“0.1兆円”の契約は「まるで国家予算」 大谷翔平に予想される「想像を超える成績」

メジャーで活躍した野球評論家の井口資仁氏【写真:荒川祐史】
メジャーで活躍した野球評論家の井口資仁氏【写真:荒川祐史】

プロスポーツ史上最高額の契約に「結果を出して勝ち取ったもの」

 この冬、全野球ファンが注目していた大谷翔平投手の去就が決まった。大本命と見られていたドジャースと10年7億ドル(約1015億円)というプロスポーツ史上最高額で契約。今季まで11シーズン連続でポストシーズン出場を果たしている常勝軍団で、目標とするワールドシリーズ制覇を目指す。

 エンゼルスへ移籍した2018年以降、二刀流の活躍でメジャーの歴史を次々と塗り替えてきた大谷が、フリーエージェント(FA)市場でもまた、前例のない記録的な契約を勝ち取った。2005年から4季にわたりメジャーで活躍した野球評論家の井口資仁氏は、大谷のドジャース移籍をどう見るのか。井口氏は「凄いことになりましたね」と笑うしかないといった様子で言葉を続けた。

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 大谷の契約が凄いことになりましたね。0.1兆円という、まるで国家予算のような規模です(笑)。野球選手の契約で、なかなか「兆」という単位が出てくるとは思いませんでした。ただ、これは大谷がしっかりと結果を出して勝ち取ったもの。メジャーの長い歴史の中で誰も成し得なかったことを果たしたことで、これだけの契約を結ぶ価値、値打ちがある選手だと評価されたのです。

 報道によると、契約期間の10年を超えて、長期にわたって支払われるという内容とのこと。ぜいたく税が気になるチームにとっても、引退後の生活が保証される本人にとっても、良い契約となったと思います。これでドジャースはさらに補強をする余裕が生まれました。

 そもそもFA市場が解禁される前から「最有力」と言われてきましたが、契約の大きさよりも、シンプルに「勝てるチーム」という理由でドジャースを選んだのでしょう。やはり野球選手にとって、最大の目標であり、喜びは優勝することです。

 大谷は今年、投手として23試合に投げて10勝5敗、防御率3.14、打者としては135試合に出場して打率.304、44本塁打、95打点、20盗塁を記録。史上初となる2度目の満票選出でア・リーグMVPに輝きました。これだけの活躍をしながらも、チームとしてはなかなか勝てない状況は何よりも悔しかったと思います。自分はこれ以上どうしたらチームを勝利に導けるんだ。そう思ったことも少なくなかったでしょう。勝てるチームの中で、自分の活躍が勝利に貢献することを実感したいと願っても不思議はありません。

 当たり前ではありますが、野球はチームスポーツです。自分1人だけの力で勝つことは難しい現実を、大谷はエンゼルスで感じたのではないでしょうか。開幕直前に劇的なWBC優勝を味わったことも大きかったかもしれません。やはり野球人であれば、自分がシーズン終了した後も他の選手がポストシーズンの熱狂の中で野球をする姿を見ると悔しいものです。

 優勝したい。その思いを追い求めるためには、ドジャースという選択肢が最善だったのでしょう。また、同じ南カリフォルニアを拠点とするエンゼルスでプレーして環境の良さも熟知していますし、手術をした肘のリハビリを考えても自然な選択だったのかもしれません。日本でのメジャー中継も夜中ではなく朝が多いので、ファンも野球評論家も喜んでいる人は多いのではないでしょうか(笑)。

 大谷がアジャストすべきことがあるとしたら、歴史ある名門チームの一員としての立ち居振る舞いかもしれません。エンゼルスにはなかった規律のようなものもあるでしょうし、さらに注目度が上がるはず。プレッシャーをものともしない強さを持っている選手ではありますが、エンゼルスとの雰囲気の違いは感じるはずです。

大谷加入でドジャース打線に生まれる“効果”

 さて、ドジャースにはムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマンらMVP経験者もいますし、ジェームズ・アウトマンを筆頭に期待の若手も数多く揃っています。打者に専念する来季、気になる打順は、やはり最も持ち味を生かせるのは2番ではないかと思います。

 1番ベッツ、2番大谷、3番フリーマンと並ぶことで、大谷にバッテリーのマークが集中することはなくなりますし、逆にベッツは盗塁しやすくなる。大谷がさらにベッツを進塁させれば、フリーマンも楽な気持ちで打席に立てるでしょう。この3人を並べることで、チームに色々なプラスの効果が生まれると感じています。

 3番を任せるのも一つの手ですが、打線を繋ぐための打者を2番に置いてもあまり意味がない。ベッツは今季39本塁打ですから、大谷と合わせれば80本塁打以上であることを考えると、やはりここは打てて走れる2人を打線トップに並べ、1回でも多く打席に立たせた方がチームとしては多くの打点を期待できます。

 ベッツとフリーマンに挟まれることで、大谷はさらに打点・得点を増やすでしょうし、投手として復帰予定の2025年以降は勝利数も増やすでしょう。今でも二刀流として驚くべき成績を残していますが、ドジャースに移籍したことで僕らの想像を超える成績を叩き出す可能性は十分にあると思います。

 今季のドジャースは下位打線が手薄な印象が否めませんでしたが、アウトマンら若手左打者にとって、大谷はまたとない手本になるはずです。大谷自身の進化はもちろん、大谷が加入することでドジャース内に生まれる相乗効果にも期待したいところですね。

 僕がもう一つ期待したいのが、ロナルド・アクーニャJr.(ブレーブス)とのMVP争いです。両リーグにまたがった2年連続MVP受賞を大谷に期待する人は多いでしょう。その過程で、間違いなくライバルとして立ちはだかるのがアクーニャです。ホームランも打てて、打率も残せて、盗塁もできるアクーニャと大谷は、本当にいいライバルになると思います。どこまでハイレベルな争いとなるのか、今から楽しみです。

 子どもたちはもちろん、見る人に夢を与えることは、プロ野球選手にとって大切な仕事の一つです。そう考えると、今回の契約で大谷はみんなの夢を広げたのではないでしょうか。これから二刀流に挑戦する選手が増えてもおかしくはありません。

 ドジャースは元々人気球団なのでチケットを取るのが難しいと言われていましたが、大谷の加入でプラチナチケット化する可能性もありますね。来季の開幕戦は3月20日、21日に韓国・ソウルで行われるパドレス2連戦。ダルビッシュと対決する可能性もありますから、こちらも楽しみです。

 ドジャース・大谷翔平が、今度はどんな歴史を紡ぎ出してくれるのか。悲願のワールドシリーズ優勝を達成する日が来ることを願っています。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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