侍Jの“頭脳”が明かす「2択」の難しさ 僅かな数値でも…反省から学んだ逆転の発想

侍ジャパン・若月健矢【写真:Getty Images】
侍ジャパン・若月健矢【写真:Getty Images】

志田宗大氏はセ・リーグ3球団と日本代表でデータ分析を担当

 確率が高い方ばかりに目を向けるのではなく、低い方にも注目することを心がけてきた。第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開幕し、野球日本代表「侍ジャパン」を含め、出場各国が熱戦を展開している。2017年のWBCなどで、侍ジャパンをスコアラーとして支えてきた志田宗大氏は現在、スポーツのデータ分析などを行うライブリッツ株式会社に勤務。データの世界で生きるなかで、心がけてきたことを明かした。

「最初にスコアラーのお話を頂いた時は『大変な仕事がきたな』と思いました。他のスコアラーさんを見ていたら、やることが多そうでしたし、夜遅くまで仕事をされていましたので『自分にできるのかな?』と不安はありましたね。でも1度きりの人生。チャレンジしてみたいとか、今までとは別のことを見てみたいという好奇心の方が上回りました」

 スコアラーの仕事は多岐にわたる。自チームを含めた選手のデータを収集して分析。膨大なデータの中から対戦相手の傾向を割り出し、チームの戦略や選手のパフォーマンス向上につなげる。首脳陣や選手との情報共有や意思疎通はチームの勝利を左右するだけに、コミュニケーション能力も求められる。

 ヤクルトで9年間プレーした志田氏は、2010年に現役を引退。翌2011年からヤクルトで7年間スコアラーを務めた。2015年のプレミア12でも侍ジャパンのスコアラーを務めるなど、日本代表でも能力を発揮。2017年WBCのベスト4進出に貢献し、2018年に巨人へ移籍すると、スコアラーとして7年間で3度のリーグ優勝に貢献。昨年は中日でゲーム戦略アナリスト兼コーディネーターを担った。

 膨大な情報を抱える“チームの頭脳”として15年間活動。能力の高さを多くの球団から評価された証だが、情報管理の問題もある中で、同一リーグで3球団を渡り歩いたキャリアは異例とも言える。

「NPBは選手を含め、一度所属した球団に長くいるのが基本的なスタンス。継続して仕事ができてキャリアアップできることは素晴らしいことです。一方で、活性化があってもいいと思っていました。世間的にも、転職して別の場所で仕事するのは珍しいことではなくなってきている。自分も、そういう人生でもいいのかもしれないと思った部分があります。好奇心とか次へのステップという気持ちが強かったです」

侍ジャパンのスコアラーも務めた志田宗大氏【写真:本人提供】
侍ジャパンのスコアラーも務めた志田宗大氏【写真:本人提供】

「確率が低い方に目を向ける分析者でありたい」

 3球団に加えて日本代表でも仕事をしてきたが、「ああしておけば良かった」など反省の方が圧倒的に多いという。データは、単に分析するだけでは生かされないことを痛感させられた日々だった。「確率を求めて、確率で語る仕事ですけど、確率が高い方を取ったからといって、野球は必ずしもそのことが起きるわけじゃない」。

 例えばカウント2-2でスライダーを投げる確率が8割の投手と対戦した場合、別の球種が来る可能性も2割ある。アウトカウントや、走者がいるかいないかの状況によって対応が変わってくる。「スポーツには確率が低い方が起きることも多々あるという側面があります」。100%ではない限り、何が起こるか分からないのである。

「何か2つの選択をジャッジする時、どうしても人間なので確率の高い方を選んでしまう。でも、それは簡単ですし、誰でもできます。少ない方にいかに目を向けられるか。そこは分析者として、能力が問われると思っています」

 プロの世界では、打撃は3割打てば一流と言われる。逆に言えば、一流選手でも7割は失敗するとうわけだ。「確率論で言ったら、実は失敗の方が多い。いろんなデータを見た時、確率が低い方に目を向ける分析者でありたいなとずっと思っていました」。それが侍ジャパンでも大きな役割を担った志田氏の矜持である。

 難しいシチュエーションを迎えれば、裏をかこうという思惑も働く。普段とは違うことが起こる可能性が高まる。データ収集と分析の重要性が増している現代の野球で、低い確率の事象に、いかに目を光らせるか。大事な局面でこそ、広い視野が生きてくる。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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