人的補償→戦力外「抑えなければ終わり」 追い込み続けた現役生活…後悔なき8年間

オリックスから戦力外となった竹安大知【写真:真柴健】
オリックスから戦力外となった竹安大知【写真:真柴健】

阪神、オリックスで活躍した竹安大知、野球を始めたファンの“息子”に驚き

 関西2球団で送った、8年間のプロ野球生活は思い出が尽きない。阪神、オリックスで活躍した竹安大知投手は、10月28日に戦力外通告を受けた瞬間、現役引退を決めたという。「後悔がないと言えばウソになりますけど、率直に『やり切った』という気持ちが強いですね」。そう話すと、パッチリとした目を細めた。

 夢中で駆け抜けた8年間は、あっという間に過ぎた。竹安は2015年ドラフト3位で阪神に入団。プロ1年目の2016年は入団前に手術した右肘のリハビリなどもあり、1軍登板はなかった。プロ2年目の10月5日(中日戦)で1軍デビュー。同点の7回に2番手としてリリーフ登板し、わずか9球で3つのアウトを奪った。直後に味方打線が勝ち越しに成功し、プロ初勝利をマーク。聖地・甲子園で無数のフラッシュライトを浴びた。

 新星の出現に本拠地が熱狂すると「本当に温かいファンに感謝ですね。タイガースファンの方は人生の中に阪神がある。生活の一部というイメージでした」。ウイニングボールを受け取り、お立ち台に上がったが「(緊張で)覚えてないですね。投げるよりも緊張したことだけを覚えています」と、にこやかに振り返った。

 プロ3年目の2018年には“金本政権ラスト先発”を託された。10月13日の中日戦(ナゴヤドーム)にプロ初先発。5回2失点の投球で勝ち負けはつかなかったが「プロの凄み」に出会った。初回先頭で迎えた荒木雅博氏は、岩瀬仁紀氏とともに、この日が引退試合だった。

「(緊張で)ガチガチだった初回のマウンドで、荒木さんにヒットを打たれたんです。その後の打席で凡退に打ち取れたんですけど(一塁付近から)僕の近くまで来て『打たせてくれてありがとう!』と言っていただいて……。こっちは緊張しまくりの登板で(わざと)打たせる訳もなくて(笑)。凄い人だなと。何も反応することはできませんでした」

抱かれていたファンの息子が「もう野球を始めていたんです」

 驚いたのはスタジアムの中だけではない。グラウンド外での出会いも励みだった。「阪神時代からご夫婦で応援してくださっていたファンの方がいたんです。2019年の秋に僕が(オリックスへ)移籍したタイミングが最後に会ったタイミングだったんですけど、最近、久しぶりに再会したら……」。目を丸くする出来事が待っていた。ふと視線を下げると“少年”がいた。すぐに膝を折りたたんで、目線を合わせた。

「ビックリしましたよね。(当時は)抱っこされていた赤ちゃんだったのに、もう野球を始めていたんです。昔は歩けるかどうかぐらいの(年齢の)子だったんですけど、スクスクと成長していました。そりゃあ……自分も歳を取るよなぁと思いましたね」

 自身の奮闘を見届けてくれたファンの存在は心の支えでもあった。1軍通算マウンドは40試合。1球1球に魂を込めてきた。「僕は毎試合、マウンドに上がる前は自分を追い込んでいました。もう、これ抑えなければ終わりだ。『行くしかない!』という感情で戦ってきました。人生だから後悔はあるに決まっている。でも、やり切った感じはありますね」。

 首脳陣、トレーナー、ファン……。周囲の支えがあり、2つのユニホームを着た。無我夢中で駆け抜けた、8年間のプロ野球人生。気づかぬ間に少年は走り出し、ボールを投げるようになった。引退を決断した今秋、野球界に新たな産声が聞こえた気がした。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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