飛び交った“誹謗中傷” 屈辱の無期限の活動休止も…甲子園実現に「やってよかった」

太田幸司氏は現役引退後、女子プロ野球のスーパーバイザーに就任
“元祖甲子園アイドル”で、元近鉄、巨人、阪神でプレーした太田幸司氏は、1984年の現役引退後、再びユニホームを着ることなく、外からプロ野球を見続けている。「伝える側に面白さ、魅力を感じたんです」。過去にはコーチとして誘う球団もあったが、あえて全て断って、現在も野球評論家として活動中だ。その間にはスポーツキャスターとして人気を博し、女子プロ野球のスーパーバイザーも務めた。
現役生活を阪神で終えた太田氏は当時を思い起こしながら「解説者になるとき『解説をやっている間に阪神の優勝を1回は見たいね』なんて冗談で言っていたら、(解説者)1年目に優勝だもんね」と笑みを浮かべた。1985年の阪神は、ランディ・バース内野手、掛布雅之内野手、岡田彰布内野手の強力クリーンアップを擁して、1964年以来21年ぶりのリーグ制覇と、2リーグ制になってから初の日本一に輝いたが、正直、驚いたという。
「(自分が在籍した)前の年(1984年)とほとんど同じメンバーだったしね。僕はバースにも紅白戦で投げたけど、その時はまだそんなにね……。(1985年に)解説になってキャンプ巡りして、高知で阪急の練習を見たらパカンパカン。安芸に行って阪神の練習を見たらポッスン、ポッスンで、なんだこれは、って。それがその年に優勝。掛布らがいたわけだけど、どうなっているのって思いましたよ」
そんな阪神Vの年から太田氏の”第2の野球人生“はスタートした。「辞めて何年かは現場にもう1回という気持ちも十分にありましたけどね。途中からいろんなことをファンに伝える側に魅力を感じ出して、これでやろうと思うようになったんです」。再びユニホームを着るという気持ちはどんどん薄れていった。「『ピッチングコーチをする気はないか』とか、いろんな方から声をかけてもらったんですけど、その時は(スポーツキャスターとして)番組もやっていましたしね」と断り続けたそうだ。
「僕自身、かつて、こんなニュアンスで言ったつもりはないんだけど、(マスコミに)違う書かれ方をしたりとか、嫌な時期があったんです。だから、やっぱり伝える側っていうのは、ちゃんとやらないといけない、ちゃんと伝えようみたいな……そういう思いもあってね」
青森・三沢高時代の1969年夏の甲子園決勝、松山商戦では延長18回、0-0引き分け再試合の大熱投で人気を博した。甘いマスクに女性ファンが熱狂した「コーちゃんフィーバー」は、社会現象にもなった。そんな人気を背負い、プロ生活に突入した太田氏にしか分からない世界がいくつもあったことだろう。伝えられる側から伝える側に立場が変わり、新たな使命みたいものも感じたようだ。

甲子園でレジェンド始球式に登板「すごく緊張しました」
2009年には日本女子プロ野球機構のスーパーバイザーに就任し、広報的な役割も果たした。残念ながら、2021年12月に同機構が無期限の活動休止となり「今は阪神も巨人も西武も、女子野球チームを持っていますが、自分らはちょっと早く行き過ぎたのかなっていうところはありますよね。目標としてはまず、女子プロ野球(発足)をきっかけに盛り上げて、底辺が広がればということだったんですけどね。だけど、いろんな誹謗中傷というか、そんなのも結構あったりとかでねぇ……」と何とも言えない表情で振り返った。
それでも、そんなアクションを起こしたことで、女子高校野球の全国大会決勝が甲子園球場で行われるようになるなど、現在につながっている。目標通り、当初よりも女子野球は広がりを見せており、その発展に貢献したのも間違いない。「そう思ってもらえれば、我々もやってよかったなってなりますけどね」と、太田氏は話した。
2018年夏、第100回全国高等学校野球選手権記念大会では、大阪桐蔭(北大阪)と金足農(秋田)の決勝戦で、太田氏はレジェンド始球式を行った。「あの時の金足農は、自分らの時の三沢高を彷彿させるような……。(エースの)吉田輝星(現オリックス)もいろんな(高校から)スカウトが来ていたみたいだけど、地元の仲間とやりたいから金足農に入ったって、何か自分を思い出すような、ね」と感慨深い思いで投げたという。
「プロの取材でよく甲子園に行くけど、久しぶりにマウンドに立ったら、(1968年の三沢高2年夏に)最初に甲子園に出た時みたいに膝がカクカクして……。すごく緊張しました。プロがやる甲子園と、高校野球をやっている時の甲子園は違うなと改めて感じましたね。そういうところに決勝戦で呼んでいただいたというのは、本当に高校野球をやっていてよかったというか、最高の栄誉だなと思いましたよね」
現在も毎日放送のラジオ解説者を務める。「今はどっちかというとパ・リーグ。オリックス-ソフトバンク戦の九州送りとか、オリックス-日本ハム戦の北海道送りとかの放送をやらせてもらったりしています。試合がない時は、その枠で吉本興業の野球好きの方々と、ちょっとおしゃべりさせてもらったりとかもね」と、野球の魅力を“伝える仕事”に全力投球中だ。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)