秋季キャンプで全力投球「どんどん投げていこうと思いました」
栄光と挫折を知る男が、覚悟を持って秋季キャンプに挑んでいる。かつて侍ジャパンの一員として世界一に貢献し、オリックスの強力ブルペンを支えた宇田川優希投手。度重なる怪我に悩まされ、2024年を最後に1軍の舞台から遠ざかる27歳が、完全復活に向け本格的に動き出した。
プロ6年目の今季は7月15日に行われたファームの練習試合を最後に、右肘の不調などで離脱。もがき苦しんだ右腕は、高知で行われている秋季キャンプ2日目にブルペン入り。変化球を交えながら43球を全力で投げ込んだ。
「初日は、キャッチャーのゾーンに強いボールを投げるというのを意識して、最初から全力で投げていきました。舞洲でも徐々に力を入れていく感じだったんですけど、最初から全力で投げるというのはあまりやっていなかったので。疲れてきて、最後の方は抜け球が多かったなと分かったので、本当にこのキャンプは投げ込みが大事だなと改めて実感できました。どんどん投げていこうと思いました」
全力で投げられる喜び――。充実感が漂う言葉の裏には、長きにわたる怪我との闘いがあった。圧倒的なポテンシャルを持ちながら、2024年シーズン後半に右肘の違和感で離脱し、2025年3月にトミー・ジョン手術を受けた。同年オフに育成契約となり背番号は「14」から「121」に変更。支配下復帰を目指した今季も、右肘の違和感に悩まされた。
当初はフェニックスLで実戦復帰予定も…回避した背景
「やっぱり投げていて違和感もありましたし、怖さという部分を全て取り除くことができなかったんです。そこで変に違うところに力が入って、また痛めて……という繰り返しだったので。でも、今はもう全力で投げても全然痛くないですし、怖さという部分は取れたのかなと感じています」
当初は10月のフェニックス・リーグで実戦復帰する青写真を描いていた。しかし、万全を期すため見送り、高知での秋季キャンプに全てをぶつける決断を下した。「フェニックスで投げられなかった分、このキャンプはいい環境でできているので。試合で投げていく感覚も取り戻したい。試合通りに投げるブルペンにしたい」と力を込める。
ブルペン投球を見守った厚澤和幸投手コーチは、あえて実戦を急がせなかった意図を明かす。
「フェニックス・リーグで投げるプランもあったんですけど、あえてそこは投げさせずに。シーズンはもう終わっていますから。来年、いかに勝負させるかというプランの中での今日の40球です。ここまではブルペンでは見ての通り、すごくいい球なんですよ。あとは打者に投げた時に、出力がもう1段階、2段階上がってしまう時に体が大丈夫かどうか。このキャンプ中に打者に投げて確認していくことが必要だと思います」
2023年WBCで侍ジャパンのブルペン担当コーチを務め、宇田川の“最盛期”を知る厚澤コーチも認める復調。「今のボールを見ても、やっぱり1軍のボールですよね。そこは間違いないんです」と太鼓判を押すように、かつての圧倒的なパフォーマンスを取り戻す段階に入りつつある。
窮屈なユニホーム…ブルペン投球で右腕の脇付近が露わになったワケ
本人に慢心は一切ない。違和感なく投げられる喜び以上に、プロとして「危機感」を抱いている。
「いくら球速が出るようになったり、状態が良くなっても、やっぱり何があるかわからないので。その失敗を繰り返さないようにやっていかないといけない。そういう難しさはあります。来年1軍で投げるためにやっていきたいという気持ちがある。そこで、2年連続で失敗するわけにはいかないので」
WBCでの栄光から一転、怪我により育成という立場になった現実。支配下復帰を目指すも、今季は叶わなかった。それでも宇田川は下を向かず、地道にトレーニングを続け、不安なく投球できる状態に戻してきた。
投球後には厚澤コーチと談笑する場面もあった。会話の一部は、少し窮屈そうに見える「ユニホーム」についてだった。ブルペンで投げるたびに、右腕の脇付近が何度も露わになる“異変”……。宇田川は苦笑いを浮かべながら理由を明かす。
「体が大きくなったというのもあって、今年のキャンプ前に届いたユニホームが小さくなってました。肩付近が上がりづらかったんで切りました。体重はあまり変わらずに、体が大きくなってきた感じです。去年も今年もめちゃめちゃウエートトレーニングをやってきたので。単に体が大きくなっただけでなく、可動域も広がったというか、動けているなというのは思います」
厚澤コーチ「本当に1軍のブルペンにいないと困ります」
肩周りが窮屈になったため、自ら切ったというユニホームを着てブルペンに入った右腕に、厚澤コーチも驚きの表情。「ユニホームを自ら切ってましたからね(笑)。それだけ上半身も大きくなったということですよね」と笑い飛ばしつつ、最後にこう付け加えた。
「彼の感覚の中にいい時の感覚っていうのがあるんですよ。そこにかなり近くなってきてると思う。もうメカニック的にもフィジカル的にもだいぶ合ってきてる感じがすると思います。誰もが知っている通り技術はあるんですよ。ボールの力だったり、変化球の使い方もそうだし。あとはフィジカルの方で体が大丈夫かどうかだけなんですよ。2桁(背番号)に戻り、1軍に復帰する思いは強いと思います。でも、それは我々も同じなんですよ。本当に1軍のブルペンにいないと困ります」
ゼロから這い上がる覚悟を決めた宇田川。すべては1軍のマウンドにるために――。150キロを超える剛速球と、落差の大きいフォークで打者を圧倒した姿を必ず取り戻す。
(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)