失意の宇田川優希を“沼”から救った言葉 「シンプルに考えたら」…岸田監督の愛情

オリックス・宇田川優希【写真:北野正樹】
オリックス・宇田川優希【写真:北野正樹】

オリックス・宇田川優希「いろいろと悩んで考えて沼にはまったことが何度もあった」

 シンプルな言葉で“沼”から救ってくれた。育成選手から支配下選手登録をつかみ、日本代表にまで躍進したオリックス・宇田川優希投手の陰に、投手コーチだった岸田護新監督からのアドバイスがあった。

「プロなんだから甘い球はいけないなど、難しく考えていたんです。でも、マモさん(岸田監督)から『シンプルに思うように投げて自分の持っているものを生かしたらいい』と言っていただいて。その一言で気持ちは楽になりましたね」。宇田川がいつも通りの呼び名で、新監督からの言葉に感謝の気持ちを表した。

 宇田川は埼玉県出身。八潮高、仙台大から2020年育成ドラフト3位でオリックスに入団。2年目の7月までにウエスタン・リーグで15試合に登板、150キロ後半のストレートと鋭く落ちるフォークで防御率1.88の成績を残し、支配下選手に昇格した。4試合登板した日本シリーズでは無失点で1勝2ホールドと健闘、2023年のWBC日本代表に選出されるまでに成長した。

 ただ、順風満帆ではなかった。シャイで考え過ぎる性格。プロ入りしてからは「相手はプロだから」と難しく考え過ぎていた。「僕はいろいろと悩んで考えて、考えて沼にはまったことが何度もあったんです。甘い球を投げたら打たれてしまう、隅を狙わなければいけないとずっと頭にあったんです」。

「選手をよく見ている方です。日本一の監督にしたいと思います」

 そんな時、当時2軍投手コーチだった岸田監督が呼び出してそっと声を掛けてくれた。「真っすぐとフォークがあるんだから、コースを狙わなくていい。甘くなってもいいからファウルでカウントを進めて、フォークで三振を取ろう。シンプルに考えたらいいよ」。剛速球と三振を奪える伝家の宝刀があるのだから、マウンドから打者を見下せばいい、というの言葉に「長い間、プロで活躍したマモさんが言うなら、と意識は変わりました」と宇田川は心を決めた。

 プロ4年目の昨季は、コンディション不良から13試合登板にとどまった。成績不振とともに、宇田川の表情が晴れない期間も長かった。「プロの世界にいたら、誰もが通る道だよ」と背中を押してくれる一方で、厳しい言葉もあった。

「正解がわからず、練習に身の入らない時があったんです。マモさんから呼び出されて『WBCにも選ばれ、後輩もできた。後輩たちは球場に出てきたときの姿を見ているんだから、そんな態度を見せちゃだめだ。もう、そんな雰囲気を出すレベルの選手ではないよ』と」

 叱咤激励を受け、成長してきた。「1年目の育成時代から、選手目線で指導していただいた。僕が困った時に声を掛けるなど、選手をよく見ている方です。日本一の監督にしたいと思います」。2025年は恩返しのシーズンになる。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY