元中日ドラ1の危機感「すぐに終わると思った」　出場機会減を覚悟…仰天直訴に父との“約束”

荒木雅博氏はプロ3年目にスイッチに転向した

　元中日内野手の荒木雅博氏（野球評論家）は通算2045安打を放った右打者だが、過去にはスイッチヒッターに挑戦した時期もあった。プロ3年目の1998年シーズンから「自分発信でやりたいと言いました」。前年（1997年）に1軍デビューを果たし、63試合に出場したが「このままじゃ、ここでやっていけないって、たぶん、どこかで感じていたんだと思います」。3年目は右打席を封印してまで左打ちに取り組んだ。

　熊本県立熊本工から1995年ドラフト1位で中日に入団した荒木氏は、それまで同様にプロでも練習の継続を心掛けた。「あの頃は寮で（午後）6時半頃から食事をして、8時くらいからは練習していました。寮にいるときは、それが毎日でしたね」。ちょうど1軍のナイターが行われている時間帯で、ほとんどの選手が勉強のために野球中継を見ていた中で、黙々とマシン打撃などで汗を流していたという。

「僕は野球を見るよりも、自分で野球をやりたかったんでね。（2軍首脳陣から）『あれ、見たか』って次の日に言われたりすると『いや、見てないです』と答えていました。『お前、“野球見ろ”って言ったやろ』って怒られても『すみませーん』ってね」。とにかく練習第一。「プロ野球って、これでお金をもらっているんじゃないの、って常に思っていた。だから夜も練習するもんだと思っていたんですよ」。

　そんな自身の継続練習について、こう話す。「1日100本振るとか、200本振るとか、僕は絶対これだけやるって（数字の）目標を決めない。1日1回バットを握るというのが僕の決めごとなんです。たとえ熱が出てもバットを握ったら、それで継続。200本とか決めていると風邪引いて1日休んだとかした時に“1日休んだから、またあと何日か後に始めよう”とかになる。僕は続かないことをしたくないので、必ず1日自分ができることだけを目標にしていました」。

　そのやり方がよかったという。「（練習）時間も決めていませんでした。早く終わっても1回やれば、やったことにはかわりないんでね」。結果、継続していくことで、自然と練習量も増えていったようだ。「練習をやらないと気持ち悪くなりました」。そのスタイルで練習を重ね、高卒2年目には1軍で63試合に出場するまでになった。遊撃、二塁、中堅、左翼を守り、代打もスタメンも経験し、12盗塁も記録した。

自ら希望「このままでは1軍ではやっていけない」

　だが、同時に芽生えたのが危機感だったという。「このままでは絶対無理、1軍ではやっていけないって、どこかで感じたんだと思います。何かを変えなきゃいけないってね」。そこで取り組み始めたのがスイッチヒッターへの挑戦だ。「自分で“やりたい”と言ったんです。“やれ”と言われたといわれているみたいですけど、結局は自分発信だったんですよ。2年目が終わったくらいで（1軍戦力として）頭数に入れられていなかったので、やらせてくれたんですよね」。

　それまでに左打ちの経験はなかったそうだが「右ピッチャーを打てなかったら、じゃあ、左にしてみようかって思った。右ピッチャーを右バッターで打てないんだったら、左で打ってみようかなっていう感じでね。それで“やらせてもらえますか”と言ったんです」。もちろん、最初からうまくいくわけがない。「やっぱり右で打てなかったら、左でも打てんなって思っていたくらいですからね」と苦笑する。でも、簡単に諦めないのも荒木氏の継続する力だろう。

　3年目の1998年シーズンは右打席を封印した。「左ピッチャーが相手でも左バッターで、左だけやらせてくださいと言いました」。試合出場が減るのは覚悟の上だった。「ここで2、3年駄目だったとしても、今のうちにいろんなことをやって、何か確固たるものを作って1軍に殴り込まないと、すぐに終わると思ったんです」。

　荒木氏はプロ入りする際、父・義博さんに「5年やって駄目なら帰ってくればいいじゃないか」と言われていたという。「その代わり“あそこでああやっておけばよかったなと思うことだけはやるな、あそこで練習しておけばよかったと絶対思わないように、これだけやって駄目だったらしょうがないって感じのところまでやってこい”ってね」。

　スイッチヒッターへの挑戦もやれることをやろうと思ったからこそ。結果的にはプロ6年目（2001年）に右打ち専念となるが、荒木氏は「右だけになった時、楽だなぁと思いました」と”スイッチ経験”も右の打撃力アップにつなげている。通算2045安打をマークしたレジェンドにとって、振り返ればそれもまた欠かせない時期だったのかもしれない。

（山口真司 / Shinji Yamaguchi）