焦り叫んだ筒香「違う!右投手が投げてる!」 9年前の苦い記憶…WBC準決勝での「自分史上最大の失敗」|専門家の眼

2017年の侍ジャパンは準決勝で米国代表に敗れた【写真:アフロ】2017年の侍ジャパンは準決勝で米国代表に敗れた【写真:アフロ】

2017年WBCで侍ジャパンのスコアラーを務めた志田宗大氏

 国際大会ではセオリーを頭から切り離すことも必要になる。第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は4強を決める戦いに突入。野球日本代表「侍ジャパン」は14日(日本時間15日)にベネズエラとの準々決勝を迎える。

 データの収集や分析、活用が重要さを増す大舞台。2017年の第4回WBCで侍ジャパンのスコアラーとしてチームを支えた志田宗大氏が、同大会での苦い思い出とともに国際大会でのスコアラーの難しさを明かした。

「NPBや日本国内でやっていると、例えば試合の終盤のピンチで、左の強打者に対しては左の救援投手を投入するなどの固定観念やセオリーというのが、どうしてもついてくるんです。でも国際大会は全く違います。固定観念やセオリーを払拭しないと、大きなミスにつながるのは間違いない」

 ヤクルトで9年間プレーした志田氏は、2010年に現役を引退。翌2011年からヤクルト、巨人でスコアラーを務めた。昨年は中日でゲーム戦略アナリスト兼コーディネーターを担当。現在は、スポーツのデータ分析などを行うライブリッツ株式会社に勤務している。データの世界に身を置く中「もう取り返せないんですけど、自分史上最大の失敗がありました」と2017年WBCでの出来事を振り返った。

2017年の第4回WBCで侍ジャパンのスコアラーとしてチームを支えた志田宗大氏(中央)【写真:アフロ】2017年の第4回WBCで侍ジャパンのスコアラーとしてチームを支えた志田宗大氏(中央)【写真:アフロ】

 侍ジャパンは1次ラウンドでキューバ、オーストラリア、中国を撃破。2次ラウンドもオランダ、キューバ、イスラエルを破って無傷の6連勝で決勝トーナメントに進出した。迎えた米国との準決勝。「事実上の決勝戦」とも言われたドジャースタジアムでの大一番は、手に汗握るロースコアの熱戦となった。

 4回に米国が1点を先制。侍ジャパンは6回に菊池涼介内野手のソロ本塁打で同点に追いついた。1-1のまま終盤に突入。8回、米国に再び1点を奪われ1-2で迎えた、その裏の攻撃だった。2死二塁から3番・青木宣親外野手が四球を選んで好機が拡大。長打が出れば逆転の場面で、4番・筒香嘉智外野手が打席に向かった。

「ドジャースタジアムの三塁側ベンチからも、右翼後方のブルペンが見えていました。右投手と左投手が投げているのが分かるんです。投げ方を見ていると、米国の有名なセットアッパーである右横手投げのパット・ニシェク投手でした。左はジェイク・マギー投手。青木選手が四球で出ると(米国の)ジム・リーランド監督が出てきて、投手の交代を告げたんです」

左腕が登板すると予想、狙いはスライダー「ゴウ君だったら絶対に仕留められるから」

 その時点でマウンドにいたのは右腕のマーク・マランソン投手。左の主砲・筒香を迎えた場面での投手交代なら、左打者から球の出どころが見やすい右横手投げのニシェクではなく、逆に球の出どころが見えにくくて打ちにくい左腕のマギーが来ると考えるのが自然の流れだった。「ブルペンを見ていたので、準備はできていました。左のマギー投手が来たと思いました」。

 投手交代が告げられた直後、ネクストバッターズサークルにいた筒香はベンチに戻り「志田さん、誰が来るんですか?」と聞いてきたという。「マギーが来る。真っすぐとスライダーが武器」と伝えると「どんな感じの投手ですか? 何を狙いましょうか?」と相談された。

「スライダーは絶対くる。スライダーを狙おう。だけど、ベースの真ん中から曲がったらボールになる。狙うのは内角から曲がってくるスライダー。そこだったらゴウ君だったら絶対に仕留められるから。それだけ待っていい。ベースの真ん中から外側は捨てていいから」

