オリ2度の戦力外も…DeNA26歳が大変身の理由 パレードで頭に浮かんだ“複雑な感情”

契約更改交渉に臨んだDeNA・中川颯【写真:宮脇広久】
契約更改交渉に臨んだDeNA・中川颯【写真:宮脇広久】

今季年俸650万円→246%アップの1600万円でサインした

 大変身の要因はメンタル面にあった。“球界絶滅危惧種”のアンダースロー、DeNAの中川颯投手が6日、球団事務所で契約更改交渉に臨み、今季年俸650万円から246%アップにあたる年俸1600万円でサインした(金額は推定)。

 立大から2020年ドラフト4位でオリックス入りした中川颯だが、3年間で1軍登板はわずか1試合。故障などもあって2年目のオフには戦力外通告を受け、育成選手となった。3年目の昨年もチャンスに恵まれないまま2度目の戦力外通告を受け退団した。

 生まれ故郷の横浜市に本拠地を置くDeNAと支配下選手として契約を結んだ今季は一変、開幕から先発ローテ入りを果たし、後半は専らリリーフ。29試合(先発は6試合)3勝0敗1セーブ、5ホールド、防御率4.42の数字を残し、さらにクライマックスシリーズと日本シリーズでは大車輪の働きだった。

 とはいえ、心が折れそうな局面もあった。右肩の違和感で6月2日に出場選手登録を抹消され、復帰まで約2か月を要した時である。特に支えとなってくれたのは、遠藤拓哉メンタルパフォーマンスコーディネーターだったという。「怪我を治すことが第一でしたが、メンタル面で遠藤さんと話す機会を設けてもらい、そこで気持ちを上向きにして後半戦に復帰できたことが大きかったと思います」と感慨深げに振り返る。

 遠藤氏のアドバイスで、マウンド上での“セルフコントロール力”も向上した。「僕はもともと“0か、100か”という考え方をしてしまうところがありましたが、例えば登板直前にすごく不安を感じた時、『きょうの不安度は60%くらいだから大丈夫』というふうに、数値化することによって落ち着くことができました」と説明する。だからこそ、薄氷を踏む展開だったクライマックスシリーズと日本シリーズで、計6試合(6回1/3)無失点の活躍を演じることができたのかもしれない。

「日本シリーズで戦えなかった選手の気持ちがよくわかります」

 DeNAのチームカラーにも助けられた。「僕は自らコミュニケーションを取りにいくタイプではありません。だからこそ、周りの方からコミュニケーションを取ってくれて、誰かとつながっていられる環境や雰囲気が、一番よかったなと思います」とうなずいた。

 日本シリーズ制覇の瞬間、ビールかけ、そして11月30日の日本一パレードと、歓喜の場に身を置くことができたが、そこで中川颯の脳裏に浮かんでいたことが、実に味わい深い。パレードのオープンバスの上では、今季DeNAに在籍しながら1軍の戦力になれず、この場に立ち会えなかった選手たちの気持ちを考えていたという。中川颯自身、昨年まで3年間在籍したオリックスはリーグ3連覇していたが、1度も貢献できずに終わったからだ。

「僕自身が過去3年間その立場でした。日本シリーズで戦えなかった選手たちは、悔しさとか、もどかしさとか、いろいろな感情が入り交じった中でのチームの勝利で、すごく複雑な心境だったと思います」と述懐。「そういう選手の気持ちがわかりますし、(来季は)そういう選手とも頑張っていきたいです」と語った。

 苦しい3年間を経て、移籍をきっかけに開花した男は「拾っていただいたことを忘れず、横浜のために腕を振っていきたいです」とあくまで謙虚。26歳の野球人生のピークは、まだこれからだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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