安達了一、難病とも戦った13年 1イニング3失策が決意の夜…「守れなくなったら引退」

オリックス・安達了一【写真:北野正樹】
オリックス・安達了一【写真:北野正樹】

オリックス・安達了一「あのエラーがなければ辞めてはいません」

 病によるピンチは何度も乗り越えたが、守備の不安には勝てなかった。オリックスの安達了一内野手兼任コーチが24日に行われた本拠地・京セラドームでの最終戦(西武戦)に出場し、13年の現役生活の幕を下ろした。

「あのエラーがなければ辞めてはいません。守備が問題だったんです。今ですか? 大丈夫じゃないですよ。大丈夫だったら続けているんで」。ユニホームを脱いだ安達が、改めて引退を決断した理由を説明した。

 安達が振り返ったのは、5月1日のロッテ戦(ほっともっと神戸)。3-1で迎えた9回の二塁守備から出場したが、雨の降るコンディションの中、1イニング3失策を犯してしまった。この回、5点を奪われ、NPB通算250セーブに王手をかけていた平野佳寿投手は降板。チームも逆転負けを喫してしまった。

「守れなくなったら引退」。引き際の判断基準に守備を挙げていたのは、名手だからこその矜持だった。T-岡田外野手の現役引退が球団から発表された8日。高知・安芸でのウエスタンリーグ、阪神戦に出場していた安達は試合後「僕の気持ちは決まっています」と現役引退を決断したことを明かした。この日の試合が、引退試合までの最後の公式戦出場となった。

 引退のピンチを、これまでは何度も乗り越えてきた。2016年1月、国指定の難病「潰瘍性大腸炎」を発症。前年秋の練習時から腸の不調は自覚していたが、2月1日から始まる春季キャンプに向け、我慢をして無理を重ねてきた。トイレに行く回数は1日に30回近くにも増え、食事も摂れず緊急入院したベッドで引退を覚悟したこともある。

「症状が重かったこともあったのですが、もう治るとは思えませんでした。日常生活も満足に送れないから、野球を続けていくのは無理だと……」

「自分では『病気を抱えながらよく頑張った』という思いはありませんね」

 ストレスなども原因といわれ、多くの人が同じ病で苦しんでいるのも初めて知った。本来なら明かす必要のない個人情報だが、「知られたくないという思いはなかったですね。今も結構(罹患している人が)多いと聞きますし、みなさんに(病気を)知ってもらった方がいいと思いました」。ファンだけでなく、同じ病気を抱える人から球団に届いた手紙なども励みになった。

 2016年は4月にチームに戻り、球団や首脳陣の理解で体調面を考慮した起用をしてもらって118試合に出場。403打数110安打、打率.273で復帰を果たした。しかし、2017年9月に収まっていた病状が悪化し、再入院。2022年の日本シリーズ当時も、体調不良に陥ったという。

 完治することはない病気だけに、体調面に気を付けながらプレーを続けてきた9年。「最近はアルコールも飲むようになりました」というほどだから、病気と折り合いをつけ体調をコントロールする術も身に付けた。「自分では『病気を抱えながらよく頑張った』という思いはありませんね」と難病との両立を特別なものとしては考えていない。状況を読んだ広い守備範囲で数々のピンチを救い、絶妙なバントや芸術的な右前打、進塁打でチャンスを作ってきた名選手は最後まで謙虚だった。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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