8回の好機で右飛に倒れた侍ジャパン・筒香嘉智【写真:アフロ】8回の好機で右飛に倒れた侍ジャパン・筒香嘉智【写真:アフロ】

 筒香を「ゴウ君」と呼んでいた志田氏は、そう言って送り出し「筒香選手も納得した顔をして、勝負をかけにいったんです」と振り返る。大事な局面が続くだけに、動きは慌ただしくなる。次打者の右の大砲・中田翔内野手に対してはニシェクが投入されると読み、中田とニシェク対策を話し合っていた。

 その時だ。「筒香選手が『志田さん、違う! 右投手が投げてる!』と慌てて戻ってきたんです」。マウンドに立っていたのはニシェク。マウンドに向かっている最中はすでに中田と話を始めており、姿を確認していなかったのである。

 筒香から「何を投げる投手ですか?」と聞かれて「真っすぐとスライダーとチェンジアップ!」と答えたものの動揺は隠せない。「何を狙っていきますか?」との質問には「時間がないから『ゴウ君、それよりも投手を見てくれ! タイミングをとってくれ!』って言ったんです」と当時を回顧した。

 だが、時すでに遅し。ニシェクの投球練習は最後の1球を終えていたのだ。再び「志田さん、どの球種を狙いますか?」と聞かれ「スライダー」と答えた。「確率が一番低かったのが、チェンジアップでした。真っすぐとスライダーで、70~75%を占めていたんです。4番だし、とっさに僕は変化球だろうと思ったので、スライダーと言ったんです」。

 ニシェクの初球はチェンジアップで、筒香は完全にタイミングを外されて空振り。「『うわ~っ! そりゃあ初見じゃ難しいよな、あのチェンジアップは』と思いました」。2球目は直球をファウル。あっという間に追い込まれたが「2球種を見られたことは救い。今の筒香選手なら、何とかしてくれるんじゃないかなと、かすかな期待を持って見ていたんです」と振り返る。

 迎えた3球目は初球で全くタイミングが合っていなかったチェンジアップ。「見事にアジャストしたんです。ベンチから見て、筒香選手らしい放物線で打球が上がったんです。逆転3ランだと確信しました。でも、結果は平凡な右飛。後で映像を見たら、バットの芯から1センチぐらいズレていました」。絶好機を逃した侍ジャパンは、そのまま1-2で敗れた。

国際大会の難しさを痛感「思い込みで決めつけてしまった」

「一番の後悔というか、教訓というか……負けたことももちろんあったんですけど、WBCの準決勝、しかも相手は米国という最高の場面でなぜ私は焦ったのか。何でもう少し冷静になって確認できなかったんだろうなと思ったんです。ただの自分の思い込みで、左のマギー投手と決めつけてしまった。今でもそれは悔やんでいます。国際大会の難しさでいうと、普段の固定観念やセオリーを捨てなきゃいけないというところになると思います」

準決勝で侍ジャパンを下し喜ぶ米国代表(2017年)【写真提供:産経新聞社】準決勝で侍ジャパンを下し喜ぶ米国代表(2017年)【写真提供:産経新聞社】

 この話には続きがある。後日、米国メディアの記事を読んだ志田氏の目に入ってきたのはリーランド監督のコメント。「ニシェク投手をあそこで投げさせるのは決めていたとコメントしていました。ただ、ニシェク投手は、右打者相手だと思って登板していたんです。『エッ?』『何で左打者なんだ?』って思ったというコメントが残っています」。

 米国ベンチの伝達ミスだったのか、ニシェクの勘違いだったのか、真実は定かではない。「いろんなことが交差して、勝負の際のところで、そういうことが起きたんです」。残ったのは後悔の念。「あそこまでは完璧でした。どの投手が投げて来るか、思った通りだったんです。おごりもあったのかなという気もしています。それで最後の大事な場面で、そういうことが起きました」。

 国際大会では、国内での試合では想像もできない事態が起こることがある。「何が起こるか分からない。普段セオリーだと思っていることに目を向けすぎると、痛い目に遭います。セオリーは通用しません」。志田氏にとっては苦く、忘れ去りたい思い出。ただ、今後の侍ジャパンにとっては、決して忘れてはいけない考え方である。

⚪志田宗大(しだ・むねひろ)
ヤクルトの外野手として9年間活躍した後、2011年からヤクルトで、2018年からは巨人でスコアラーを歴任。2017年のWBCでは、侍ジャパン(日本代表)のスコアラーとして選手たちの活躍をデータ面から支えた「分析のスペシャリスト」。2026年にライブリッツ株式会社に入社。過去の経験を活かし、データを元に野球指導を行う「FastBall」を担当。

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