裏方転身で理解した「タイミング」 戦力外→異例の現役復帰にあったレジェンドの金言
ヤクルト戦力外→オリックスで打撃投手を務めた久保拓眞「こんなチームっていいな」
昨季はオリックスで打撃投手を務めていた元ヤクルトの久保拓眞投手が、球界現役最年長の石川雅規投手の金言と、オリックスで知った楽しい野球に刺激を受け、独立リーガーに“転身”し、再びNPBを目指す。
「気持ちよく打ってもらう仕事をやっていくうちに『タイミングだよ』という石川さんのアドバイスを思い出したのと、チームの成績に関係なく明るく楽しい雰囲気で野球をするオリックスの選手のみなさんを見ていて、また野球をしたいと思ったのがきっかけです」。退職後もオリックスの球団施設で汗を流す久保が、明るい表情で転身の理由を話してくれた。
久保は佐賀県出身。自由ヶ丘高(福岡)で2年夏の甲子園に出場、九州共立大でも4年秋に明治神宮大会に導いた左腕だ。2018年ドラフト7位でヤクルト入りし、2022年には中継ぎとして29試合に登板。初勝利も挙げ、防御率2.70でリーグ連覇に貢献した。2023年は5試合登板にとどまり、シーズン後に構想外となってオリックスにアシスタントスタッフ(打撃投手)として採用された。2025年からは「さわかみ関西独立リーグ」の堺シュライクスで投手として再出発する。
オリックスで初めて過ごした他球団での仕事。久保が驚いたのは、チームの明るさだった。「ヤクルトは家族的で居心地がよかったのですが、チーム状態が悪くなるとどうしても暗くなってしまいます。でも、スタッフとして別の角度から見たオリックスは負けが続いた時の円陣でもみんな元気で、キラキラと輝いて格好良く見えたんです。変な言い方ですが、こんなに楽しい野球もあるんだ、こんなチームっていいな、と思ったんです」。
故障もなく終えたヤクルトでの5年間。完全燃焼できなかったという思いが、オリックスで新しい野球に触れたことで改めて沸き起こったという。打撃投手を経験して、石川のアドバイスが理解できるようになった。同じ左の大エースからもらった言葉は「タイミングの大切さ」。だった。
「最初は気持ちよく打ってもらおうと思って打者に合わせて投げていたんですが、タイミングが取りずらそうだったので普通に投げたら、タイミングが合うようになって。逆に、タイミングを取らせないためにはどうしたらいいのか、考えることができたんです。現役の時は、抑えることに必死になってこういうタイミングの外し方がわからなかったんです。石川さんのおっしゃっていたことが、やっとわかったんです。バッピ(打撃投手)をしていなければ、気付けなかったことです」
最後にそっと言う。「現役引退後に母がぽつんと言った『もう1度野球をしている姿が見たかった』という言葉も、背中を押してくれました。選手としてオリックスに戻ってくるのが、僕の中で1番の理想です」。28歳の新たな挑戦が始まる。
(北野正樹 / Masaki Kitano)