戦力外の21歳が目指す警察官「次は人を支える仕事に」 “超難問”に異色の挑戦

ソフトバンクから戦力外通告を受けた早真之介【写真:上杉あずさ】
ソフトバンクから戦力外通告を受けた早真之介【写真:上杉あずさ】

元ソフトバンク・早は現役引退を決断…戦力外の報告に実家の父は号泣した

 ソフトバンクから戦力外通告を受けた早真之介外野手が現役引退を決断した。2020年の育成ドラフト4位で入団した21歳。主戦場は主に3軍でウエスタン・リーグでも3年間で1試合の出場にとどまった。クラブチームからの誘いも断り、第2の人生で目指すのは警察官。「今までたくさんの人に支えられてきた。次は人を支える仕事に就きたい」とバットを置いた。

 10月27日、3軍の韓国遠征から帰ってきたタイミングだった。寮で1人でいるときに、電話が鳴った。相手は育成部の球団職員。「3年目で危機感はあったんですけど、知っている人だったので……。正直、『違う電話だろうな』って思ってしまいました」。翌日に球団施設に来るよう言われ、自身の戦力外を悟った。「頭が真っ白になりました」と振り返る。

 最初に伝えたのは両親だった。「正直話しにくかったですね……」。母・めぐみさんに電話をかけると、隣に父・武彦さんもいた。「クビになってしまったわ」。そう切り出すと2人とも驚いた様子だった。

「ほんまに?」「ほんまやわ」「とりあえず、明日球団施設に行ってきな。落ち着いたら話そう」。電話は短く、軽く会話した程度だった。しかし、電話が切れた後、息子の前では気丈に振舞っていた父・武彦さんが家で号泣していたことを後から知った。

「それを聞いてすごい悔しくって。プロに入れたのも全て両親のサポートがあったからですし、やっぱり活躍している姿を見せたかったので。すごく申し訳ないですね」

戦力外を受けPayPayドームに挨拶に訪れた早真之介【写真:藤浦一都】
戦力外を受けPayPayドームに挨拶に訪れた早真之介【写真:藤浦一都】

NPBに絞りトライアウトを受験も…死球で肉離れを起こし途中離脱

 まだまだやれる自信はあった。NPBを希望し「12球団合同トライアウト」を受験したが、1打席目で左足に死球を食らった。激痛が走り、歩くのもままならない状態。肉離れだった。その後4打席立つも凡退に終わり、残り2打席は無念の辞退となった。

 クラブチームや社会人チームからの誘いはうれしかった。周囲からは「まだ若いからやれる」と現役続行を勧められ、両親も再度プレーする早の姿を見たがっていた。それでも、「これは僕のわがままなんですけど、NPBだけと決めていました」。最高峰の舞台にこだわった。トライアウトから10日が経ち、引退を決めた。

 セカンドキャリアとして目指すのは警察官。採用試験を受験することにした。元DeNA・大田阿斗里氏ら過去にも例はあるが、異例の挑戦となる。小さい頃から憧れを持っていた職業。戦力外通告を受けた際に、球団から渡されたセカンドキャリアの紙に警察官の文字を見つけ、さらに興味を持った。採用試験の倍率は例年5倍~6倍。簡単なことではないことは分かっている。「ドキドキと不安でいっぱいですけど、決めたことなんで」と、決意は固い。新たな夢は「いつかは機動隊になりたいですね」。野球で培った肉体には自信もある。

 師と仰ぐ中村晃外野手からの言葉も決断を後押しした。一緒に自主トレをする間柄で、技術だけではなく人間的にも学ぶ部分が多かった。「『プロじゃなくても1人で道を切り開けるように頑張れ』『なんでも自分の責任』という言葉が自分の中では残っています」。自分の道は自分で決める。バットの代わりにペンを握りしめた。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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