伝説“サヨナラバスター”の真相 現役ドラフトで移籍の山足達也「小田さん頑張れ」
オリックスから現役ドラフトで広島に移籍の山足達也「バントは助け合い」
途中出場の難しさを知るからこそ、同じ立場の選手の成功がうれしい。オリックスは2021年。パ・リーグクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージで、小田裕也外野手(現育成担当コーチ)の“サヨナラバスター”で25年ぶりの日本シリーズ進出を決めた。劇的な場面を共有した4選手のうち、最後の現役選手となった山足達也内野手が、舞台裏の心理を明かした。
「途中出場の選手がヒーローになることなんか、なかなかないんで本当にうれしかったですね。僕は『小田さん、頑張れ』と、二塁にいただけです」。劇的な場面を、山足はいつも通り控えめに振り返った。
2021年11月12日に行われたロッテとのCS第3戦(京セラドーム)。2-3で迎えた9回、T-岡田外野手の右前打、安達了一内野手の左前打でつかんだ無死一、二塁のチャンス。二塁走者がT-岡田の代走、山足だった。途中出場の小田は、抑えの益田直也投手の初球をバントの構えから強振するバスターで右翼線を破る二塁打。山足が生還し、3-3の同点となった時点でロッテの日本シリーズ進出の可能性がなくなり、CS史上初の同点での“サヨナラ打”となった。
オリックスベンチの当初の作戦は「バント」だった。しかし、ロッテはマウンドに集まった内野手が守備位置に戻ったところで吉井理人投手コーチ(現監督)がマウンドへ。この様子を見たオリックスの作戦は「バスター」に変わり、小田が試合再開直後の初球をバスターで決めた。二塁走者としてこの間の状況を見ていた山足は、打者の視点で考えていたという。
「途中出場の選手が無死一、二塁の場面で打席に立てば、誰が見てもバントです。僕もそういう打席が多いのですが、バッターとすれば最悪です。ファーストなんか、もう目の前で構えているんです。そんな中で、抑えに出てくるスーパーピッチャーの決め球をバントで決めるのは、すごく難しいんです。バントというのは助け合いなんで、僕ができるのはバントを空振りしても飛び出さないことや、フォースプレーならちょっとでも速く行ってあげること。あとは『小田さん、頑張れ』っていう気持ちしかないんです」
「ホンマにうれしかったんで……。僕が1番に小田さんに駆けつけました」
祈るような気持ちでいる中で、サインは「バント」から「バスター」に変更された。「『小田さん、ラッキーやん!』と思いましたね。前にさえ転がせば、小田さんは足もあるし、二塁がアウトになっても1死一、三塁で最悪、オーケーじゃないですか? 小田さんは何でもできる人なんで、やっぱりうまいこといったという感じですね」と振り返る。
熱弁は続く。「ホンマにうれしかったんで……。僕が1番に小田さんに駆けつけました。あの時の映像を見てください」と今も興奮気味に話す。その劇的な場面を演出した4選手のうち3人は2024年で現役を引退し、今もプレーを続けるのは山足だけになってしまった。
「僕にとって、あの試合の持つ意味ですか? 別に何も変わりません。小田さんが打って、うれしかったという一日でした」
山足は、9日の現役ドラフトで広島への移籍が決まった。ユーティリティーで堅実な守備と状況に応じた打撃が高く評価されている山足だが「野球をやっている以上、しびれるような場面で打席に立ちたいんです」。職人気質の仕事人は、新境地で打者として輝く日を思い描く。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)