「私は何番でしたか?」女子部員がぶつけた思い 受け入れた役割…特支での忘れぬ夏

入場行進の練習をする都立青鳥特別支援ナイン【写真:編集部】入場行進の練習をする都立青鳥特別支援ナイン【写真:編集部】

野球初心者ながら入部した小山紫織さん、上達のはやさに監督は驚愕

 知的障がいを持つ生徒が通う都立青鳥特別支援学校が6日、西東京大会初戦に臨み、都立上水に1−22(5回コールド)で敗れた。特別支援学校として高校野球の地方大会に全国で初めて単独出場した昨年は、東村山西に0−66で5回コールド負け。単独出場2度目の夏は勝利こそ届かなかったが、チームとして着実な成長の歩みを見せた。

 ベンチから熱心な眼差しを送りながら、2025年夏の戦いを記録としてしっかりと書き留めたのが、1年生部員の小山紫織さんだ。

 小山さんが野球に興味を持ち始めたのは中学3年の時。野球部が練習する姿を見て「元気があって楽しそうだな」と感じ、進学後に野球未経験ながらベースボール部の門を叩いた。監督を務める久保田浩司先生は当初、男女で体力の差があること、部活がある日は帰宅時間が遅くなることなどもあり、「心配ではありました」という。だが、小山さんの意思は固く、家族の全面サポートもあり、晴れて入部が決まった。

 スポーツ経験も少ないというが、センスは抜群だ。守備練習では外野へのフライをしっかりと捕球し、打撃ケージに入ればマシンから放たれる時速100キロの速球をバットで見事に弾き返す。男子部員ほど遠くまでボールは投げられないかもしれないが、相手の取りやすい場所へ投げる基本は押さえている。大きな瞳を輝かせながら白球を追う姿に、久保田先生は「上達がはやくて驚いています。なによりも向上心が素晴らしく、一生懸命取り組む。技術面ではすでに男子を何人か抜いてますよ」と目尻を下げる。

1年生部員の小山紫織さん【写真:編集部】1年生部員の小山紫織さん【写真:編集部】

参加規程には「男子生徒」の文字…今夏は記録員としてベンチ入り

 19人いる部員のうち唯一の女子ではあるが、練習では男子と同じメニューを行い、誰にも負けないやる気をみなぎらせる。だが、日本高野連が定める「大会参加者資格規程」の第5条には、参加選手の資格として加盟校に「在学する男子生徒」と記されており、女子生徒の公式戦出場は認められていない。

「部活動はあくまでも教育の一環。教育者として、生徒が練習の成果を発表する場=公式戦に出られるよう働きかけたい」。久保田先生は5月下旬、東京都高野連に女子部員の公式戦出場許可を打診する手紙を送ったが、「予想通り叶いませんでした。でも、紫織がいる限りは働きかけ続けます」と力を込める。

 教師と生徒の出会いは「ご縁だと思うんですよ」と久保田先生。知的障がいを持つ球児にも甲子園を目指す機会が与えられるよう、長らく活動してきたが、女子の入部は想定外だった。「紫織と出会った“ご縁”で、初めて野球をしたい女子生徒が直面する壁に気付きました。今は女子野球部のある高校が増えましたが、男子に交じって野球をする女子もいる。やっぱり女子部員だって試合には出たいですから」と、全国にいるであろう女子部員の気持ちを代弁する。

 6月になり、レギュラー選手と背番号の発表をした。レギュラーになれずに悔し泣きをする男子部員が何人もいる中、小山さんは背番号のない「記録員」としてベンチ入りすることに。その時は与えられた“ポジション”を素直に受け入れたものの、後日、職員室へやってきて、こう聞いたという。

「先生、背番号をもらえていたら、私は何番でしたか?」

 久保田先生は「選手として試合に出られないことを実感したんでしょうね。何も言えませんでした」と声を落とした。

キャッチボールを行う小山紫織さん【写真:編集部】キャッチボールを行う小山紫織さん【写真:編集部】

中学まで不登校気味も現在は休まず登校…野球が「人生を変えた」

 公式戦にこそ出場はできないが、小山さんはベースボール部の部員として野球をする毎日が「めちゃ楽しいです!」と目を輝かせる。「私にとって“生きがい”と言っても過言ではありません。野球をするために学校に来ています!」の言葉通り、休まず登校。中学まで不登校気味だったというが、ベースボール部への入部は「人生を変えたと思います。野球を始めて、すべてが変わりました。家族にも『すごいね! 中学までと比べて変わったね』と言われます」と満面の笑みで声を弾ませた。

「選手として出たい気持ちはめちゃくちゃあります」と本音を隠さない。だが、西東京大会初戦は「今年はスコアラーなので、ちゃんと自分の役割をまっとうしたいです。そして、応援もしたいと思っています」と任されたポジションに責任と誇りを持って取り組んだ。

 小山さんの懸命な応援に後押しされ、青鳥特別支援学校は4回、相手のエラーも絡みながら貴重な1点を記録。今春の都大会に続く得点は、小山さんの手でしっかりスコアブックに刻まれた。いつかは私もあのグラウンドに——。野球部員として1年目の夏が幕を閉じた。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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