マウンドで感じた異変「これはおかしい」 コーチの行動に憤慨…屈辱の開幕戦

元オリックス・星野伸之氏【写真:山口真司】
元オリックス・星野伸之氏【写真:山口真司】

星野伸之氏は1994年の“仰木オリ元年”に開幕投手も…傷ついたプライド

 スタートは最悪だった。元オリックスのエース左腕・星野伸之氏はプロ11年目の1994年、3年連続で開幕投手を務めたが、4月は0勝4敗、防御率5.64だった。この年に仰木彬氏が監督に就任。船出の月に“黒星地獄”にあえいだが、最終的には負け分もきっちり取り返して10勝10敗と2桁勝利をマークしたのは星野氏らしい。ただ、振り返れば開幕戦でいきなり納得できないことがあったという。

 1994年4月9日のダイエーとの開幕戦(GS神戸)は「仰木オリックス」の初戦でもあった。先発マウンドを託されたのが星野氏だったが、2回にダイエー新助っ人のブライアン・トラックスラー内野手に満塁弾を打たれるなど5失点。5回にも秋山幸二外野手にソロを浴びるなどリズムに乗れないまま、6回途中でKOされ敗戦投手となった。試合は6-17の惨敗だった。

 その中で星野氏が納得できなかったのはトラックスラーに満塁アーチを食らったシーンだ。「2アウト満塁、フルカウントで真っ直ぐを投げたら、真後ろにファウルされた。“やばい、やばい。もう次は100%カーブでいかないとな”って思っていたら(捕手の)中嶋(聡)が真っ直ぐのサインを出してきたんです。僕は首を振りましたよ。4回か5回は振ったんですが、それでも中嶋はガンとしてサインを変えなかったんですよ」。

 星野氏は「これはおかしいと思った」と言う。「中嶋に対して、僕があんなに首を振ったのは初めてだったと思います。普通の中嶋なら3回くらい僕が首を振った時に“来い! 大丈夫だから”って年下ですけど、絶対やるんですよ。サインに自信があるから。でも、あの時はそれもやらなくて、ずーっと真っ直ぐのサインを出し続けるだけだから“どうしたんやお前”って感じで(ポーズを)やったんですよ。そしたら……」。

一投で喫した満塁弾「なんとなく投げてしまった」

 中嶋は何気にオリックスベンチの方を指す仕草を見せたそうだ。「ああ、ベンチからの指示だったんだって、そこで初めてわかりました。じゃあ、しゃーないと思って、真っ直ぐを投げたら満塁ホームランですよ」と今でも悔しそうに話した。「どう見てもあそこはカーブやろって思っていましたからね。その前に俺らは真っ直ぐを選択するバッテリーミスをしているわけですよ。完全な打ち損じでしたから」。

 ベンチに戻った星野氏はサインを出していたコーチに「なぜ真っ直ぐだったのか」聞いたという。「『外国人選手は初対決でお前のカーブは打てない』ってすり込まれていたから『散々言っていましたよね』ともね。『スマン、俺が緊張していた』って言われましたけど、まぁ結果はわからないですよ。押し出しのフォアボールだったかもしれないし……。でも僕はストライクを投げられる自信があったし、おそらく振っただろうと……」。

 そもそも開幕投手に序盤でベンチからサインを出されたことにも憤慨していた。「それが分かった時点で、もう気持ちも入らなかったですね。だからなんとなく投げてしまったんですよ。投げりゃいいんでしょみたいな形でね。でも今考えれば、押し出しの方がまだよかったかなって思いますね。もっと冷静にならなきゃ駄目だったんですよね」。開幕戦で投じた1球が1994年の出足を狂わせた。4月が0勝4敗だったのも、悪い流れが無関係ではなかっただろう。

 もっとも、そのままで終わらないのがすごいところでもある。この年は6月に3勝1敗、7月に3勝0敗と巻き返した。「調子がいい時は毎日でも投げたくなるんですよねぇ。もちろん、そういうわけにはいかないですけど、いい感覚になった時に、それを(次の登板まで)忘れないようにするのに必死でしたね」。仰木オリックスでも最初につまずいたことを乗り越えて結果を出した。それはエース左腕としての意地だったのかもしれない。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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