手放した公務員の安定「やりたいことある」　収入2/3でも充実…2軍球団から目指すNPB

くふうハヤテの早川太貴は昨年まで北広島市役所で勤務

　今季からウエスタン・リーグに参戦した、くふうハヤテの早川太貴投手は、昨年まで北広島市役所に勤務していた。プロ野球選手になるために、公務員の職を捨てて2軍球団入り。フレッシュ球宴出場を果たすなど、シーズン前半は先発として、後半は主に救援としてアピールした最速151キロ右腕は、今秋ドラフトでの指名を待つ。

　公務員からプロ野球選手へ――。クラブチーム「ウイン北広島」でプレーしていた昨秋もドラフト候補として注目されながら、指名されることはなかった。しかし本人は冷静に足元を見つめ「メディアさんには取り上げてもらっていましたが、シーズンを通じて調子もよくなくて可能性はほぼほぼないかなと思っていました。ハヤテのトライアウトが1週間後に迫っていたこともあって準備をしたくて、当日はトレーニングに行っていましたね」。ジムに駆け付けた報道陣に「来年に向けて頑張ります」と短く意思表明し、運命の日は終わった。

　小樽商科大4年時にグッと球速が伸びたことで、上を目指す気持ちが芽生えた。しかし時期が遅かったこともあり社会人などに行く道はなく「独立リーグは親に反対されてクラブチームという選択肢しかなくて、その中で公務員という仕事を見つけたんです」という。クラブチームで注目される存在にもなり、ハヤテ行きはプロに近づく道と、今度は親も決断を後押ししてくれた。

　ハヤテのトライアウトに無事合格。戦いの場を北海道から静岡に移すことになった。公務員という職業を手放すことに「安定を捨てるとよく言われるんですけど、そこは僕の中では関係なくて、やりたいことをやるためにトライアウトを受けさせていただいて合格したので入らせてもらいました」と話す。

エスコンフィールド訪問は「自分が投げられる時まで取っておきます」

　公務員時代は仕事が優先。練習は朝3時起き、4時半開始で行っていただけに「今は野球だけできて凄く充実しています」と表情は明るい。収入も「だいたい2/3とかにはなっていますかね」と明かすが、「元々趣味とかそんなになくて家にいることが多いので困っていないです」と笑った。

　2軍球団入りに際しては「北海道のクラブチームとは結構レベルの差があると思って来て、不安の方が大きかった」と振り返る。それでも登板を重ねるごとに自らの持ち味を発揮し、タイミングの取りづらいフォームから威力のある球を投じる。「先発でうまくイニングを消化できるところとか、短い回ならスピードを出せるところとか、自分の持ち味をちょっとずつ出していくことができました」。25試合（15先発）で4勝7敗、防御率3.22でシーズンを終えた。

　北海道出身の24歳。ファイターズファンの親に連れられ、札幌ドームにはユニホームを着て何度も応援に訪れていた。2006年の日本一の光景は「ダルビッシュさん、新庄さん……思い出深いです」と脳裏に焼き付いている。昨年から日本ハムの新たな本拠地となったエスコンフィールドがあるのは、勤務していた市役所と同じ北広島市。球場周辺はランニングコースにしており、徒歩10分ほどの場所に住んでいたが、実はまだ球場内を訪れたことはないという。「自分が投げられるときまで取っておきます」。プロ野球選手として足を踏み入れる日までお預けだ。

「ほかに同じような経歴の方がいないという点で、“元公務員”は話題性としてプラスかなと思います。でも自分としては、それを取っ払ってでも目立つ存在になりたいと思っています」と早川。覚悟を持って挑んだ1年。24歳に吉報は届くのだろうか。

（町田利衣 / Rie Machida）