意識してやっていました」
二塁というポジションの難しさと奥深さを知るからこそ、三塁での練習も客観的に捉えることができている。
「サードは距離が近いので、どちらかというとハンドリングなどが大事になる。逆にセカンドは細かい動きや、逆の動きも入ってきますから。やっぱり、セカンドの方が難しいかなと感じています」
太田&紅林が「引っ張っていかないとダメ」
首脳陣からはリスク管理として三塁への期待も込められている。送球改善のために三塁を守り、内野の複数ポジションをこなせるユーティリティー性は確かに武器になるが、太田は二塁手としてのプライドも覗かせる。三塁も今後の選択肢の1つになるのか――。そう問われた時、太田の目つきが鋭さを増した。
「セカンドで出られるなら、セカンドが一番いいです。やっぱり、僕はセカンドで打ててナンボだと思うので」
短い言葉の中に、強烈な意地が凝縮されていた。背番号「1」を背負った今季は、2年連続規定打席をクリアし打率.280、9本塁打をマーク。守備の負担が大きく、激しい動きが求められるポジションでありながら、20本塁打を目標に掲げる“打てる二塁手”こそが、太田椋が思い描く自身の理想像だ。
今季、18本塁打をマークした紅林との“二遊間コンビ”が確固たるものになれば、チームの未来も明るい。だが、熱心に指導を行う安達コーチからすれば、すでに実績を積み上げつつある2人であっても、まだまだ物足りないという。
「あの2人が引っ張っていかないとダメだと思いますし、他の若手たちはあの2人のポジションを奪いにいかないと、チームは絶対に強くならない。みんな頑張らないといけないですが、特にあの2人にはもっとやってもらわないと困ります」
安達コーチが求めるもの「守備の意識をもっと高めてくれれば」
守備練習ではスローイング、捕球体勢など基本に時間を費やしている。派手なプレーはないが、一つ一つの動きを確認しながら、根気強く行うことが、成長の近道になっていく。太田への課題を問われた安達コーチは「全然ありますね」と、はっきりと口にした。
「まだ動かないといけない年齢です。一塁のポジションは他の選手との兼ね合いもありますが、そこに行くのではなく、二塁やサード、ショートが守れるぐらいじゃないと。打撃はいいものを見せてくれているので、守備の意識をもっと高めてくれれば」
鍛錬の秋はまだ始まったばかり。実績あるベテラン組は舞洲での調整を許されているが、太田は実績の少ない若手たちに混じり完走するつもりだ。
「もちろん、そうなると思います。もう、普通にキャンプに来ましたから。気づいたらメンバーに入っていた(笑)。もっと成長しないといけない。自分に足りない部分を補っていきたいです」
“打てる二塁手”としてのプライドと、さらなる高みを目指す向上心。名手からの要求に応え続ける背番号「1」の実りある秋が、来季のオリックスをさらに強くする。
(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)