日ハムのカギ握る21歳右腕「俳優やモデルにしても」　MVP捕手がベタ惚れ…よぎる優勝の“前兆”

中尾孝義氏、日本ハムの達は「優勝する時に出てくる」存在になり得る

　オールスター戦が終わり、プロ野球は後半戦を迎える。パ・リーグは去年2位の日本ハムが首位に立ち、リーグ連覇を狙うソフトバンクは2ゲーム差の2位につける。中日でMVPを獲得するなど巨人、西武と3球団で名捕手として活躍した野球評論家・中尾孝義氏は「ファイターズは勢い、ホークスは地力がある。勢いと地力の対決」と2チームのマッチレースとなる展開を予想する。

　日本ハムは前半戦だけで貯金21。万波中正、五十幡亮汰の両外野手、清宮幸太郎内野手らを中心に溌溂とプレーしている姿が目立つ。中尾氏は「若い選手が育って出てきますよね。野手だけでなくピッチャーも。チーム全体が楽しそうに野球をやっている。ふざけて、ニヤニヤとかとは違う。本当に楽しそう。新庄（剛志）監督が選手をその気にさせる、乗せるのが上手なんでしょう」と印象を語る。

　中尾氏は新庄監督が就任した頃を回想する。阪神でスカウトを担った経験があり、日本ハムの大渕隆スカウト部長と話す機会があった。「大渕君は『今のチームじゃ厳しい』と不安も口にしていたので、『でも2～3年経った時に選手がどんどん伸びていく可能性があるよ』と言った。本当にそうなった。監督だけでなく、コーチも教え方がいいと思います。大したもんです」。2年連続最下位から昨年はクライマックスシリーズ（CS）進出。そして4年目の今季の充実ぶり。チームを変身させた新庄体制を絶賛する。

　ここまでの日本ハムの最大の魅力は完投数。12球団で断然トップの19を誇る。エース伊藤大海、北山亘基、金村尚真の3投手はいずれも4完投をマークしている。中尾氏はこの数字に新庄監督の“深謀遠慮”を感じ取る。

圧倒的な完投数…新庄監督は「頭の中に描いていた」

「夏場までに完投数がこれだけ多いという事で、後ろのピッチャーを凄い温存できました。これからが勝負どころ。暑くなってきた時、リリーフが体力的に楽になって迎えられる。新庄監督はキャンプ、シーズン当初から頭の中に描いていたと思いますよ。選手に『先発は絶対完投しろ』と練習させるか、『5回まででいいよ』とでは違いますから」

　1球の重みが増してくる優勝争いの中、満を持して救援陣を送り込めるのだ。

　高卒4年目の達孝太投手は無傷の6勝。昨季プロ初勝利の新鋭が一気に台頭してきた。「いいボールを投げますよね。俳優やモデルにしてもいいぐらいの男前で、スター性を感じます」。中尾氏は自身の現役時代の体験から達が“優勝パターン”の存在になり得ると見る。中日時代の1982年、前年に規定投球回に初めて到達した都裕次郎投手が16勝とブレーク。巨人移籍1年目の1989年は伸び悩んでいた斎藤雅樹投手が20勝。ともに優勝の立役者を演じた。「優勝する時って、必ず誰かそういう選手が出てくるんですよ」。

王者ソフトバンクは「やっぱり層が厚い」…巻き返しへ周東、柳町に注目

　ソフトバンクは、昨シーズン王者の底力を発揮してきた。5月1日には借金7で単独最下位にまで沈んでいた。そこから巻き返し、今季最長の6連勝で前半戦を締め括り貯金を17にまで増やした。「柳田（悠岐外野手）ら怪我人が出て、山川（穂高内野手）も状態が良くなかった。それでも近藤（健介外野手）が戻って、力のあるメンバーが揃ってきました。やっぱり層が厚いです」と前半戦を分析する。

　中尾氏は左打者2人に注目する。昨季初めて規定打席に到達した周東佑京内野手は打率3割を超す。持ち味の俊足も変わらず25盗塁でリーグトップに並び、3年連続のタイトルに向けて視界良好。柳町達外野手は交流戦ではMVPに輝いた。「ソフトバンクはこれまでも左打者でいい選手が多い。先輩の左バッターを見る事ができる。こういう風にやったら打てるんだな、とか自分の目で学べる。だから次々と育ってくるんじゃないでしょうか」。

　中尾氏はスカウト時代、周東の東農大二高（群馬）でのプレーを視察している。「足はメチャクチャ速かった。でも打撃は全然でした」と回想する。大学を経て育成枠でソフトバンク入りし、飛躍を遂げた。「体幹の力が付いてきて、ウィークポイントが少なくなりました」と球団の育成力を評価する。

　両チームは直接対決でも、ソフトバンクから見て7勝6敗と拮抗する。果たして優勝の行方は。中尾氏は「うーん……」と悩みつつ、「日本ハムの方が打線がつながるし、ピッチャーも完投能力があって、後半戦はリリーフもどんどん投入できます。ファイターズが少し有利かなぁ」。

　3位のオリックスも貯金8。パ・リーグの上位争いは、さらにヒートアップしそうだ。

（西村大輔 / Taisuke Nishimura）